【知財イベント】完全オンライン型展示会「すごい知財サービスEXPO2021」セミナーレポートVol.5 メルカリグループの知財~知財活動の現場から~
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Vol.1 来賓の挨拶(WIPO日本事務所長 澤井 智毅 氏)はこちら↓
Vol.2 世界中の「水の問題」を解決する~WOTAの目指す世界とスタートアップ知財~はこちら↓
Vol.3 ”SaaS×Fintech系ベンチャー企業、マネーフォワードの知財戦略~知財活動の現場から~はこちら↓
Vol.4 特許事務所がスタートアップ企業と付き合うために必要な作法 ~弁理士会ベンチャー支援部会からの提言~はこちら↓
【知財イベント】完全オンライン型展示会「すごい知財サービスEXPO2021」セミナーレポートVol.4 特許事務所がスタートアップ企業と付き合うために必要な作法 ~弁理士会ベンチャー支援部会からの提言~
「メルカリが掲げるミッション・バリュー・カルチャー」
株式会社メルカリ 知財担当 有定 裕晶さん
メルカリグループの知財戦略紹介ということで、メルカリグループのご紹介を含めながら、スタートアップがどういう知財戦略を持っているか、特にメルカリがどういう知財戦略を持っているかというご紹介に繋げていければと思います。
まず、メルカリグループについてご紹介いたします。メルカリというと、フリマアプリで中古品の売買を行うプラットフォームサービス「メルカリ」を運営している会社として知っているという方も多いと思いますが、そのほかにも株式会社メルカリには、メルペイ・Mercari US・鹿島アントラーズ・souzoh・mercoinなどの子会社があります。
メルカリのミッションは、「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」です。
また、メルペイでは「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というミッションを掲げています。
バリューに関しては、社内でもかなり重要視されていて、「Go Bold(大胆にやろう)」、「All for One(全ては成功のために)」、「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つがございます。これらは社内の評価基準にもなっています。
カルチャーについては、「Trust & Openness」ということで、基本的に情報はオープンになっています。法律上閲覧するべきでない情報以外は見れるというカルチャーです。
「メルカリの知財戦略は『Open』と『Defensive』」
次に、メルカリの知財体制の特徴についてお話します。
メルカリでは、現在は各担当者が組織単位で職務を担当しています。私はメルカリが半分くらいで、メルペイとメルコインはフルで担当しています。特許や商標、その他知財関連業務を含め、専門でなくても知財が関連するissueはすべて各担当者が責任を持って担当する組織構成になっています。各担当者は、それぞれの業務を担当しながら特許、商標、意匠といったすべての知財関連のやりとりも行っています。つまり、特許や商標のみを担当する人材はいないという状況です。そのため、特許の出願書類のレビューをしている時に商標の相談を持ちかけられることもあり、業務量としてはかなり忙しいです。担当者同士で積極的に情報共有を行いながら日々事業を進めています。
また、特徴的な点としては、「事業ファースト」を意識していることですね。基本的には、事業をペースダウンさせることなく知財活動を行うことを意識しています。スタートアップやベンチャーは、エンジニアやプロダクトありきで進んでいます。例えばクリアランス調査をするのに半年かかるとなれば、それは事業のペースに合っていないとみなされます。クリアランス調査の期間をもっと短縮し、クリアランスをしつつもその事業のペースをダウンさせないような施策をいくつか打つことが必要です。
続いて、メルカリの知財戦略についてご紹介します。
メルカリが掲げている知財戦略のテーマは『Open』&『Defensive』です。
『Open』とは、社会やコミュニティパートナーとの繋がりをオープンに行っていくという意味になります。
『Defensive』は、ミッションで掲げている「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイス」を体現するために知財で守っていくことを指しています。
ここからは少し掘り下げて、『Open』と『Defensive』という観点で、メルカリの知財活動の例をご説明していきます。メルカリでは、特許防衛団体への加盟(Open+Def)や、オープンソースの取り扱い(Open+Def)、模倣品の対策(Open+Def)、カウンター特許(Def)、また悪意を持ったSNSやアカウント、ウェブサイトなどをきちんと取り締まって、自社の事業をスムーズに提供していくことを心がけていくために模倣やタダ乗りの取締り(Def)といった知財活動を行っております。
