【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.6(3)~パネルディスカッション第二部『知財戦略とイノベーション、知財を武器に市場を切り拓く』~
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【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.6(2)~パネルディスカッション第二部『知財戦略とイノベーション、知財を武器に市場を切り拓く』~
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雑談から生まれた投資の話
澤井さん
知財戦略についてキヤノンは長く尊重され、重要視してきたように私は見えます。一言で長澤様は会長や社長へどういったお話しをされたのでしょうか?
長澤さん
たまたま私がCEOに直接話ができるポジションにおりまして、経営上の色々な契約をもっていってサインをもらうわけですが、その時に出来る限り知財の雑談を繰り返しします。一回だとなかなか聞き入れてもらうのは難しいですが、繰り返し言っているとだんだん向こうも投資してあげようという気になるのではないかと思います。知財部門が国際標準の推進を配下に入れたことや、知財部門が国際標準に投資をするようになって研究開発費を払っているなどというのは、そういう雑談の中から生まれてきたもので、自社が必要としてない技術になぜ投資するんだと言われた際には、こういう時代になったときにどこがライバルになるかわからない、そうするとオールマイティカードを持っているほうがいいに決まっているというような話を滔々と繰り返していったのをよく覚えています。人に対する投資や、金銭的な投資というのは、CFOやCTO、CEOが決めるものなので、我々としては、その必要性を滔々と解くしかないという風に思います。
『知的創造サイクル』は逆の発想が必要になってきている
澤井さん
次に、SDGsと知財についてお話しをお伺いします。SDGsと知財制度の関係について、高倉様のご意見を頂戴できますでしょうか?
高倉さん
恐らく日本企業においては、社会の利益と会社の利益が両立するのは当たり前だと思っている経営者はたくさんいらっしゃると思うのです。だから、決して新しい話ではない。パナソニックの創業者の松下幸之助さんをはじめとして、日本の多くの著名な企業経営者は、社会のため、公共のために、自分たちの会社の事業があるんだということをいつも強調されていたと思いますし、明治の渋沢栄一さんの著書『論語と算盤』の中にも、自社の利益、つまり事業の利益と社会公益の利益を両立させることが一番大事なんだということを強調しておりました。もっと古くは、近江商人の三方よし(売り手によし、買い手によし、世間によし)という言葉がありますので、SDGsの理念としては、恐らく日本の経営者にとっては当たり前のことだなという受け止め方だと思います。それでも具体的に2030年における社会が何を求めるだろうかというのを具体的にリストアップしてくれたことは、やはり企業の事業戦略にとって非常に具体的な指針を与えてくれたという点で意義があり、それを上手に使うべきだろうという風に思っております。
では、SDGsと知財制度との関係ですが、研究の成果を権利化する、権利化したものを活用する、活用して上がってくる利益で再び研究する、これを回していくという意味で以前より『知的創造サイクル』という言葉が使われております。この言葉はその通りなのですが、実はそれを上手にダイナミックに回していくためには逆の発想が必要で、どういう事業をするのか、そのためにどういう権利が必要か、うちにその権利がないのであれば研究開発しなくてはいけないという風に、逆に回していかないといけない。それが恐らく知財戦略において一番重要な今後の視点だと思うのです。事業オリエンテッドな知財戦略を立てて実行していくというのが、今求められている時代だろうと思います。
恐らくそのように企業の知財部は動いていると思うのですが、今まさにそういったSDGsによってリストアップされた様々な将来ビジョンや社会が目指すべき方向、これを作れば売れる、これを作れば社会のために役立つというものが明らかになっています。知財部がそれを一つの指針として、自社は将来どういう事業を目指すのか、事業のために必要な知財のポートフォリオは何なのかと考えていくのが良いと思います。ある一部の技術は、大学と連携したり、あるいは他社と連携することでも良い。一方でここの技術は自分たちで作ろうということで、出来れば知財部がその研究開発のテーマを研究開発部門のほうにプッシュできるように変わっていかないといけない。そういう時代においてSDGsは格好の材料を提供してくれているという風に思います。
同時に国の政策立案者側も、特許制度はどうあるべきかを考え続けないといけないと思います。特許制度の目的というのは産業の発達、イノベーション。これが依然として重要であることに間違いはないのですが、企業の戦略や価値観も変わってきています。社会が求める価値観も変わってきた中において、知財制度はどうあるべきかというところを考えるときに、やはり価値の多元化、グローバルなトレンドは前提になるでしょう。それから、ものだけではなくて情報が経済的な富を生み出す源泉になっているということを考えていきながら、知財制度の立案をしていかなければいけないと思います。そういった意味でグローバル化、それからデジタル化、そしてSDGsに代表される価値の多元化、それをミックスしたような最適な知財制度を作っていくということも、国側に求められるのではないかなという風に思っております。
WIPO GREENの2つの弱点
澤井さん
久慈様にお聞きします。 WIPOや各国政府に対する期待などありましたら、簡単にお伝えいただけますか?
久慈さん
WIPOや各国の政府に期待することは2つあります。WIPO GREENというのはスタートから7年経過しましたが、当初考えていた弱点が2つありました。
1つ目は、技術を文章で表現するデータとしているため、いくら読んでもイメージが湧きにくく、難しい内容になっていることです。なので、ビジュアル化して、世界に役立つ環境技術というのはこういうことなんだというのをわかりやすく表現するサポートというのをお願いしたいです。
2つ目は、企業やローオフィスパートナーからなるWIPO GREENのパートナーがもっとも積極的に環境ビジネスに介入するように、政府が気分を盛り上げてほしいです。
もちろんこの2つとも、地場のほうでも頑張ってはいるのですが、WIPO日本事務所にも相談していきたいと思っております。
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