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【知財イベント】WIPOシンポジウム:グローバルな時代におけるイノベーション/講演1「知財基本法から20年~知財は中小企業・スタートアップを支援する~」

イベント

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荒井 寿光さん
日本商工会議所 知的財産専門委員会 委員長
(元内閣官房知的財産戦略推進事務局 事務局長、元通商産業審議官、元特許庁長官)

 

「知的財産基本法」ができた理由

 

私は1996年に特許庁長官に就任いたしました。そして、WIPO日本事務所長の澤井さんとともにWIPOの会議に出席したり、他の国と色々な交渉をしていく中で、知財の世界は動いていると痛感いたしました。

しかし、その当時の日本は専門家だけで集まっていて社会とのコミュニケーションが少ないという印象でした。そこで、なんとか日本が時代の流れや世界の流れに乗っていくために、政府や国全体に取り組みをしてほしいということで、知的財産戦略(国家フォーラム)というものを創り、働きかけをしてきました。その結果、「知的財産基本法」ができたのです。

当時、澤井所長と世界を回っているときに2つの流れを感じました。

一つは「情報化の流れ」です。スマートフォンやインターネットの流通が始まり、情報化によって、これからは無形資産が大事になる。無形資産が大事になれば、知的財産が大事になると感じたのです。

もう一つは、「国際化の流れ」です。グローバリゼーションが進んでいましたので、国の中だけでやっているのでは上手くいかないということで、世界の競争が激化していく中で、これに打ち勝つには技術がなければ勝てないと感じました。

これも知的財産がしっかり出来てこそということで、国際競争に勝てるような知的財産が出来るように「知的財産基本法」を作ったというわけです。

 

世界は動き続けている

 

あれから20年。今改めて思い起こせば、世界は非常に動いています。その中で、日本はどうしていくのか。知的財産は、国家にとって重要な資源であるということがますます強くなりました。加えて、知的財産制度は中小企業やスタートアップを応援する力強い味方であり、制度であると痛感しています。

2002年に小泉首相は、国会で自然保持演説をしました。その中で、知的財産が重要だということ、また、知財立国を創るということを、日本の総理大臣として初めて演説されました。知財立国とは、知的財産を使って、日本人が持っている創造的能力を発揮することであります。例えば、いい発明をする、著作権でいえば、いい作品を作る。それを特許や著作権で保護することによって初めて実用化することができ、安心してお金をかけて工場を作ったり、作品を作ったりすることができるというわけです。このように知財を創造・保護・活用して知財創造サイクルを回すことで、色々な産業が発達します。それだけでなく、世界中の人が日本の製品を使ってくれて、日本の製品はいいものだと思ってくれる。それは同時に世界の文明の発展に進歩するということです。

 

「知的財産基本法」には世界初が3つある

 

さて、「知的財産基本法」には、世界で初めて行ったことが3つあります。

一つ目は、総合法律を創ったという点です。今までは、どこの国でも特許・商標・著作権などはすべて別々の法律で行っておりましたが、知財を全体として把握するために総合法律を創りました。

二つ目は、総理大臣がリーダーとなり、リーダーシップを取っていくという点です。

そして三つ目は、毎年知財推進計画を作ってPDCAで回していこうという計画を導入した点です。これは現在、世界の知財推進モデルとなっていて、他の国でも同様の法律や推進体制が出来ており、その意味でも世界のグローバルモデルとなっていると感じます。

 

人類の歴史は「発明の歴史」

 

ところで、人類の歴史とは何でしょうか。

色々な言い方があるとは思いますが、私は人類の歴史とは、発明の歴史だと思います。

四大発明というものが昔ありました。紙、印刷術、火薬、羅針盤、こういったもので文明がすっかり変わったわけです。

近代も18世紀にイギリスで第一次産業革命が起きましたが、これもジェームズ・ワットの蒸気機関の発明をきっかけとしております。このときに、発明したものを特許で守るという近代の制度ができて、その後発明と特許が車の両輪として文明を変えてきています。

