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スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #5

連載記事

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One ip 特許業務法人の弁理士・澤井周さんの連載第二弾!前回の連載では「スタートアップのIP経営」について、知財戦略の考え方や特許取得にかかる費用などIP経営の基礎をご紹介してきました。今回の連載は、基礎から一歩ふみこんだ実践編。スタートアップ経営者が知財を戦略的に有効活用するための思考の整理方法や出願への具体的な進め方をご紹介します。今回は最近話題の意匠権について解説していきます。今回は外国への出願についてお話を伺いました。

澤井さん profile

弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。

スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #4

≪第一弾『スタートアップのIP経営』に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは

【最新の連載はこちら】

特許は国ごとに権利が発生する

スタートアップは、外国で権利を取る必要はあるのでしょうか?

スタートアップが外国出願する際は様々な観点から検討する必要があります。まず初めに考えなければいけないのが、例えばアメリカや中国等の外国で事業展開するかどうかです。開発したプロダクトを外国で展開する際、そのプロダクトをその国で特許により保護したい場合は、事業展開する国でも特許を取得する必要があります。日本で出願しただけでは日本の中でしか特許権利が取れません。「属地主義」と言って、特許は国ごとに権利が発生するので、特許を取得する場合は、必要な国で特許を出願することが必要です。

出願するのは事業展開する国のみで良いのでしょうか。

業界にもよりますが、どの国でプロダクトを製造・販売したり、サービスを提供するかで考えることが多いと思います。例えば製造業の場合、単にマーケットを見るだけではなく、調達・製造・販売のサプライチェーンの中でどの国をおさえるかという観点も重要になることがあります。例えばベトナムで製造したものを中国で売る場合、中国だけではなく、生産国であるベトナムで模倣品が作られたり流通したりしないように、特許を取得しておいた方がリスクは下がると考えられます。製造の中でノウハウが流出し、現地の代理店が勝手に商品を販売したりするということもあり得るので、販売・製造などの要所要所で重要な国を決めて特許を取得することが多いです。とは言え特許の取得と権利の維持は非常にコストがかかるので、国ごとのマーケットの大小なども考えて優先順位を決めて権利化する国を選ぶのが良いかと思います。

外国での権利化にかかる時間とコスト

外国で権利を取るにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか?

国によっても異なりますが、一般的には権利化には出願から4~5年かかることが多いです。しかしこれはあくまで目安で、各国の早期審査などを利用すれば1~2年で終わることもあります。あとは日本で取得した特許範囲を利用できるPPH(特許審査ハイウェイ)という制度もあります。シンガポールの特定の早期審査トラックだと、日本で特許になっていれば、同じような権利範囲で早期審査を申請すれば、数ヶ月で特許を取得できるケースもあります。このような制度をうまく使えば外国でも早期に権利化することは可能です。

しかしブラジルやインドなどの新興国で権利を取る際は7~8年、場合によっては10年以上かかることもあるため、そこまでの時間をかけて取るべきかどうかは出願する国を見極めるポイントになるかと思います。
また、アメリカや中国、ヨーロッパは、日本での審査結果がそのまま通用しないことが多く、審査基準も日本とは異なる点も多いため、権利化までに時間がかかるケースも多いです。その分コストも大きくなりやすいです。

外国での権利化にはどのくらいのコストがかかるのでしょうか。

取得したい技術領域や出願のボリューム、各国の代理人に支払う手数料なども加算されるため振り幅が大きいですが、例えば通常のソフトウェア特許や機械構造物等の特許では、出願から取得までかかるコストは安くて1カ国100万円ほどは見たほうがよいと思います。場合によっては、現地国での特許調査から出願書類のレビュー、審査官面接等をがっつり行うと、500万円ほどかかる場合もあります。また、特にアメリカでは、権利化後にも第三者や競合他社が『権利は無効である』と主張してくるケースがあり、そこで権利行使をする際の訴訟費用や、証拠資料を集める費用など、権利を守るだけで1000万円ほどかかるケースもあります。アメリカでは損害賠償額も何十億円、何百億円することもありますし、日本と比較すると訴訟の際のリスクやリターンの規模が桁違いになるので、そういったところも外国出願する際に念頭に置いておいたほうが良いポイントです。

外国での権利化が必要なスタートアップとは

どのようなスタートアップが外国での権利化を必要としますか?

最初から日本だけでなく外国のマーケットに向いている場合は、初期段階で外国での権利化を視野に入れておくべきです。外国での事業を考えているなら、初めから外国出願のコストなどを考慮して事業計画を進めていくのが良いかと思います。

外国出願を視野に入れた方が良い事業領域などはありますか?

私が知っている例ですと、最近ではバイオ製薬のスタートアップなどですね。医薬品は特許が非常に重要ですので、最初から1件あたり数百万円というレベルのコストをかけて外国の権利化を進めるスタートアップもいると聞いたことがあります。一方で、ウェブサービスのようなソフトウェア特許については、日本のtoBやtoCを想定しているようなサービスであれば、外国出願によるメリットはあまり大きくないと思います。

グローバルに事業展開するか現時点では測れないという場合はどうすれば良いでしょうか?

そのための制度としては、PCT出願というものがあります。これは出願後すぐに権利化するかどうかを決める必要はなく、原則出願から30ヶ月の間、どの国で権利化するかどうかを考えることができます。例えば、外国のマーケットを狙っているようなスタートアップであれば、シードやアーリーのような時期は初めにPCT出願(または国内出願を優先権主張の基礎とするPCT出願も含む)をしておき、グローバルに展開したいとなった際に、各国移行という手続きによって、外国での権利化を進めることができます。通常は1年以内で出願しなければいけないところを、どの国で権利化するかを考えることができる制度ですね。
ちなみにPCT出願は、外国での出願予定がなくても、日本国で特許性があるかどうかを出願から2~3カ月後に調査結果を通知してくれる制度もあるので、その調査結果を得るためにあえて国際出願をする場合もあります。

商標や意匠も特許のように外国で権利化することはできますか?

商標や意匠も特許と似たような制度があります。商標の場合は既に日本等で出願していても後から出願することも可能ですので、外国での知名度が上がってきたタイミングで権利化するのが良いと思います。特に、中国は知財大国と言われつつありますが、第三者が故意に商標を取ってしまうケースがまだまだ見受けられるため、こういう事情から注意が必要です。
一方アメリカでは商標登録のハードルが高く、実際に使用していることを証明することを要求されるケースもあります。また、日本で登録になったアルファベットの組み合わせの商標が、アメリカでは識別性がないとして登録になりにくいこともあります。そのため、外国でブランド名を使用する際は、事前に国ごとの事情もしっかり確認してから出願することが好ましいと思います。

次回の『スタートアップの知財戦略〜実践編〜』は12月29日(火)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #4

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