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若きエンジェル投資家が語る、スタートアップ投資の美学と可能性とは#1

インタビュー

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新卒から楽天・Google・AppLovinなどを経て、現在はSmartly.Io(スマートリー)の日本第1号メンバーとして働く坂本達夫さん。会社員としてご活躍される傍で、約40社のスタートアップにエンジェル投資をされています。

今回の記事では、坂本さんがエンジェル投資を始めた経緯とともに、坂本さんの投資に対する思いや、日本のスタートアップに期待していることなどをお伺いしていきます。

 

ー坂本さんがエンジェル投資家になったきっかけを教えてください。

僕は新卒で楽天に入社し、その後Googleの日本法人に転職しました。次に日本第一号社員としてAppLovinというシリコンバレーに本社を持つアドテクノロジー企業で経験を積んだのち、2019年にSmartlyというフィンランドに本社を持つ企業に日本第一号社員として入社をして、今に至ります。僕自身、起業して会社をイグジットしたという経験も無いですし、家がお金持ちとかでもなく、普通のサラリーマンの立場で投資をしているので珍しい存在かと思います。

最初から「エンジェル投資をしよう!」と思っていた訳ではなく、楽天、Googleとくると周りに起業する人が自然と増えてくるんですよね。で、VCから調達してしっかり事業を伸ばそうという段階では無くても、単純に創業するだけでも数十万ほどお金がかかります。僕も知り合いや友達が起業する際に「創業資金を貸して」とお願いされたことが何回かあるのですが、なんとなくお金の貸し借りって人間関係が崩れそうで嫌だなという感覚があったので「貸すのではなく、株主って形にしない?(笑)そしたら困った時も色々とサポートできるから。」と提案していました。

そういうことを繰り返していたら、たまたまその中の一社が次の調達ラウンドに進んで、思いもよらず成功したのです。そこから業界で「どうしてサラリーマンなのにあの会社に投資しているの?」と少し噂になったのか、紹介等で少しずつ投資先が増えていきました。たまたま投資した企業が上手く成長し、そこから他の企業も後からついてきたという感じですね。

 

ーエンジェル投資家としての現在の活動について教えてください。

今もサラリーマンなので、投資金額はとても少ないです。投資を始めた当初は、数百万ほど投資することもありましたが、今は件数が多くなった分、一件あたりは少額で行っています。僕は常に最小株主であることを運命付けられた立場です(笑)ですので、自分から何かを言うことはあまり無く、投資したスタートアップ側で困ったことや助けてほしいことがあれば、相談にのったりサポートするのが基本的なスタンスです。

その中でよくある相談は、デジタルマーケティング周りのことですね。そのフィールドでずっと仕事をしているので、基礎から教えたり、特定の事業者やベンダーさんの紹介もしています。年代的に独立系VCの知り合いが多いことや、ICC(Industry Co-Creation)を立ち上げからお手伝いしていることもあり、事業が上手く成長したので次のラウンドに進みたいという相談を受けることもあります。その場合は、VCや投資家を紹介したりもしています。

 

ー投資先を決める際はどのようなポイントを重要視していますか?

特に業界や業種を決めるということはしておらず、その結果、投資先はとてもバラエティ豊かになっています。僕が投資をする際に重要視するのは、経営者の方、個人の資質です。自分が投資した先を見てみると、成功しているところも含めて半分以上が、投資した当初と事業内容が変わっています。上手く成長せず事業を変えたり、少しずらしたとこで事業のタネを見つけたなど様々な理由はありますが、事業が上手くいかなかった際にすぐにその次の事業案が出ることが大切だと思っています。

次の案を出すためには、ここにニーズがあるという仮説が打ててロジックを組み立てられる能力や、実際にアクションが取れる能力、実行の精度、統率力や巻き込み力が必要です。そのような資質や能力を持っていれば事業が変わったとしても再現できる、優れた経営者であるといえます。万が一、今回の事業計画が上手くいかなくても、経営者が優れていれば、次の案で何とかしてくれそうだなという感覚を持っているので、そういうところに投資しています。

あとはガッツや気合いの部分です。スタートアップをしていたら、何らかのタイミングでハードシングスが起きるものです。そこで、それをしっかり乗り越えてやろうというモチベーションの源泉を持っているかどうかも重要視しています。自分が上手くいきたいだけじゃなく、社会をもっと良くしたいとか、お世話になった人へ恩返ししたいとか、ベクトルが外に向いている人は倒れにくいなと感じています。

 

ー投資家として大切にしていることはありますか?

とにかく投資先の社長のことを信じて、とやかく言わず、失敗しても受け止めてあげようというのはずっと思っています。経営者は人生をかけて起業したのに、とやかく言われてやりたくないことをやるのでは幸せではないし、こちらもリスクを負うからこそリターンが来るものだと思っています。

僕はあくまで自分の余剰資金で投資しているからこそできる事ではありますが、どうしようもなければビジネスを閉じてもいいのではと言える稀有な立場です。投資先の経営者が自分の信じた道に全力で進めるようにメンタル面でもバックアップしていきたいし、改めて別の道を選ぶ時もサポートできればいいなと考えています。

 

ー現在のスタートアップ業界に感じることはありますか?

これはポジティブでもありネガティブでもあるのですが、固いビジネスがここ数年すごく注目されている気がします。SaaSが注目されているのが一つの事例で、プロダクトができて、定石通りのマーケティングとセールスができればきちんと事業が積み上がり、バリエーションがついて、ある程度先が読めるようになってくる。そこにお金や人が入るという大きな流れがここ数年あると思っていて、これだけがスタートアップの全てになると面白くないし、もっと大きなプラットフォームポジションを取りにいける会社が出てきてもいいのではと思っています。

もちろんSaaSでも事業が上手くいき、買収を繰り返して大きくなる会社もありますが、いわゆるGAFAや、最近ではClubhouseのような、多くの人が当たり前に使うようなポジションを目指すスタートアップが日本から出てきてほしいなと思います。そもそもそこを目指そうとさえしていないのが少し勿体無く感じていて…。ある意味で博打的な要素も孕んでいるので難しくはありますが、お金も優秀な人も当たったら何万倍にもなる、というところにベットするプレイヤーが出てきてもいいのかなと思っています。

 

ー坂本さんのような、サラリーマンをしながらエンジェル投資をしたいという方も今後は増えていきそうですよね。

どんどん増えていくと思います。株式型クラウドファンディングサービスで、一口数十万で何千万もお金が集まったりしているのを見ると、やはりそこに潜在的なニーズがあるのだと感じます。僕のような小口投資で、スタートアップの文脈やお作法などを理解していて、事業の成長を投資家としてサポートできるような人がもっと増えれば、業界が更に面白くなりそうだなと思います。

 

インタビュー後編では「投資家から見たスタートアップの知財戦略」にフォーカスを当てて、お話を伺います。



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