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今や知的財産大国となった中国から学べること#2

インタビュー

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―#1はこちらから

今や知的財産大国となった中国から学べること#1

『しっかり知財戦略を練り、知財武装をするべき』

―中国のお話を伺っていると、日本のスタートアップが中国に進出する際は、かなり対策を考える必要がありそうですよね…

そうですね。日本のスタートアップで、中国でのビジネスを考えているのであれば、業種にもよりますが、知財の活用可能性を考えるようにして、しっかり知財戦略を練り、知財武装をするべきです。

―その際に、注意点やポイントなどアドバイスはありますか?

まずは、中国は知財大国であることをしっかりと理解したうえで、ビジネスの実態に併せて、常に知財のことを意識し、必要な対応を取ることが重要です。
進出をする際は、すぐに重要な商品・サービスの商標を取ることも大切です。最近は、越境ECなどで日本にいながらにして、中国における商品販売が可能になっていますが、いつのまにか勝手に、無関係な第三者に商標が取られてしまいビジネスができなくなってしまう、という悲劇をよく目にします。とにかく少しでも中国に関係するビジネスをしようと思った時点で、早め早めに商標を取得することを意識するべきです。
特許については、基礎出願の優先権を主張できる期間を常にチェックすること、展示会で出展する際は、新規性喪失例外の適用が非常に限られているといった法律や実務上での日本との違いに注意することが重要です。他にも、日本の明細書の中国語翻訳が中国の裁判官が正しく、有効に判断してくれるような適切な翻訳になっているかをチェックすることなども重要になりますね。
とにかく中国では、権利化していなければ、果敢に盗んできます。「権利化していないなら取られても仕方ないよね」という感覚です。商標、特許だけではなく、実用新案、意匠といった知財権をフル活用して、しっかり知財で武装をしたうえで中国企業とコミュニケーションを取っていくことがとても重要です。最近は日本企業でも、日本で知財を権利化せずに、マーケットが大きく、知財保護の重要性が相対的に高い中国でのみ権利化する事例も増えてきています。今後は、中国で権利化する方が、価値が高いといった事例も増えてくると思います。
その他にも、中国企業から自分が逆に訴えられることもあることを注意する必要があります。5~6年前までは、知財訴訟は日本企業がほぼ100%原告でしたが、ここ2〜3年は、弊所のクライアントの日本企業でも被告となる事案がどんどん増えてきています。中国企業はまったく遠慮せずに権利行使してきますので、自分の守るべきものを守り、他社の権利を踏まないように気をつけることも大切です。

諦めないで戦えば、勝てるものは勝てる

―対策を取っていてもトラブルに巻き込まれてしまった場合は、どのような対応が望ましいのでしょうか。

まず知財を取っている前提で、トラブルがあった場合は敢然と戦っていきましょう。「そもそも中国で訴訟ができるのか」と思われる方もいるかと思いますが、既に、中国の訴訟制度は、都市部を中心にしっかり判断してくれるようになっておりますので、きちんと知財を取っておけば戦うことができます。
日本では警告状さえ送れば解決することが多いです。弁護士が「法的手段を検討します」と言えば、相手も行儀がいいので従うことが多く、滅多に裁判になりません。
中国では、警告状を送るだけではほとんど解決せず、裁判になる場合が非常に多いです。常に戦う覚悟で臨んでいくことが必要ですね。特に、日本企業は「攻めてこない」と思われていて、結果、侵害を許している状況になってしまっていることが多いので、侵害に対しては果敢に権利行使を検討するべきです。

―諦めないで戦えば、勝てるものは勝てる、ということですね。

はい。その為には、繰り返しになりますが、知財をしっかり権利化しておくことが重要です。そして侵害があったときには、調査をして侵害の実態を把握し、侵害証拠を集めて適切な手段を取る。知財大国である中国では、裁判所を通じた権利行使以外にも、日本には無い、行政機関を通じた便利な権利行使制度などもありますが、専門家に相談しながら適切な手段を選択しましょう。

―中国はとても広いので、都市によって知財戦略の組み立て方が変わるということもあるのでしょうか?

