知財がもたらす「安心の価値」#2

インタビュー

株式会社aba 宇井CEOインタビュー後編です。

前編では、介護業界に進んだ経緯や、「排泄」をテーマとしたきっかけを語っていただきました。

目で見て分かるものは特許へ

―知財に目を向けるようになったきっかけはあるのでしょうか?

 今の株主に知財が詳しい方が2人いらっしゃいます。その方々から、「技術系スタートアップだから、知財はしっかりやりなさい」と言われたことがきっかけですね。特許はどういうところを見て取るべきか、逆に取らないべきかなど、知財に対する考え方を教えてもらいました。それがベースになって、今も出願や審査請求などをするかどうかを判断しています。

―知財に関する方針はどのようなものですか?

 基本的に目で見てわかるものは特許としておさえに行くという方針があります。私たちは分解すればわかるハードウェアを作っているので、ハードウェアに関する技術は原則出願することになります。優先権期間中に開発が進めば、ボリュームを増やして出し直すこともしています。ただ、出願のタイミングがはやすぎて優先権期限と開発のペースが合わなくなってしまっても困ります。一段上の判断として、開発が進むまでちょっと待つ、ということもありますね。

―アルゴリズムやビジネスモデルに関するものはどうされているんですか?

 目で見て分からないものは、ノウハウとして隠しておくということになりますね。現在特許になっている、アルゴリズムに関する特許に関しては、公開しても問題がないだろうと考えられる部分を権利化してあります。

―発明が生まれた時の進め方を教えてください。

 エンジニアと話し、これは特許性があるなと思ったら、弁理士に相談をしています。権利化できそうだったら、明細書を作成してもらって出願します。審査請求すべきかどうか、というのは今のところ私自身が判断をしていますが、今後は社員が知財の目や耳になって、弁理士と相談できるようになってほしいと思っています。法務も同じですね。また、知財戦略というものがあった訳ではありません。知財戦略は、最近パートナーになって頂いた先生にアドバイスもらって、考え始めています。ハードウェアの特許は取得するけれど主に牽制用として捉え、ビジネスモデル、システムの特許も取っていくことになると思います。

よく分からないから、不安を抱えてしまう

―知財しっかりやっていてよかったことはありますか?

 安心して製品開発ができている点が大きいと思います。Helppadにしろ、他の新製品にしろ、今のところ特許があったから売れている、という感覚は正直まだありません。自分たちが出している特許がどのような内容か理解ができているから、どんなことが起き得るかが想定できる、ということが経営上は大きなメリットですね。その上で、特許が取れたらどういう状況になれて、取れなかったら何ができなくなるのか。そして、特許が取れなかったとしても、この程度のリスクしかない、ということも想定できる。侵害訴訟をかけられるリスクがあるのかないのかなども、ある程度想定ができます。これが、知財に関して何もケアしていないと、何が起き得るのか、可能性が広すぎて想定ができませんよね。分からないゆえの不安を抱えてしまうと思います。知財をしっかり整えておけば、落ち着いて整理して、これなら開発を進めていっても大丈夫だな、とわかる。経営的にはこの安心感はとても重要だと思います。

―知財に対する感度がとても高いと感じます。

 やはり、株主のお二人が創業のころに「特許をしっかりやらないと危ないよ」と教えてくれたことは大きいですね。おひとりは大企業で知財を扱う仕事をしていたので、明細書の書き方から請求書の言葉の選び方まで教えて頂き、知財の考え方を教えてもらいました。もうひとりは、知財の訴訟もやっていたような方で、権利範囲を広くする重要性を教えてくださいました。また、今の弁理士の方には、ずっと明細書をお願いしているので、技術的にも深く理解していただいています。弁理士の先生のアドバイスと、株主の方からのアドバイスをもとに、こちらで1件ずつ、この特許はどういう方向性にするか、というのを判断しています。

―専門家の言葉を咀嚼して、判断することが重要なのですね。

 はい、本当に教えてくださる方が良かったと思います。特許に限らず、法務と絡めて理解することも大事です。NDAの中身をどうするのか、もある種の知財戦略です。私たちの知財をどこまで共有するか、実際に相手と接するのは社員なので、社員の理解も促進していかないといけません。契約書はケンカしないための約束を決める書面。だから、私たちは契約書の確認はしっかりやります。先方の法務が疲れるだろうなと思うくらい、たくさんコメントを入れて真っ赤になることも少なくないです。ケンカしないために詳細を詰めている、ということを社内の全員が理解していることが大切です。

―大手の法務部とも対等にやりあっているんですね。

 先方から送られてきた共同研究開発に関する契約雛形でも、中を見たらほとんど受託研究の契約内容になっているときもありますからね。そういう時は真っ赤にして返すか、「むしろ良かったらこちらからひな形出しましょうか?」ということもあります。契約結ぶのに半年以上かかることもありますよ。それだけ妥協しない、ということなのですが、逆にスピード感は課題なので、法務担当だけではなく社員みんなに分散させて、全員の知財・法務レベルを底上げするようにしています。

自分たちのコンパスを探せ

―他のスタートアップへのメッセージをお願いします。

 私たちは、目に見えてわかるものは出願、見てもわからないものはノウハウ化、を一つのコンパスとしています。スタートアップって、やらないといけないことがいっぱいありますよね。そんな中で、知財について腰を据えて勉強する時間はなかなかないと思います。だからこそ、自分たちのコンパスを持って、冷静に判断しましょう。abaはハードウェアを作っていますので、新しい機構ができたときは特許化を意識します。また、ハードを制御するソフトウェアについても、論文にできそうだと思ったら、論文化する範囲を判断する事も含め、特許化を意識しています。自分たちのコンパスを持つ、まずはそこから始めてみてはいかがでしょうか?私たちのコンパスも、使ってみてください!

関連記事一覧