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見る方向で絵が変わる!?国内最高峰のコンピューターグラフィックの学会「VC+VCC 2021」でVC論文賞を受賞!株式会社ドワンゴの櫻井さんの驚くべき技術とは?(#1)

インタビュー

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

 

2021年9月28日(火) 〜10月1日(金)に国内最高峰のコンピューターグラフィックの学会「VC+VCC 2021」が開催され、株式会社ドワンゴの社員である櫻井 快勢さんが、「視点依存で模様が変化する3Dプリント可能な構造の設計法」でVC論文賞を受賞しました。

今回は、櫻井さんに受賞した技術についての具体的な内容や技術開発を進めるうえでの知財戦略について詳しくお話しを伺いました。

 

#2はこちら↓

#2目次:
1.思いついた時点で知財部の適切なサポートが受けられた
2.産業として扱えるなら権利として特許は持っておくべき
3.広報部や知財部の方の手厚いサポートに感謝している

https://yesip.jp/ceo_interview/dwango2-2/

 

古典的な技法で受賞できたのはラッキーだった

 

―この度はVC論文賞の受賞おめでとうございます!はじめに、「VC+VCC2021」では様々な賞があるかと思います。今回受賞されたVC論文賞とはどういった賞になるのか教えてください。

まず、VC(ビジュアルコンピューティング)という学術会議について簡単に紹介すると、幾つかの学会が共催で開くCGに関してのイベントの一つで、日本国内のCG界隈では、一番注目度の高い学術会議とされています。学会は自分の開発した技術を発表する場で、ポスターや展示、口頭発表などの様々な発表形態があり、いくつかのセッションがあります。

学会で発表するためには査読というプロセスを経て選ばれないといけません。査読とは、研究者が投稿された論文を他の研究者がチェックをして、良い発表だけを世に出すという活動です。

その中で、セッションという一番長い時間枠で口頭発表させてもらえるのが、一番上のクラスの発表形態です。注目度が高く評価が高い内容が選ばれ、多くの人に見てもらえる場所で発表することができます。

今回私達が頂いたVC論文賞は、投稿論文の中で特に点数の高かったものを集めたセッションで発表し、その後に投票されるものですので、VCという学会の中で受賞が一番難しい賞です。

 

今回は視点依存で模様が変化する3Dプリント可能な構造の設計法という技術でVC論文賞を受賞したということですが、受賞したお気持ちは?

率直にラッキーだと思いました。最近のCG界隈では人工知能技術(AI)の技術が導入され、AIに関するさまざまな発表も実際にたくさんあります。AIは良い技術で、CG界隈とも相性がいいのか、さまざまな技術での転用が活性化していますよね。

今回のVCの学会でも、ハイクラスなAI技術も発表されていて、それらと点数的にも競い合うことができて良かったです。私の技術はクラシックといいますか、古い技術の組み合わせで出来ているので、最先端のAIとは種類や毛色が違ったアプローチで開発したものです。そのギャップを考えても、今回受賞できたのはラッキーだったなと思います。

 

―「VC+VCC 2021」は、1993年から開催されていて、本年で29回目ということですが、毎年出場されているのですか?

たまに出ています。一度、学生のときに出ました。最近は委員をやっているのもあり、査読側に回ることはありましたが、選手としてでたのは2〜3年ぶりです。というのも、毎年出るほどそんなに楽じゃない大会というのがあります。

 

―たまに出場していたとのことですが、今までにも賞は取られたことはあるのですか?

実は、論文賞は前に一度あって、今回は2回目の受賞になります。受賞は巡り合わせなので、毎回ラッキーという感覚です。(笑)

その中でも、今回は本当に運がよかったと思います。今後もうまくハマれば技術を発表していきたいです。

 

「表面のボコボコが気持ち悪い」から試行錯誤

 

―今回受賞された技術視点依存で模様が変化する3Dプリント可能な構造の設計法とは具体的にどのような技術なのでしょうか?

