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スタートアップのIP!Q&A #10 IPランドスケープについて

連載記事

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この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許業務法人の澤井弁理士が解決していく新コーナーです!この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

スタートアップのIP!Q&A #9ビジネスモデル特許について

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

 

第10回目のお悩みは「IPランドスケープについて」

とあるスタートアップの経営企画室でお仕事をしているAさんからのお悩みです。

Aさんのお悩み

テック系スタートアップの経営企画室で働いています。プロダクトのマーケティングをするにあたり、知財面からの検討ができる「IPランドスケープ」という手法を知りました。IPランドスケープをするにあたり、気をつけなければならないポイントなどを教えてください。

そもそも「IPランドスケープ」とはどのようなものなのでしょうか?

自分たちの技術を新規のマーケットで勝負したいときなどに、いわゆるマーケティングの調査にプラスして、技術的な観点や知的財産の観点を取り入れ、将来的な経営戦略に活かすことを「IPランドスケープ」と呼んでいることが多いです。大企業が持つ技術でコモディティ化してきた技術を、他事業で活かせないかと考える際に利用されることが多いと思います。IPランドスケープの考え方は、正しく活用すればもちろんスタートアップにも応用できます。特に技術のシードが先にあり、目指すゴールがまだハッキリと決められていない場合にも有効に活用できると思います。

パテントマップとIPランドスケープは具体的にどのような点が違うのでしょうか。

パテントマップは、ざっくり言うと、ある技術に関して自社や他社が有している特許情報を可視化したものです。一般的には、パテントマップは技術開発の方針や知財としてカバーすべき領域を検討するために活用されることが多いと思います。一方でIPランドスケープの場合は、技術や知財の情報をベースに、経営やマーケティングに活かす手法です。知財の観点から自分たちの技術が市場の中でどのように差別化でき、どのようにマーケットを確保できるかの出口を探す際に、IPランドスケープは活用できるかと思います。

スタートアップはどのように活用するのが効果的でしょうか?

自分たちが強みとして持つ技術と、スタートアップが目指すゴールがある程度明確であれば、IPランドスケープがより効果が発揮しやすい状況になると思います。エンジニアや技術者によるプロダクト開発の観点と経営戦略が必ずしも一致するわけではないので、開発現場が持っている能力と会社が目指す目標を明確にすることで、初めてIPランドスケープはうまく利用できます。目指すプロダクトやマーケットがすでに決まっているけど、飽和状態で入る余地がない時に、他の企業と技術的な差別化をはかりたいというケースでも、IPランドスケープの手法は役立ちます。

事業本部も知財関連部署も、多くの場合が自分たちの技術を中心に着目し、他企業の技術についてはあくまで特許取得や権利侵害の回避という観点でしか調査しないというケースが多々あると思います。ですが、他社の特許や技術を調査した結果、マーケットとしても狙い所を見つけられたり、勝てる領域を見つけることができることもあります。

IPランドスケープは、特にスタートアップの場合は、例えば事業をピボットして更に大きな市場を狙いたいという際に役立つかもしれません。テック系のスタートアップは、何らかのタイミングで大企業と協業する時が来るかと思いますが、その際にもIPランドスケープで得た情報が役に立つと思います。例えば、自社のプロダクトが、協業先の候補が有しているアプリケーションとのシナジーが高いかどうかの情報も、IPランドスケープの精度次第では発見することもできると思います。

IPランドスケープの考え方は、組織内ではどの業務担当者が理解しておくのが良いでしょうか?

経営と技術のすり合わせを行う役割を持っている方や、自社の経営戦略が理解でき、企業や部署の組織における意思決定に関わる方が知っておくと良いかと思います。IPランドスケープで得た情報を意思決定に利用できるポジションの方ですね。単に知財面から調査をし、事業のゴールや進め方を考えるだけでなく、知財面から自らの置かれた状況を理解し、戦略を考えるうえで活用されるのが良いと思います。

スタートアップがIPランドスケープを取り入れる際、どのような点に気をつければ良いでしょうか。

大手の電化製品メーカーなどは昔から、いかに知財資産をうまく活用するかを考えるためにこのような手法を取っていました。「IPランドスケープ」という名称が広がったのは、テクノロジーの発達により、大規模のデータが処理できてビッグデータを簡単に扱えるようになったことが大きな要因です。市場規模や業界調査をするプラットフォームでも、最近は特許情報に注力していると聞きます。以前と比較すると、特許情報はとても身近な情報として活用できるようになり、経営判断に影響するデータになりつつあります。ですが、特許情報は「何のために調べるか?」を明確に意識しなければうまく活用することができません。リソースが不足しがちなスタートアップは、特許庁のIPASや経済産業省の企業向け補助金制度などもうまく活用し、外部専門家と連携しながら明確な目的のもと調査を進め、情報を経営や開発に役立てるのが良いかと思います。

 

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は6月11日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップのIP!Q&A #9ビジネスモデル特許について

 



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