19世紀には、エジソンが生まれ、彼は世界の発明王と言われております通り、たくさんの発明をしています。そして、世界中に電気が普及していきました。さらに、GEというスタートアップ企業を立ち上げ、今のモデルを作ったというわけです。

20世紀に入ると、さらに数多くの発明がなされました。20世紀後半には、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズなどの発明家が出てきて、スマートフォンやパソコンを発展させ、今のような便利な生活をつくっていきました。そして、現在ではこのようなオンラインでの会議も出来るようになったというわけです。このように、デジタル革命、情報革命は急速に進んでいます。

また、現在私たちは新型コロナウイルスと戦っていますが、このコロナウイルスとの戦いにもカタリン・カリコ博士の発明によって、従来10年かかっていたワクチンの開発が1年で実現するようになり、世界の多くの人の命が救われているというわけです。

このような意味で、人類の歴史は、発明の歴史であると感じます。

 

課題を解決できるのは発明とスタートアップだ

 

今人類は色々な課題を抱えていますが、これを解決できるのも発明とスタートアップ企業だと思っています。

現在の課題の一つに、先ほども申し上げた新型コロナウイルスとの戦いがあります。最近ではオミクロンという新たな変異株も誕生し、良い発明によってきちんとしたワクチンや治療薬を早く作るというのが、人類の生存のためにもますます必要になってきます。

二つ目の課題は、地球温暖化対策です。先日COP26が開かれましたが、地球温暖化は世界中に異常気象をもたらしており、地球と人類の危機であります。

三つ目の課題は、国連が定めた持続可能な開発目標の達成です。

これらの課題を解決できるのは、良い発明がなされるかどうか、革新的な技術開発がなされるかどうかにかかっているわけですが、これを可能にするのが特許であり、特許をはじめとする知財制度がスタートアップをしっかり増やしてくれるか、ということです。

 

中小企業の健全な発達が世界経済の健全な発達へ導く

 

このときに、中小企業は非常に重要な役割を果たしています。GDPや雇用の70%は中小企業が占めていて、残りの30%は大企業によるものですが、大企業も中小企業が作る部品や素材を組み立てることで成り立っているわけですので、大企業を支えているのも中小企業ということになります。結果として、多くの世界経済の大部分は、中小企業の上に成り立っているというわけです。

中小企業の健全な発達がなければ、世界経済の健全な発達はありません。今、中小企業は国際競争に直面しています。国内での争いの際には、色々な工夫をすることで事なきを得ていましたが、国際競争になってくると、強い技術がなければ勝てません。しかし、強い技術を持っているだけでは不十分です。しっかりと国際的な特許で保護して、それを実用化していくことが必要になってきます。

そこで、中小企業やスタートアップ企業を上手に回していくためには、知財の創造・保護・活用といった知財創造サイクルを回すことが大事になってくるわけです。知財創造サイクルを早く大きく回すということが、中小企業の発展にとっても、その国の経済の発展にとっても必要になってくるのですが、これを可能にすることとは一体何でしょうか。

 

日本の大きな課題は「IPエコシステム」の発展

 

もちろん中小企業の発明家が良い発明をするというのが中心となってきます。しかし、それだけでは不十分です。弁理士や弁護士などが発明を特許として保護したり、応援してくれること、さらにお金も必要ですので、投資家や銀行がお金を入れてくれて実用化できるようにしてくれること。また、それを応援する弁理士や会計士も必要になります。したがって、知財創造サイクルを回して、中小企業やスタートアップが発展していくためには多くのサポーターが必要なわけです。これをまとめて「IPエコシステム」と呼べると思います。

残念ながら日本では、このIPエコシステムが十分に発展していません。もちろん弁理士や弁護士は一生懸命やっています。しかし、彼らは今までの範囲で一生懸命やっているわけで、知財創造サイクルを早く大きく回すという観点で、他の人と一緒にやっていくということはまだまだ日本では足りていません。そのため、この部分をいかに強くするかということが今の日本の大きな課題だと思います。

 

知財制度は発明を「人類共通の財産」にするシステム

 

