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スタートアップのIP!Q&A #9ビジネスモデル特許について

連載記事

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この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許業務法人の澤井弁理士が解決していく新コーナーです!この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

スタートアップのIP!Q&A #8 国際出願について

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

第九回目のお悩みは「ビジネスモデル特許について」。

とあるスタートアップの法務部でお仕事をしているFさんからのお悩みです。

Fさんのお悩み

webサービスの開発と提供を行うスタートアップで仕事をしています。仕事の仕組みにITを取り入れている場合「ビジネスモデル特許」を取得できるという話を聞きました。自社のサービスも特許出願したいと考えているのですが、権利化できるのかどうか悩んでいます。

そもそも「ビジネスモデル特許」とはどのようなものなのでしょうか?

事業戦略を構築してマネタイズできる仕組みが一般的にビジネスモデルと呼ばれていますが、「ビジネスモデル特許」はビジネスモデルそのものを特許にする、というわけではありません。

正確には、そのビジネスモデルにおいて、アプリやサーバーがどういう情報を受け取り処理しているのかなど、ソフトウェアでの処理によりビジネスモデルを実現するシステムの発明を権利化したものが、ビジネスモデル特許です。例えば単にwebで集客し、お客さんがお金を払ったりサービスを受けられたりするだけのウェブサイトは特許になりません。

ソフトウェアやコンピューターによる情報処理の要素があり、そこで収集できるデータを処理してサービスに活かしていればビジネスモデル特許の対象になります。そのためビジネスモデル特許はwebサービスやアプリによる事業を保護するうえで知財として活用できるものであると言えます。

ビジネスモデル特許を取得するメリットはどのようなところにあるのでしょうか?

自分たちがやろうとしているビジネスが、AIなどの新しい技術で具体的なサービスとして実現する仕組みを守っていきたいのであれば、特許を取得することで排他的な障壁を作ることができます。例えば、従来は営業など人の力で成り立っていた事業をDXで実現しようとする場合にも、PCやソフトウェアの情報処理を用いたアイデアやスキームを特許としていち早く押さえておけば、今後DXが主流になった場合であっても他の会社が同じ事業領域に入りにくくなり、そのマーケットの中で差別化を図ることができます。

ビジネスモデル特許を取得する際の注意点はありますか?

ビジネスモデル特許は、基本的にソフトウェアの発明に関する特許になります。もし特許訴訟が起きた際、ソフトウェアの内部構造を見せる必要があり、いざ争いになった際にどこまで見せるべきかの判断が掴みにくいです。2020年10月より創設された「査証制度」により、今後は機密情報を守りながら情報開示することもあるかと思いますが、この制度を利用するには手続きが必要です。その点に関するリスクは事前に検討しておく必要があるかと思います。

ビジネスモデル特許はどのように活用するのが望ましいのでしょうか?

個人的な考えですが、ウェブやアプリケーションによるビジネス関連の事業領域においては、ビジネスモデル特許だけを頼りにして、マーケット内での参入障壁を築いたり差別化の要因にするのは難しいと感じています。

というのも、ビジネスモデル特許は権利の回避が他の技術領域よりも容易であり、特許の取り方がうまくないと簡単に真似をされてしまう可能性もあるからです。なのでビジネスモデル特許が直接企業の競争力にどれだけ寄与するかは一概に言えません。重要なのは最初のビジネスモデルの構想段階と、ビジネスモデルを実現するプロダクトの作り込みにおける新たな課題の発見であると思います。

まず「プロダクトの開発」を山登りに例えると、頂上をゴール(プロダクト)、道をアプローチ(開発)と考えます。

ここで「強い特許」は、「道に置かれた壁として邪魔」であると考えます。この強い特許に成りうるものは個人的には大きく二種類あると考えており、一つはビジネスを保護するためにアイディアを保護する概念特許、もうひとつは プロダクト領域の保護やサービス実現のために欠かせない要素を保護するキラー特許です(ネーミングは勝手に考えています)。概念特許とキラー特許それぞれが持つ性質は下記の図になります。

概念特許はいわゆるビジネスモデルそのものを実現するスキームをソフトウェアで実現する高いレイヤーでの特許になります。ビジネスモデルそのものが押さえられれば、場合によっては強い特許になります。一方で特許性が認められにくいケースも多く、権利化の段階で権利範囲が減縮されると、想定より狭い権利範囲となって、権利を容易に回避されてしまうケースもあります。

一方でキラー特許は、プロダクトを実装していく段階で、どのようなアプローチをとっても必ず通らなければいけない技術的なポイントを保護する特許です。一見低いレイヤーで権利範囲が狭くなりがちではありますが、実装しないと見えてこない新たな課題を解決するものなので、ピンポイントではあるものの強い特許になりやすいのです。

ビジネスモデル特許は、アイデアベースでもロジックさえ通っていれば実装していなくとも権利化できる可能性が高いです。ビジネスモデル特許は、「概念特許」としても「キラー特許」としても活用できると思いますが、大切なのはビジネスモデルそのものを特許で抑えることだけではありません。プロダクトの作り込みを進めていく中で、新たに出てくる課題であってボトルネックとなるような課題を確実におさえるために、ビジネスモデル特許を取得するのが最適だと思います。

プロダクトの開発初期の段階で特許が出せなくても焦ることは無く、開発を進めていく中で見えてきた課題の中に新しい特許のタネ、すなわち他と差別化できたり参入障壁となるタネが出てきます。そうすると、仮に先行者が広めの概念特許をおさえていたとしても、実際のプロダクトで重要な部分を先回りしてしまえば、他社は違う方法でプロダクトを作る必要ができ、プロダクトの開発速度を抑えられるという牽制効果が働く場合も考えられます。プロダクトのコアとなる部分を見つけた際にビジネスモデル特許などでしっかりと押さえておくことが重要だと思います。そのためには、プロダクトの開発においては、継続的に知財についてアンテナを張っておく必要があると考えます。

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は5月28日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップのIP!Q&A #8 国際出願について



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