そうですね。2014年に知財法院という知財専門の裁判所が、北京、上海、広州にできました。知財法は経済法なので、経済が発展しているところで紛争も起こりやすい。このため、複雑な知財紛争の場合は、そのことが想定されている北京と上海の、大都市でやることを推奨します。あとは、日本でもIT、テックのイメージが強い深センにある中級法院は、確かに通信技術系に強いです。
あと、注意しなければならないのは、中国には「地方保護主義」という言葉があり、規模が大きい地元の企業が優先される場合があります。他社の知財を踏んでいる企業が、その土地で多くの従業員を雇用している場合、倒産したら困る人がたくさんいる。そういう企業に対して「地方の経済を支える為」と、変に中国政府が手心を加えることがあるのです。このようなケースは、昔よりは大分減ってきていますが、未だに田舎ではちらほらある。そういう意味でも、知財の訴訟は都市部で行うことをおすすめします。

事業の特質に合わせて都市を選ぶことも考えるべき

―日本のスタートアップが中国進出する時におすすめの都市はありますか?

中国は広く、中央政府の力が強いので、国全体の発展を考えて、都市によって特定の産業分野の重点育成にかかる政府の指定があり、その結果、地方ごとに強い分野、進出しやすい分野、などが存在します。中国進出を検討している日本のスタートアップも、日本人にとってなじみが強い上海や北京ばかりではなく、今後は、こうした中国の実情を踏まえて、事業の特質に合わせて都市を選ぶことも考えていくと良いと思います。例えば、中国西南部の貴州省はかつて中国GDP最下位の都市でしたが、政府がビッグデータ取引所を作ったことで「ビッグデータ都市」となり、多くの欧米日、中国企業で同分野ビジネスをしたい企業が一気に集まりました。なので、ビッグデータビジネスをやりたい場合は貴州を有力候補として考えるべきですね。また、Eコマースなら天下の「アリババ」がある杭州。音声AI系であれば、世界的にも有名となった音声認識AI技術を展開する「科大訊飛(アイフライテック)」がある合肥も考えるべきです。その他、ドローンなどのハードとテックの融合領域なら深セン。純粋IT、エンタメ系なら、規制領域ゆえに中央政府が近い北京が良いですね。地方の発展が遅れている都市では、日本の農業、食品系の技術を持つスタートアップは歓迎される可能性が高いと思います。とはいえ、いきなりこうした地方都市に行くことに抵抗がある場合には、私も住んでいる上海は、場所的に、中国各地や日本にも行きやすく、情報も集まりやすいですので、上海でワンクッション置くのも良いと思いますよ。

―地方の発展が遅れている都市に農業系技術の需要があるのはどうしてですか?

実際に私が今サポートしている、発展が遅れている中国西北部の都市を例に取りますと、総じて気候にあまり恵まれていません。ただ、都市ごとに特徴のある作物があるため、栽培の効率をあげる技術や、カプセルやサプリにする加工技術が求められています。また、土壌があまり良くないため、灌漑技術といった土壌浄化の技術も必要とされている。中国政府は、これらの技術開発やスタートアップ誘致には、お金を出してでも進めたいと思っていますので、もしこの辺の技術を持っている日本企業がいらっしゃいましたら、是非ともご連絡をお待ちしております。
私は15年ほど中国知財に関わってきて、日中関係は今が一番良いと感じています。優れた技術を持つ日本企業は、大企業やスタートアップにかかわらず、より歓迎されやすくなっている。既に中国企業が成功している分野に参入することは非常に難しいですが、土壌浄化技術や化学、その他にも精密機器の分野など日本にまだ技術的優位がある分野もあるので、どんどん展開していって欲しいですね。

―分部さんから、日本のスタートアップにメッセージはありますか?

これまでは、アメリカのシリコンバレーから技術や事業のヒントを持ってきて日本で事業化するというケースが多かったと思いますが、今後は中国から持ってくるケースが多くなると思います。
特に日本では、残念ながらメディアの影響もあり、中国に対してある種の偏見を持つ日本人も少なくないでしょう。これが正しい情報を取得する支障となってしまっていて、結果的に、日本が有益な中国情報を得る機会を失い、損をしているように思います。日本人が持つ「中国のイメージ」の障壁を取り除いて、フラットに中国の発展状況を見るようにして、中国への進出機会、中国技術の日本への持ち込みを考えるクセを付けたらいいですね。
中国における日本の存在感は年々、相対的に低下しており、私もある種の危機感、悔しさを感じています。是非、一人でも多くの日本人が、中国市場に果敢に攻め込んできてほしいです。中国進出はまったく甘くはないですが、私も意欲を持って中国に進出しようとされている方には、微力ながら喜んで全力でサポートしたいと思っています。

≪あとがき≫
中国はパクリの聖地。これは、日本人の多くに根付いている中国のイメージではないでしょうか。私もそのイメージを抱いていた一人ですが、分部さんのお話しを聞いた後は、中国がものすごいスピードで変化していると感じました。知財大国となった中国には、スタートアップが学ぶべきことも数多くあることと思います。



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