「強い技術を持った小さいプレイヤー」をエンカレッジしたい#1

特許庁

特許庁前長官の宗像直子氏が、特許庁をスタートアップ支援に力点を置いたワケを伺いました。
きっかけ、そこに込めた想いとは。

『スタートアップは、経済の「新陳代謝の源」だ』

—宗像さんは、2017年7月〜2019年7月の特許庁長官時代、特許庁の「デザイン経営」宣言、中小企業・ベンチャー企業に対する特許料等の軽減制度、特許訴訟制度や意匠法の大改正まで、幅広い視点で中小企業やスタートアップの支援を進められてきました。
現職の長官として初めて、IVS(Infinity Ventures Summit)に登壇したことも話題になりました。特許庁でスタートアップ支援に大きく踏み込んだ2年間だったと思います。このような舵取りに踏み切った背景をお聞かせください。

 中小企業やスタートアップであっても、自分で権利を取って管理するのが当たり前になってほしい、中小企業やスタートアップにも、特許は自分たちの問題なのだと考えるようになってほしい。このような想いを抱いていました。
強い技術やビジネスモデルを武器に創業したスタートアップは、産業を大きくディスラプトする可能性を持つ、新陳代謝の源です。スタートアップでなくても、事業承継などで大きく経営の舵を切り替える、いわゆる第二の創業を迎えた中小企業が、すでに保有している技術をこれまでとは全く違う分野にも応用するなど、いろいろな取り組みが起きています。
デジタル化やオープンイノベーションが進み、IoTで色々なものが繋がるようになり、産業構造が大きく変わろうとしています。そういう中で、自社の技術を権利として管理して、どの企業にどういう条件でライセンスするかなど、個々に決める。模倣などで権利が侵害されても、泣き寝入りせず正当に守りながら、権利をしっかり活用する。このような知財管理、知財戦略が、中小企業やスタートアップが生き残っていく上で大切になります。
新しい会社を立ち上げ、今までにない新しい製品やサービスを世の中に送り出す。そういう挑戦をする方々に、将来、日本経済の重要なプレイヤーになっていただくことを期待して、スタートアップ支援に力を入れました。

『特許を取り巻く状況は世界で大きく変化』

—特許出願数は、中国、米国、欧州を筆頭に、世界全体で右肩上がりに増えているのに、日本はリーマンショック(2008年)以前の出願件数にすら回復できていません。スタートアップ支援の取組は、そうした状況への対応でもあるのでしょうか?

 日本の特許庁への出願数が減っていることへの危機感はありました。かつて、日本企業は、外国企業から訴えられたときにクロスライセンスに持ち込む狙いもあり、特許を大量出願していた時代がありました。しかしその後、日本企業も特許出願を厳選するようになり、さらに、日本への特許出願を急激に減らすような行動をとる外国企業も出てきています。かつては自国に特許出願するものの8割くらいを日本に出願していた外国企業が、最近では日本に2割程度しか出願しなくなっているということが起きているのです。
特許庁の顧客が減っているわけですから、新しい顧客を増やさなければと考えました。

『特許庁のカスタマージャーニーを考えた』

—中小企業やスタートアップは、特許庁の新しい顧客である。そういう視点で特許庁の在り方を見たとき、どんなことを課題だと感じたのですか?

  私は特許庁に初めて着任して、基本的なことは自分で特許庁のウェブサイトで調べようと思ったのですが、答えになかなかたどり着けませんでした(笑)。特許庁のサイトとは別になっていたり、ようやく目指すサイトにたどり着いても、書いてある文章が長くて固くて決してわかりやすくなくて、しかも字も小さかったり。
特許庁は、出願した目の前のお客さんには、丁寧に対応しているのですが、長年、膨大な審査待ち案件の解消に必死で取り組んできたので、「一人でも多くのお客さんに来てもらおう」という発想があまりなかったといえると思います。カスタマージャーニーの中で、企業が技術や製品を新たに開発したときに特許を取らなきゃと気が付いて、特許庁にたどり着くまでの部分に目が向いていませんでした。

—まずは、特許庁のカスタマージャーニーにおける出発点を、分かりやすくした。

  はい。ウェブサイトの大改造もそうですが、中小企業の特許料を一律半分にするという制度改正には、まさに「特許に関心を持っていただくきっかけ」にしたいという狙いがありました。特許法とは別の法律で定められた要件をクリアした主体を対象に特許料を軽減するというのでは、制度に気づいていただけない、特許庁にたどり着いていただけない。分かりやすさは重要です。
特許庁で権利を取っていただいた後のカスタマージャーニーがさらに重要です。特許を取った甲斐はあるのか。特許を取るということは、誰かが侵害したらそれを排除できるという、強い権利を持つことなのですが、その価値がどれだけ認識され、活かされているか。特に、知財が最も重要な資産であるはずのスタートアップの方々のところに出向いて、実際に権利を使いこなしていただけるようにきめ細かいサポートをしたいと考え、スタートアップ支援チーム(※)を立ち上げました。

後編へ続く

【後編】「強い技術を持った小さなプレイヤー」をエンカレッジしたい

(※)2018年7月に立ち上がったベンチャー支援のための専門チーム。今回の我々の取材にも応じていただき、取り組みを説明頂いた。

【前編】特許庁がスタートアップを支援する意味

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