 


3Dプリントが可能な設計技術で、同じ場所なのに見る角度を変えるだけで模様が変わる
という技術です。トリッキーな見た目の構造物を作ることができます。

これまで、見た目が変わるものというと、レンズを使ったり、ホログラムなどがありました。しかし、それは複数の素材を使ったり、高価な情報記録材を使用するので、高度な技術でした。

一方で、私が開発した技術は石膏にインクを乗せるだけという非常に簡単なもので作られています。

また、色は透明でなくてもいいし、紙をたくさん織り込んで作ってもよくて、構造だけで色が変わるという効果を得られるものです。どういう構造や色にすれば、このような見た目が作れるのか、そういう設計方法についての技術です。

 

―なぜこういった技術を開発しようと思ったのでしょうか?

私はもともとCGの研究をしていたのですが、少し別の研究もしてみたいなと思ったのがきっかけです。

そんな中で、研究に関係なくいろいろな動画を見ていたときに、ある技術者がスペキュラーホログラムという技術を紹介していました。スペキュラーホログラムとは、アクリル板にカッターで傷をつけると光が動いて見えるという技術で、これは面白いと思って、試しに自分で作り始めました。でも、ただの傷なので、色がつかないことに不満でした。そこで、それをカラーにしてみようかなと思ったのが発端です。

ただ、カラーにするにも単純には出来ません。いくつかの技術を合わせないと出来ません。

私はもともとCGを勉強していました。CGは幾何学であり、数学や形の学問になります。これに加えて色の勉強をして、それらを組み合わせることで、今回みたいな構造で色を作るというアプローチが出来たという流れになります。

 

―もともとCGというパソコン上で作業をしていた方が、実際にモノづくりをするとなると結構ハードルが高かったのではないかと感じます。

そうですね。

ただ、私はもともと勉強が好きではなく、新しい分野を学ぶことは常に辛いと感じています。そのため、どんな分野を学び始めるにしても精神的苦痛は同じです。なので、新たにモノづくりが絡む研究をすることに対して特別しんどいという感覚はなかったです。(笑)

また、CGは形の科学なので、モノを作る科学とは相性が良かったのかもしれません。

 

―この技術を生み出すまでには、様々な苦労はありましたか?

ありました。

最初の1年くらいは、板に壁を貼って印刷したり、シミュレーションで繰り返し計算させたりということを行っていました。最初はただの思い付きでやっていたので、有効であるという何の根拠もありませんが、アイデア自体は良いと思っていたので、証拠集めの実験を繰り返しました。結果的に、それが有効な手段だという根拠集めに1年くらいかかりました。その中で何度もブラッシュアップして、最終的に今の出力物になっています。

実は、今の技術の前にも、表面に小さいバリア(突起物)をつけることで同じように見る角度で色が変わるという技術を開発しました。

これを初めに思いついたときには面白いだろうと思い、知財部の人と話をして、研究者のフィードバックをもらうために学会で発表したのですが、「表面のボコボコが気持ち悪い」という評価を受けました。

ならば、ボコボコを凹ませようということで、構造として組み込んだものが今回の技術です。そういった試行錯誤は何回かありました。

ただ、この試行錯誤のおかげで、技術を外に出してフィードバックをもらうと製品のクオリティは上がると感じました。

 

建造物や避難のための看板などに応用可能

 

―今回開発された視点依存で模様が変化する3Dプリント可能な構造の設計法の技術を実用化するとしたらどういう形が考えられますか?

これまで、このような技術は高価であり、なかなか制作ができないため、セキュリティ関連、例えばクレジットカードなどに使われていました。

ただ、私のこの手法はどこにでもあるような素材を組み合わせれば、角度によって見た目が変わるという技術なので、その敷居を一気に下げる可能性があると思っています。

今まで普通に使われていた印刷物や看板、物の景観など世の中にある様々なものに施せるようになるのではないかと考えています。

広いところから言えば、建造物などの見た目を操作するために使われたり、乗り物などカラーリングされているもの全般に使えるのではないかと思います。

見る角度によって異なる情報を伝えることができ、かつ電気を使わずに明かりさえあれば成立するものなので、永続的におけるという点を活かして、避難のための看板などにも使えたら社会貢献性があるかなと考えています。

 

#2へ続く↓

#2目次:
1.思いついた時点で知財部の適切なサポートが受けられた
2.産業として扱えるなら権利として特許は持っておくべき
3.広報部や知財部の方の手厚いサポートに感謝している

https://yesip.jp/ceo_interview/dwango2-2/

 

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