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スタートアップのIP!Q&A #1商標権について

連載記事

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許業務法人の澤井弁理士が解決していく新コーナーです!この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

記念すべき第一回目のお悩みは「商標権について」。

とあるスタートアップにお勤めのメディア運営者Nさんからの相談です。

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

Nさん メディア運営者

Nさんのお悩み

スタートアップでウェブメディアとECサイトの担当をしています。それぞれのサイト名の商標を取ろうと思っているのですが、取るべきタイミングや取り方について悩んでいます。

サイト名の商標を取りたいのですが、商標は自分ひとりで取れるものなのでしょうか?

ご自身で商標登録出願することはもちろんできます。書類を書いて窓口に持っていくやり方の他、オンライン手続きなどもあります。実際に自分たちで商標登録出願をしている企業もありますよ。特許事務所を介さずとも、出願や様々な特許の手続きを取ることが可能です。

知人が自ら商標登録出願したものの、他社との類似性があることから取得できなかったという話を聞きました。そのような事にならないためには何を気をつければ良いのでしょうか?

商標を出願する際に、二つ決めなければならないことがあります。一つは標章で、ロゴやサービス名などの名前です。ロゴの場合は、出願前にロゴ画像の準備が必要です。もう一つは指定商品、指定役務を決める必要があります。そのロゴや名前を、どの商品やサービスに使うのかをが指定して書く必要があるためです。しかし、指定商品や役務を漏れなく正しく指定できているかを判断するのはが、なかなか個人では難しいと思います。


特許庁は、どの商品や役務が互いに類似しているかを示す類似群コードを公開しており、指定商品と指定役務が似ているかどうかの判断は、基本的には類似群コードに基づいて行います。ただし、特許庁が指定していないような独特な指定役務などを書いて出願してしまうと(出願することは可能です)、どの指定商品や指定役務と類似しているかが判断が難しいという問題も出てきます。その他、指定商品や指定役務の書き方なども細かく決まっているため、場合によっては指定商品や指定役務が不明確とされたり、区分(商品や役務のカテゴリごとに分けられている)が違っていたりすることもあるのです。個人で出そうとすると、そこの判断がつきにくいおそれもあり、うまく権利が取れない可能性もあります。

個人で商標を取るとそのようなリスクがあるのですね…
専門家の先生に相談するとしたら、どのタイミングなのでしょうか。

可能であれば、出願の段階から弁理士などの専門家に見てもらったほうがいいと思います。出願後に特許庁が審査し、登録できない場合は拒絶理由通知が発行されるのですが、その段階から専門家が入っても一度出願を終えた後だとどうすることもできないケースが圧倒的に多いのです。商標は出した後に内容を変えるということがほとんどできず、削除するか、審査官に対して反論するかの二択しかありません。そうなると出し損になるケースもあります。また、商標登録出願は、実際にその名前やロゴを使用する(世間に公開する)前の段階でなるべく出しておいたほうが良いと思います。他人に同じ名前やロゴを勝手に出願されて、登録になってしまうと自分たちが使えなくなってしまうためです。

出願前に、他ですでに似たような商標が出されていないかをどうか調べる方法はありますか?

例えば特許庁の提供している商標の検索サイトがあるので、自分が出そうとしている商標名を入力して、それと同じ呼び方をするものを探すこともできます。他にも、最近はCotoboxなどをはじめとした商標のAI検索サービスなどもあるので、そのようなものを活用するのも良いかと思います。ただ、より正確な調査を行って確度をあげてい場合は、やはり弁理士や調査会社に相談するのが一番よいかと思います。

出願した商標について特許庁から拒絶理由が通知されたのですが、どのように対応すればよいでしょうか?

基本的には、まず弁理士から拒絶理由に対する応答方針について相談があると思いますので、まずどういう状況であるかを説明してもらうのがよいと考えます。拒絶理由と言っても内容は様々で、単なる誤記を解消すればOKなものから、識別力がないという指摘や、既に登録されている他人の商標に類似しているなど、拒絶理由の解消が困難なものまであります。ケースバイケースですので、まずは弁理士に相談し、事業と商標との関係性をふまえて、どう対応するかを協議するのがよいと思います。

メディア運営の他にECサイト運営もしているのですが、以前「指定役務」で記載されている指定役務は使用しないのではないかと特許庁から指摘を受けたことあります。

これは少し特殊な拒絶理由で、ECサイトなどで小売を行う事業者の商標の審査でよく目にします。ECサイト関連のサービス、物を売るためのウェブサイトなどは「○○の小売または卸業務に対して行われる顧客に対する利益の営業」という指定役務を記載することがあります。その場合に、一つの商標出願に対して二種類以上の類似していない製品や商品に関する役務を指定した場合は、本当に使用するかどうかの疑義があるとして、形式的に拒絶理由が通知されます。

「指定役務」に記載されていない役務を行っている場合は、商標は保護されないのでしょうか?

願書に記載されていない役務以外の役務を行う場合は、その役務については先に出願している商標だけでは保護されない可能性が高いです。この場合、役務を指定し直して別途出願する必要があります。つまり、今事業でやっていることに合わせて指定役務を変えて出し直す必要があります。

事業が進むにつれて取り扱う商品が増えたり変わることもあるかもしれません。そのような可能性がある場合は初めから指定役務を広く取っておくのが良いでしょうか?

本当はできれば広めにとっておいたほうが良いかと思います。例えば、会社の登記簿には定款を記載していると思うのですが、それに沿った指定役務を出願するのも良いと思います。ただ、なんでもかんでも指定役務として記載してしまうと、コストがかかってしまいますう。指定商品と役務は1~45までの区分で別れていて、区分の数ごとに、出願時、登録時および更新時に課金されてしまうのです。予算に余裕があれば最初から広くとっても良いかと思いますが、知財予算がない場合は最初の事業だけを確実にとっておき、その後、事業が多角化していくのに合わせてもう一回商標を別の指定役務で設定して出し直すという感じで、都度商標の権利範囲は確認しながら増やしていく方法が良いかと思います。

さらに詳しく知りたい方は、弊所(One ip特許業務法人)までお気軽にご連絡いただければと思います。
また、以下の本も参考になりますので、おすすめです。 経営者目線で、商標出願の必要性やどんな商標を出すのが良いのかなどを解説しています。

 

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は2月5日(金)に公開予定です。お楽しみに!



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