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スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは

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この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

この連載では、スタートアップに特化した知財支援サービスを提供するOneip特許業務法人の澤井周さんに『スタートアップのIP経営』について、毎週お話を伺っていきます。『知財ってよく解らないなあ』という方はもちろん、スタートアップ経営者の方で『IP経営に興味がある』という方へ、この連載が気づきやヒントになれば幸いです。

澤井さん profile

弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。

【今までの連載記事】

『スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用』では、審査請求をした日から最初の結果が来るまで通常1年程度かかるところを、特許庁の審査制度として、早期審査、スーパー早期審査なる制度があると伺いました。早期審査、スーパー早期審査を使用するメリットについて教えてください。

早期審査の制度は基本的に誰でも使用できる制度です。オプション料などはかからず、通常の審査請求の料金で利用できます。一番のメリットはやはり「早く権利化できる」ところです。通常、審査請求から結果が来るまで1年程度かかるところを、早期審査を使用すれば2~3ヵ月(※今はコロナの影響で6ヵ月ほどかかる場合も)、スーパー早期審査を使えば2~3週間で結果が来ます。私のクライアントで、出願して2週間以内に特許になったケースもありますね。特許に関する発明や製品を近々発表する場合や、すでに外国出願をしているもので日本でも早急に権利化したいなど、急いで特許として権利化したい時や第三者にライセンスをしたい時に早く権利化できるというメリットがあるため、早期審査を使うことがあります。

早期審査を利用する際の注意点はありますか?

特許というのは審査請求をしたのち「特許査定」という「あなたの発明は特許になりますよー」という通知を審査官からもらいます。特許料を納付すると特許になり、その後特許庁から発行される特許公報に掲載されて、発明が全世界に公開されます。この時点で、特許出願した内容が公になってしまうので、その点は慎重に進めなければなりません。例えば出願した技術が、まだだいぶ先に開発する内容で今はコンセプトしかないという場合、開発も進んでいないタイミングに急いで早期審査をかけてしまうと、開発内容やその動向が他社にバレてしまい、情報管理の観点からリスクになりかねません。

もう一つの注意点は、最初に出した出願を改良してまた出願したいという場合、最初の出願内容が公開されていると審査官に「新規性が無い」と判断されてしまい、自ら審査のハードルを上げてしまう事になります。先に自分が出した特許出願の内容も審査の比較対象になってしまうので、早期審査をするかしないかはしっかり考えなければいけません。

まだプロダクトとしてすぐに形にならない場合や、サービスのリリースまで時間があるという場合は、早期審査を使う必要はありません。調達の際に投資家に説明する時も、実績として急いで特許権利化する必要はなく「このようなアイディアを出願しています」と説明すれば基本的には大丈夫だと思います。特許に関する情報の扱い方は非常に大切で、何を表に出すべきか出さないべきか、誰に対して説明するのかをしっかり考えることが必要です。早期審査で早く権利化できたとしても、かえって技術内容に関する情報が早く漏れてしまったという事にならないように気をつけるべきだと思います。

「今、これを権利化したい」という明確な理由が無い限りは早期審査の利用にはリスクもあるのですね。

早期審査をして特許になったけれど、いざサービスをリリースする時には特許の内容と外れてしまっていたというケースもあります。やはり実際にやるサービスとそのサービスのために特許で守りたい権利範囲は必ず合致させなければいけません。事業の進み具合を見ながら、それに応じたベストなタイミングで早期審査するしないは考えなければいけませんね。

早期審査やスーパー早期審査は「早く権利化する」以外にも活用する方法はありますか?

早期審査やスーパー早期審査には早く権利化できるというのももちろんですが、もう一つの使い方があります。例えば「特許を出したいけど、これは本当に特許になるの?」という時です。自分たちのアイディアが特許として認められるのか、本当に新しいものなのかを知るために、特許出願前に先行技術調査を行うことがあります。その先行技術調査を特許事務所や調査会社等にお願いするのですが、一気に頼むと通常は1〜2ヶ月かかりお金も20~30万程かかる場合もあります。その代わりを特許庁にしてもらうために、早期審査やスーパー早期審査を利用するケースがあります。特許庁が質の高いスピード感のある審査をしてくれるので、特許性があるかどうかをなるべく早く確認したい時に早期審査の制度を利用するのはありだと思います。出願は後から取り下げる事ができますし、もちろん公開前に早めに取り下げ手続をすれば公開されることはありません。

早期審査を有効活用できた実際の事例などはありますか?

以前、特許になるかどうか解らない案件があり、スーパー早期審査にかけたら2週間後に「特許性が無い」と返ってきました。その際に審査官は、「なぜこれが特許にならないのか」という理由を説明するために、たくさんの文献を拒絶理由通知書につけて返してくれます。その時は、間も無くサービスが始まるというタイミングで、とにかく早く権利化したいという状況でした。しかし、すでに調査をする時間が残されていなかったため、その文献を元にしながら内容を改良して再出願(優先権主張出願)し、さらに審査官に再度文献を調べてもらう意味合いでスーパー早期審査をかけました。特にITやWebサービス、アプリの分野は特許件数が年々増えており、短い期間で全てを調査することが非常に難しくなってきています。調査スキルが高い特許庁の審査官に調査していただく方が、スピードや精度など全てにおいて優れているため、このような方法で進めました。

早期審査を使うかどうかの判断基準はありますか?

例えば、『既にサービスやプロダクトをリリースしている』、『ピッチやプレゼンで第三者に話さなければいけない』、『競合他社が似たようなサービスを出しそう』、そんな時は早期審査やスーパー早期審査を活用して急いで権利化する必要があります。その一方で、リリースはまだ先でそもそも本当にリリースするかどうか解らない技術の話や、まだコンセプト段階で具体的にどのような機能に落とし込むのかが見えていない時は、急がず寝かしておいて良いと思います。サービスやプロダクトが形になり権利化の方向が見えてきた時や、急いで文献の調査をしたい時などに早期審査の制度を利用するなど、事業の進め方に紐づけながら効率的に知財の活動を進めていくことをお勧めします。

以上で、『スタートアップのIP経営』の連載は完結となります!
お読みいただきありがとうございました。

過去の『スタートアップのIP経営』の連載は、以下のリンクよりお読みいただけます。

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