WIPOは非常に素晴らしい国際機関です。私は特許庁長官当時ジュネーブに行って、WIPOの方と様々な話をしたり、WIPOに参加する世界中の知財の関係者と様々な話をして、こんなに素晴らしいグローバルのIPプラットフォームがあるのだということを思いました。

知財制度は人々の創意工夫、発明や発見などを独占で抱え込むのではなく、人類共通の財産にするシステムです。特許も20年経てばみんなのものになります。知財は、最初は独占することで今までの発明を報いて、実用化に必要なお金の投資を可能にしますが、しばらくすると世界に解放されます。また、医療関係でいえば、良い薬が出来れば世界中の人の命が救われるというわけです。そういう意味で知財制度は人類共通のシステムだと思います。

WIPOには193カ国という世界の大部分にメンバーがいて、知財を世界に広げています。世界各国との共通システムを創ってくれたことで、おかげさまで各国での知財教育も進んでいます。また、PCT出願やマドリード、ハーグといった色々な国際出願制度によって、世界で知財を保護しやすくなりました。

知財は非常に大事なものであり、今後もWIPOがこの機能を生かしていくことが重要になってくるのですが、このときに貴重なのが「グローバルイノベーションインデックス」です。国際比較をしてみると、日本の現状について知ることができたり、直すべきところがわかったりと、いわば通知簿というようなものが出来上がります。その通知簿に沿って色々なところを直していく、ということが日本の発展になるのです。

また、同時に本イベントでは世界各国の様々なケーススタディのお話しがあります。企業の方にとっては、他の企業がどんなことをして成功したのか、あるいはどうして失敗したのか、などといったケーススタディは非常に貴重です。こういう具体的なケースが、より一層必要になってきています。これはスポーツと一緒で、知財も国際化が進んで、国際試合が増えてきているためです。スポーツ選手は、他の国の選手がどんな風にしているのかを研究することでレベルを上げていきます。同様に、知財も他の国がどういう仕組みで、どういうやり方で成功しているのかということがわかれば、レベルが上がるというわけです。レベルが上がり、良い発明がなされるということは、人類にとってとても良いことです。是非これからもWIPOの活躍に期待しております。

 

「必要」は発明の母であり、発明に「限界」なし

 

「必要」は発明の母と言われております。今人類にとっての必要とは何でしょうか。それは先ほどもお伝えした通り、地球温暖化やコロナとの戦い、そしてSDGsなどです。これは必要がはっきりしています。

では、中小企業にとっての必要とは何でしょうか。それは国際競争に勝つことです。この国際競争に勝つというためには、良い発明が必要になります。国家にとっても、企業にとっても、必要は発明の母という原点に戻って、この必要に答えていくことが重要です。

最後に、もう一つ申し上げたいことは発明に限界はないということです。こんなに良い発明をしたから、もうこれ以上のものはないだろう、とその時は思うと思います。しかし、発明に限界なしです。人間の考える力、創造する力は無限です。そして、さらに良くなっていきます。これは銀河系と同じだと思っています。どんどんフロンティアは拡がっていくのです。そのフロンティアに対して、良い発明をする、良い作品を作る、良い著作をする、あるいは農業でいえば新しい品種を開発して美味しいものを作る、災害に強いものを作る、といった工夫をしていく。発明に限界はないので、どんどんチャレンジしていくことが大切だと思います。

中小企業やスタートアップ企業の皆さん、これからもどんどん良い発明を生み出してください。皆さんの発明の結果によって、便利なものができ、便利な生活ができ、健康な生活ができ、豊かな生活ができるのです。これからも皆様のご活躍を期待しています。

 

【WIPOシンポジウム関連記事】

講演2「イノベーションのエコシステムに向けて、スタートアップ成功国カナダより学ぶ」(2022年2月28日掲載予定)

講演3(#1)「グリーン技術を持つSMEの知財管理」(2022年3月2日掲載予定)

講演3(#2)「グリーン技術を持つSMEの知財管理」(2022年3月2日掲載予定)

講演4「特許出願に関する技術者兼CEOの考察」(2022年3月4日掲載予定)

講演5「DuPontのイノベーションと知的財産活用」(2022年3月7日掲載予定)

 

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【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.7~閉会の挨拶~

 



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