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スタートアップのIP!Q&A #3アイデアやノウハウは権利化できる?

連載記事

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この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許法人事務所の澤井弁理士が解決していく新コーナーです!この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

スタートアップのIP!Q&A #2意匠権について

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

第三回目のお悩みは「アイデアやノウハウの権利化について」

とあるスタートアップにお勤めのアプリ開発者Kさんからの相談です。

 Kさん  アプリ開発者

Kさんのお悩み

スタートアップでアプリ開発者として働いています。プロダクトを創る際のアイデアやノウハウは特許で権利化できるのでしょうか?

そもそも、アイデアやノウハウは特許として権利化できるのでしょうか?

ケースバイケースですね。まずはプロダクトがWebサービスやアプリの場合で考えてみましょう。最近はFintechやHRTechなど様々なWebサービスがあると思います。例えば、実際に存在する従業員のモチベーションを測るサービスが有名です。これは従業員にアンケートを取り、その人の仕事に対するモチベーションを数値化するサービスなのですが、アンケートから統計処理をし、そこから個人や組織のエンゲージメントについて評価して数値を出すという、一連の処理のアルゴリズムがあります。まず、このような処理の流れが思想として表現できれば、特許として出願することができます。アイデアを具体的なかたちにしていなくてとも、一連の処理の流れを発明として出願することができ、これを私たちはフローチャートやプロット図と読んでいます。

フローチャート イメージ図

例えば、一連の処理の流れをフローチャートのような形で表現できるのであれば、特許出願は可能です。開発前の企画段階で、一連の処理の流れさえおさえておけば、発明として完成していると言えるので、アイデア段階で特許が取れるものは意外にも多いです。特にWebサービスやアプリなどのIT関連は、理屈さえ通っていれば権利化できる可能性は高いと思います。

プロダクトを作る際には、弁理士の先生に並行して発明の内容を知ってもらっておくのが良いのでしょうか?

そうですね。プロダクトの実装段階やリリース前に出願できていれば良く、逆にプロダクトが完成してリリースしてから出願するのでは遅いです。アイデアレベルでもきちんと権利化できる可能性は十分あるので、最初の企画段階から弁理士に相談するのが良いかと思います。一連の処理の流れを整理するお手伝いもできますし、プロダクトやサービスの特徴がどこにあるのか、どの部分が発明なのかをアイデア段階でしっかり見つけることもサポートできると思います。

アイデアを保護していても、プロダクト自体を真似されてしまうということは起こりますか?

あくまで特許が守るものはプロダクトではなく、特許に記載されている技術的な中身の話なので、そのプロダクトのどの部分が真似されているのかを判断する必要があると思います。なお、そっくりそのままの製品が作られた場合は、特許だけではなく別の法律で判断することもあります。例えば、プロダクト自体が酷似している、パクリと言われてもおかしくないものに対しては、不正競争防止法等の他の法律の観点から検討することもあるかなと思います。また、そのようなことが起きないようにアイデアのみを権利化するのではなく、商標や意匠、UIの特許など、様々な手段で保護することも大切だと思います。

権利化と秘匿化の判断のポイントを教えてください。

基本的に、特許を出願して権利化できればその技術を権利として独占でき、他人が許可なく真似できない排他権を手にすることができます。一方で特許を出願すると、その技術内容は世間に公表されてしまいます。誰でもその情報にアクセスできるので、権利範囲で守られていない情報が特許出願の中に含まれていたら、その部分については真似し放題になってしまいます。何を特許として出していくか、何を秘匿化して隠していくかを判断することが必要になりますが、その判断には様々な軸があります。判断するポイントのひとつは他人がその製品を見たときに特許侵害とすぐに解るかどうかです。これを「顕現性」と言います。

例えば、WebサービスのUIで操作をすると特殊な動きをするなどの場合、このような特許は動かしたら見た目ですぐに変化が解るので、顕現性が高いと言われています。一方で同じアプリ特許でも、バックグラウンドで特殊な処理をして精度の高い計算ができるとして、他人がそれを真似したとしても、どこを真似したのか証明するのが難しいような場合は、顕現性が低いと言われています。

権利化すべきなのは顕現性が高いもので、顕現性が低いものはノウハウとして隠しておくのが良いでしょう。

アイデアやノウハウも全て権利化するのではなく、顕現性という指標を見て隠した方がいいものもあるのですね。

例えばある有名な飲料製品はレシピを一切公開しておらず、当然特許も出していません。レシピが解らず誰も作れないから、その味とともにブランドの価値が高くなっていると言えます。特許として情報公開し、特許権が切れた後にみんなに真似されるよりも、ノウハウとして長い間その技術を隠す方がブランド価値が上がるという判断です。

このように、その製品を作ること自体が難しく簡単に他人が真似できないのであれば、あえて特許を出す必要はありません。

特許として開示すべきもの、隠すものの判断をする際、
顕現性の他に着目すべきポイントはありますか?

顕現性も大きなポイントですが、自分たちの技術や事業が競合と比較してどのくらいのレベル感なのか、またテクノロジーの発展がどのくらいのスピード感で進むのかという外部環境を考慮して、特許として情報を出すのかノウハウとして隠すかの選択が迫られるかと思います。

企業によっては目くらましの特許をあえて出すこともあります。特許は情報戦の面もあり、技術情報として有効活用されることもあります。逆に言えば技術情報をうまく使い、今後の技術の向かう先を自分たちでコントロールしたり、分析することも必要です。

IPランドスケープと呼ばれる手法も近年注目されており、市場やマーケット分析に知財を利用するように、事業戦略の立案において知財の情報を活用することも行われています。

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は3月5日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップのIP!Q&A #2意匠権について



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