特許などの権利を取得するような基本的な知財活動はもちろんのこと、それに加えてメルカリでは自社の事業をスムーズに進めていくための取り組みとして、特許防衛団体Open Invention Network(OIN)およびLOT Networkに加盟しています。特許防衛団体はコミュニティの一面があるため、『Open』の面でいうと、オープンに人脈を形成しやすいといった利点があります。また『Defensive」の面でも、トロールなどの不適切に特許を権利行使するような企業から身を守るという点で非常に大きな効果があるため加盟しています。このことは一年前にニュースにも取り上げていただきました。
「何が必要で、どういう承認を、どういうフローで確認していき、権利化していくのか」
私はキャリアの殆どをITベンチャーで過ごしてきました。新卒で2年ほど大手にいましたが、その経験も踏まえて、スタートアップにおける知財活動の特異点ってなんだろうと考えたときに、以下のような特徴があると思います。
まず「スピードが早い」ことです。
スタートアップでは、事業自体のライフサイクルがモノによっては本当に短いため、事業がとても早く展開していきます。例えば、3ヵ月でリリースまで持っていくという速度感です。私の具体的な体験でいうと、ある特許を出願して、審査請求の時期が来る頃にはその特許にまつわる事業が終了していて、この特許どうしましょうね、という議論になったこともあるくらいです。とにかく意思決定が非常に早いので、知財活動に関しても速度感が重要になります。
次に「知財体制のサグラダファミリア感」についてです。
私自身、いくつかのITスタートアップに立ち上げ初期に加入したこともあり、特許に関しての調査ツールや管理ツール、出願フローや社内承認フローがまったく決まっていない状態でした。そのため自身で「何が必要で、どういう承認を、どういうフローで確認していき、権利化していくのか」ということから検討を開始し、手続きの流れを作っていきました。
調査ツールや管理ツールは、多数あるサービスの中から自社に合ったものを選び、使用感と金額のバランスを確かめて導入しています。導入したはいいものの、思ったよりも自分たちにとって使い勝手が良くなかったというケースも多く、試行錯誤を重ねているところです。
社内承認フローについては、決まっていないことがあるのかと驚く方もいらっしゃるかもしれません。上場前のIT企業では承認フローが決まっていなかったり、承認する人そのものが短期間で変わっていくことがよくあります。構築したフローも都度変えていく必要がありました。タイムリーに情報を得て、柔軟に変えていく、再設定していくという姿勢が求められます。
そして最も大きな特徴だと感じるのが、「経営陣との距離の近さ」です。
スタートアップでは、経営陣へ直接報告したり、話をしたりすることが多々あります。会社の規模が大きくなってくると、直接関わる回数を減らしたり、ツールを用いたりと変化をしていきます。しかしスタートアップの会社は経営陣との距離が近いので、飲みに行ったり、ランチに出かけるなど、公私ともに深い関わりを持つことが多いです。私自身、20代の頃から経営層に対して報告をしたり、間違っていたら間違っていると言わないといけないので、ドキドキしますが、スタートアップの中で知財の活動をするときには、乗り越えないといけない壁の1つだと思います。
最後に、これは書くかどうか迷いましたが、「SaaSツールは使えて当たり前」というスタンスがあります。Slack、Google、workspaceなどは、使えて当たり前で、教えてもらえるとは思いますが、使えないというと驚かれると思います。それ以外にも、FaceBookのアカウントを持っていないと驚かれるでしょう。いまならTikTokにどんな機能があるのかなどは知らないと、マジで?という反応になると思います。
また、国内外で流行しているWebサービスを知っている人は多いですし、そういうサービスに興味がある人はITスタートアップに向いていると思います。また、ミーティングをしなくてもSlackやLINEで済めばそれのほうがいいよね、という価値観があります。それ故にITスタートアップではレスポンスが早いです。ITスタートアップで活躍する人材には必要な特性だといえるでしょう。
以上、知財活動の特異点ということでご紹介してきました。大手企業を経てITスタートアップを経験した私が感じたスタートアップの特徴ですので、ITスタートアップでの知財活動を検討している方は参考にして頂ければと思います。
メルカリでは知財戦略をオープンにすることをモットーに活動しているので、その他公の場所で公開している情報も確認していただけると嬉しいです。
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