【知財イベント】『IPAS2020 Demo Day 成果発表会 レポート〜Vol.10 レグセル株式会社 メンタリングチームとの座談会&閉会の言葉』
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特許庁主導の、スタートアップの成長を事業と知財の両面で加速させる知財アクセラレーションプログラム「IPAS2020」の成果発表会「Demo Day」が3月にオンライン開催され、2020年度支援先企業がIPAS2020を通して得られた成果を発表しました。
IPAS2020では、応募総数113社の中からビジネスの将来性や知財支援の必要性等の観点で選ばれた15社に対し、特許庁より選出された知財専門家らが約5ヶ月間のメンタリングを行いました。
本記事では、レグセル株式会社の、IPASメンタリングチームとの座談会の様子と閉会の言葉をお届けします。
Vol.9 レグセル株式会社
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Vol.10 IPASメンタリングチームとの座談会
【モデレーター】
比留川 浩介 氏
特許庁総務部企画調査課 法政専門官
【知財メンター】
大門 良仁 氏
メディップコンサルティング合同会社 代表社員 弁理士
【ビジネスメンター】
桂 淳 氏
株式会社メディカルインキュベータジャパン 代表取締役 CEO
【知財メンター補佐】
宮崎 悟 氏
特許商標事務所知笛 所長 弁理士
IPASのポイントはビジネスメンター
比留川氏
メンターの皆様でメンタリング前にお打ち合わせをされた際、役割分担などをどのようにされたのかお聞かせいただければと思います。
桂氏
スタートアップの知財戦略を考える際、皆さん技術に自信があるため、そこから派生した知財戦略を考えることが多いです。ですが、ややもすると、せっかく取った特許が実際にビジネスを始める段階になると、必ずしも収益に貢献しないということがあります。私自身も投資家としての面から見て同じような課題を感じておりました。
そこで今回は実際に製品が市場に出た時に、その製品のポジションを強化できて、競合他社との差別化になるよう、ビジネスの面を固めてから知財を考えるという計画を立てました。プロジェクト前半ではビジネス面のベストシナリオプランを作り、それを実際に現実で展開できるような知財戦略を作るという計画を立てました。
半田さん側からすると「せっかく知財の話をしにきたのにビジネスの話?」と思われたかもしれませんが、ビジネスを考えることがなぜ重要なのかを、大門さんからご説明いただき、最初にチーム全体の方針が固まったのが上手く進んだ鍵だと思います。
大門氏
IPASの特徴は経営者に弁理士が2~3人寄り添うだけでなく「客観的なビジネスメンターがついている」ところが大きな売りだと思います。そこの売りを活かして、いかに事業を成長させる知財戦略を作るかどうかが重要だと思うので、そこは桂さんに「この製品をどのように展開したら売れるのか?」という視点から検討いただきました。特に創薬スタートアップはお金がかかりますので、マネタイズするために製薬会社とアライアンスを組み、治験などを行わなければならず、それには大きなお金がかかるため資金調達もしなければなりません。投資家であり製薬会社出身である桂さん、また宮崎さんとタイアップできたことは非常に大きかったです。
正論ではなく、現実解を見つける泥臭い議論
比留川氏
半田社長には事前のIPASへの期待と、実際にプロジェクトが始まってから受けた印象についてお伺いしたいです。
半田氏
商品としてはいいものができるのですが、知財でどう守っていけば良いのかを課題に感じIPASに応募しました。そのような心持ちでメンタリングに向かったところ、ビジネスの話から始まり最初は驚きました。戸惑いがありながらも、初回のメンタリングで我々が突破口を見出せないと感じていたところに、かなり現実的な助言をいただけたことでこの先生方についていこうと決めました。正論で議論をするのではなく、現実解を見つける泥臭い議論を初回メンタリングからできたのは、IPASプログラムの印象を大きく変えました。
比留川氏
半田社長のお話にもありました「ビジネスストーリーを知財に落とし込む」この辺りについて桂さん、お願いいたします。
桂氏
プロジェクト前半では、私自身が製薬会社のマーケット部門で仕事をしていた際、部下に指示していたことどほぼ同じことをレグセル社にやっていただきました。プロジェクト後も自走できるよう、フレームワークだけをお渡しして、実際に自社製品の市場での位置付けや、競合他社については答えを出していただくよう、宿題という形でレグセル社に渡していました。それを元に毎回議論を重ねていき、チームの中でのベストシナリオはできたのかなと思っています。
ビジネスから知財を考えるマインドチェンジ
比留川氏
ビジネスストーリーをもとに知財戦略を構築いただいたかと思いますが、そのあたりのお話を大門さん、お願いいたします。
大門氏
初めのメンタリングで信頼関係を築けたことが大きなポイントだったと思います。ここがうまくいかなければ、その後のメンタリングが退屈なものになってしまいますよね。まずレグセル社の事前資料を見た際に、特許が正攻法だと感じました。今後、資金調達をする際や製薬会社のデューデリジェンスを受ける際に「知財戦略が弱い」と門前払いされるようなシーンがイメージできましたので、そこはマインドチェンジしなければならないと感じました。
多くの再生系医療スタートアップで「特許出願するかノウハウとして秘匿化するか」は議論されますが、弁理士としては色々なアドバイスができるものの、今回はIPASプログラムです。先ほども申し上げたようにビジネスメンターがいるところがIPASの面白さなので、正攻法特許ではなく、製薬会社や投資家が喜ぶのは、モノや医薬品の製品特許であるとアドバイスさせていただきました。
半田さんから「モノの権利なんて取れるのですか?」と質問が来ましたが、再生医療薬品でもモノによっては特許を取れているケースが多々あります。そのようなビジネス軸での知財戦略をご紹介させていただきながら、一緒にそれを目指していこうと話をしました。
比留川氏
レクチャーの時間をきちんと設けていたのが本チームの特徴だったと思います。半田社長は、少し遠回りになるのではという懸念もされていたと思うのですが、いかがでしょうか?
