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スタートアップのIP!Q&A #11 特許調査で大切なこと

連載記事

この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

 

この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許業務法人の澤井弁理士が解決していきます。この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

第11回目のお悩みは「特許調査で大切なこと」。

とある技術系スタートアップの法務部署でお仕事をしているXさんからのお悩みです。

スタートアップのIP!Q&A #10 IPランドスケープについて

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

 Xさんのお悩み
テック系スタートアップの法務部で働いています。澤井さんの連載記事「#6特許調査について」を読み、テクノロジーが事業のコアである自社は、特許調査をマストで取り入れなければならないと感じました。今後の事業計画を考えるうえで、よりしっかりと特許調査をしていきたいと考えているのですが、調査をするうえで大切なことや心に留めておいた方が良い注意事項などはありますでしょうか?

特許調査をする際、どのような目的意識を持ち、調査を進めるべきなのでしょうか?


特許調査を行う場合は、例えば特許庁等が提供する特許情報のデータベースにアクセスして行います。そこには、これまで出願された数多くの特許情報が公開されていて、特許の権利範囲や発明に関する技術内容、その発明が解決しようとする課題などが書いてあります。例えば競合他社の特許情報を調べることで、他社サービスが注力している技術の領域や他社との技術的な差別化の要因を、特許情報から見つけ出すことができると思います。そのような特許情報を分析することで、例えば競合他社の技術と自分たちの技術を比較した際に、似たようなことをしているのか?自分たちが考えている課題とは異なる課題を解決しようとしているのか?ということが浮かび上がり、そこから自社の強みを見つけ出すこともできます。

最近はSaaSやHRテック、フィンテックなど、大量のデータを処理して、そこから得られた情報をユーザーや企業に提供するソフトウェア関連のビジネスが多く生み出されています。このようなビジネス系のWebサービスについての発明は、実は過去に大企業がアイディアベースで出願しているものが意外と多いです。以前はこのような集積した大量のデータを処理してサービスに落とし込める技術が無く、実装に至らず終わってしまうというケースが多々ありました。ですが、ソフトウェア特許はアイデアがあれば出願できてしまうので、このような過去の特許が邪魔になるケースが意外と出てきます。

現在は技術が発達し、実際に大量のデータを処理できるようになりました。技術が進んだぶん、実際にプロダクトをまわしてみることで以前は見つからなかった新しい課題が見えてきます。このような新規の課題について技術的に一歩進んだ立ち位置で特許を出せると、具体的なプロダクトの実現に必須な特許をおさえることができることもあります。プロダクトを作る際もあらかじめ特許調査をすることで、自分たちがプロダクトのコア技術として保護すべき猟奇を特許情報から客観的に分析することもできます。

またスタートアップが新しいサービスを始めると、大企業がこのサービスの領域に参入してくる可能性が非常に高いです。あとあと顕在化しそうなリスクを洗い出すためにも、特許情報から競合が似たようなことをしていないかウォッチする必要があると思います。一度だけでなく、定期的に特許調査をすることで、技術や開発を進めるうえでのリスクを下げることができると思います。自分たちが持つ技術の現在の立ち位置を確認するだけでも、事業計画の指針になってくれるかもしれません

まずは自社リソースで特許調査を進めようと思っているのですが、やはり特許調査会社や弁理士の先生にお願いする方が良いでしょうか?


「誰がどんな特許を取得しているのか?」を調べるだけなら、無料ツールで検索することが可能です。INPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)が提供するJ-Plat Patは技術に関連するキーワードや会社名(出願人の名称)を入れて検索すれば該当の特許の公開情報を見ることができ、商標も同じように検索することが可能です。またGoogle Patentは、Google検索と同じ要領でキーワード検索から特許情報を調べることができます。

「誰が何を取得しているのか?」から、一歩先に進んで、より網羅的な情報を調査したい場合は、有料調査ツールや、特許調査会社、弁理士の先生にお願いするなど、外部機能を活用するのが良いかと思います。有料ツールは機能が高くなればなるほど使用料金も高く、スポットではなく定期契約となるケースも多いため、スポットで調査したい場合は弁理士の先生にお願いした方がコストが抑えられる場合もあります。

特許調査で最も意識するべきことは何でしょうか?

特許調査で調べた情報を活用することも重要ですが、最も大切なことは「継続的に調査する」ことです。他社がどのような特許を取っているのか、ビジネスがピボットした際はどの領域に転換していくのか、その技術領域でどのようなビジネスをしていくのか、確実に勝っていくためにどの技術をおさえればよいのかなど、自分たちの技術がどの立ち位置にいるかを常にウォッチすることが最も重要になります。

これがうまく機能すると、前回お話ししたIPランドスケープ(#10 IPランドスケープについて)につながり、自分たちの立ち位置が俯瞰でき、事業戦略をより高い粒度で進めていくことができるようになると思います。ですが、いきなり全てを進めるのは難しいので、初めは自分たちの技術的な課題を特許情報から見つけ出すのが良いかと思います。ライバルがどこにいるのか?どこか穴は無いのか?ということを探し出し、おさえるべき特許を考えられると、いざ出願の際に弁理士の先生と建設的な議論ができ、戦略的な特許出願につながると思います。

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は6月25日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップのIP!Q&A #10 IPランドスケープについて

 



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