半田氏
「どうやって特許を取ろうか?」ということで悩んでいるのですが、ふと立ち止まると、そもそも我々はビジネスで成功したいのです。この視点は当たり前なのですが、細部を検討する実務では忘れがちになってしまいます。私としてはレクチャーというよりも視座について最初にインプットいただいたと思います。当たり前の事を愚直に行う大切さ、ビジネスが目的であるところに立ち戻るきっかけになりました。
比留川氏
宮崎さんは、メンタリングに参加されて何かご感想などありますか?
宮崎氏
スタートアップは人やモノなど全ての資源が足りず、また経営者というのは赤字か黒字しかなく、そのギャップはどう埋まるのか?という事を知りたく、今回のIPASに参加させていただきました。その過程を近くで見ることができ、非常に勉強になりました。
比留川氏
半田社長、メンタリングを終えた後の感想を教えてください。
半田氏
テクニカル的にいうとTPPの一部をリストで分析したのと、その後のビジネスストーリーを文章にした、この2つが個人的には今後の色々な検討をする上でのバイブルになると感じています。バイブルには「そもそも何がしたいのか?」が明確に書かれているので、知財戦略が構築できたことはもちろんですが、それを振り返れる指針ができたのは大きかったです。
私は工業製品での現場が長く、生産現場では3S(単純化(simplification)、標準化(standardization)、専門化(specification))という考え方がありますが、今回は情報の3Sを行ったと感じています。頭の中で考えている事を一度全て吐き出して整理整頓をしました。そして3Sで整理した事をどう知財戦略に落とし込むかを考える、違う現場でやっていた3Sというフレームワークが、普遍的なものとして経営戦略でも使えると理解できたのは非常に大きな経験でした。ひとつの成功体験として今後も活きていくと思います。
メンタリング後も自走できるように
比留川氏
かなり狙い通りにいったメンタリングかと思いますが、うまく進んだ要因をお教えてください。
桂氏
まずはビジネスストーリーを文章にしていただいたことです。文章にすると「何か違うな?」というところが見えてきます。コンサルする時もそうなのですが、コンサル後も自走できるケイパビリティを残すことが重要と考えています。今回のメンタリングは社長だけでなく、レグセルの社員全体で取り組んでいただいたことで、会社のノウハウとして活きていくアドバイスができたことが、メンターとしても非常に嬉しい点です。
比留川氏
最後に一言ずつお願いいたします。
宮崎氏
今後IPASプログラムに参加される専門家の皆様には、リソースの少ない不安定な状況の中で真剣勝負をされているスタートアップ企業のみなさんが、どうすればトップランナーで走れるようになるのかを念頭に、御支援いただければと思います。
大門氏
今回のメンターのメンバーを見ていると、特許事務所の方が多く、インハウスでお仕事をされている知財部の方がいないことに私は少し違和感を感じています。特許事務所の方とインハウスの知財部の方、どちらも揃うことでビジネスに強い知財や、発明の利用を考えていけると思います。来年以降は大企業の知財部出身の方にも手をあげていただきたいなと思います。
桂氏
宮崎さんも先ほど仰られたように、スタートアップはリソースが足りません。外部からメンタリングをしてスタートアップを成功に導くのは、専門家として非常に意義があることだと思います。私どもの会社は海外企業にも投資していますが、欧米やイスラエルなどではこのエコシステムが非常によく循環しています。一方で日本はまだまだ劣っているように感じており、特に人材面は弱いと思いますので、IPASのようなプログラムに参加することで、日本のイノベーション推進に貢献いただければと思います。
半田氏
スタートアップはリソースがとても不足しており、弊社は研究シーズ期なので研究については最先端なのですが、そのほかの部分をどのようにお金をかけず成長させていくかが重要です。IPASのように色々な先生方と出会える場はとても重要であり、また、ただ単に出会いだけではなく、一緒に問題を解決するために議論できたのも大きなポイントです。ひとつ不満を言わせていただくとしたら、少し期間が短く、一歩一歩じっくり腹落ちしながら進めていきたかったという思いもあります。ですが、そちらは弊社の方で今後も実践を積んでいけたらと思います。
閉会の言葉
特許庁総務部企画調査課 知的財産活用企画調整官 沖田 孝裕 氏
今回の報告会で、IPAS支援を受けたスタートアップ15社がプログラム通じてどのような成果を得られたのか、また支援チームとの座談会を通してどのようにメンタリングが進んだのかをご覧いただきました。
5ヶ月間のメンタリングの中で、スタートアップのみなさまの意識の変化をご覧いただけたかと思います。またスタートアップ事業における、知財の重要性をご理解いただけたかと思います。
IPASプログラムは来年度も実施する予定です。ご興味を持たれたスタートアップの皆さま、専門家または専門家を目指す皆さまの御支援をお待ちしております。詳しい情報はIP BASEにて発信しておりますので、そちらもご覧いただけますと幸いです。
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