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スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

連載記事

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

この連載では、スタートアップに特化した知財支援サービスを提供するOneip特許業務法人の澤井周さんに『スタートアップのIP経営』について、毎週お話を伺っていきます。『知財ってよく解らないなあ』という方はもちろん、スタートアップ経営者の方で『IP経営に興味がある』という方へ、この連載が、気づきやヒントになれば幸いです。

澤井さん profile

弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。

≪スタートアップのIP経営に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは

そもそも『知財』とは、どのようなものなのでしょうか?

一言に知財と言っても色々なものがあります。例えば特許や商標、それ以外にも漫画や本といった著作物なども全て含めて『知財』と呼ばれるものです。知財に関する権利が、今回フォーカスする『知的財産権』になります。

例えば、発明を保護しているのが特許権で、ロゴやブランド名を保護するのが商標権です。知的財産権にも色々とありますが、その中でも特許や商標に関する権利は特許庁に出願して審査をしてもらい、OKが出たら初めてそこで権利として認められます。知的財産権の中で、審査を経て権利を得るものは、基本的に早いものがちなんです。

特許庁への出願が早い方が勝つのですか?

そうですね、出願が早い方が基本的には有利です。ちなみに、よくSNSなどで「特許『申請』しました」という言葉を見かけることが多いと思いますが、あれは厳密に言うと「申請」ではなく「出願」なんです。大学入試と同じで、出しただけではなく、審査を通して認められたものが、一般的に出願と呼ばれるものです。発明は出願をしないと権利にならず、特許が取れない場合は権利としてほぼ何も守られていない状態なので、誰でも使える技術になってしまいます。悪く言えば、どんなに素晴らしい技術でも特許を取っていなければパクリ放題になってしまうということです。

パクられるとどうなってしまうのでしょうか?

例えばこんな仮想事例が考えられます。

斬新な技術を持っていて、ビジネスモデルもこれまでのものとは一線を画してしっかりしている素晴らしいスタートアップA社があるとします。しかしA社は特許を全く出願しておらず、彼らの技術は何も守られていない状態でした。ここでA社は、技術を活用して幅広くマーケットに浸透させるため、他の事業会社B社と共同開発をして新事業を進めようとします。最初はうまくコミュニケーションを取っていましたが、突然B社から連絡が途絶えます。不思議に思っていると、ある日B社が新しいプレスリリースを出し、その内容はなんとA社の技術を丸パクリした内容だった…。

これは完全にフィクションですが、私の知る限り現実で起こりうるシチュエーションを紹介しました。

とてもこわいですね…
B社はパクったことで法的に罰されないのですか?

特許の場合は、特許出願する前に世間にその技術が公に知られてしまえば、原則としてその技術について特許を取ることができません。特許が取れなかった技術は言い方は悪いですがパクリ放題です。

例えばA社が自分たちの技術力をアピールするために投資家にやイベントなどで公に話していたとします。この場合、そこで話された内容は公知になるため、NDA(秘密保持契約)を仮に結んでいても、自ら公に話しているため秘密機密情報の範囲外になってしまうんです。

また、A社の技術を利用して、他社がこっそり先に取っていたというケースもあります。これは『改良発明』というものなのですが、A社の技術についてのの特許をB社が先に取ってしまえば、今度はA社が自分たちの技術でサービスを始めようとした際にB社の特許を侵害することになってしまいます。逆に罠にハマったような状況になり、スケールすることができなくなります。さらに、自分たちのブランドに関する商標に関する権利(商標権)も取っておらず、他社に取られて自由にそのブランド名が使えなくなった場合には、残念ながら技術と一緒に積み上げてきたブランドをたたまなければならなくなるケースもあります。これは特許だけではなく商標も疎かにしていたケースで起こりうるシチュエーションですね。

スタートアップが知財を意識するのに、ベストなタイミングはありますか?

基本的には知財については事業を続けている限りずっとケアしたほうがよいのですが、一番大切なのは一番最初の時期です。

特に商標は一番最初にケアすべきところです。商標の登録出願をしていないと、先にも説明したように、他人が出願して権利にしてしまい、逆に訴えられる場合もあります。また、商標の権利を高額で売るという交渉に持ち込まれた実例もあります。泣く泣く、自分たちの使用してきた名前を変えなければいけなくなり、自分たちが高めてきた信頼やブランド力が一気にゼロになってしまいます。ブランド名やサービス名は自分たちが思っている以上に、他人が見たときの信用の価値になります。

そして、技術を保護する特許も重要です。まず、特許は自分たちが独占して使える競争力の源にもなります。誰でも使えるものになってしまえば、大企業やお金を持っている人が勝ちます。スタートアップこそ、競争の優位性をつけるために最初からしっかりとケアするべきだと感じています。新しい価値を低いリスクで育てていくために、事業を進めるうえで特許は欠かせないと思っています。また、スタートアップの技術領域やステージによっては、特許が、協業相手となり得る大企業にとって、魅力的であったりリスクヘッジをしていることの信頼性が高かったり、技術を広く市場に流通するための機会を得るためのアイテムにもなり得ます。

商標や特許を取るにはお金がかかりますよね。
知財にかける予算がないスタートアップはどうすれば良いでしょうか?

特許や商標のように出願して権利を得るものは基本的には早い者勝ちなんです。早いタイミングでしっかりケアする事が大切ですが、無料で取れる訳ではありません。特許庁にかかるお金と特許事務所にかかるお金が必要です。そのコストは事務所によっても違うのですが、だいたい特許を取るのに60万〜80万、商標は10~20万かかると言われています。

スタートアップが初期の段階でいきなり知財を完全にケアするのは厳しいと思います。なので、そういったスタートアップの性質や金銭的な事情(次回資金調達後に支払タイミングをずらしてもらうなど)を解ってくれている弁理士や専門家を見つけることが重要だと思っています。見つけ方は、投資家に紹介してもらったり特許庁のベンチャー支援プログラムを頼るのも良いかと思います。

特許事務所を通さずに、自分たちで特許出願や商標登録出願申請をするという選択肢もありますか?

それはかなり危険な行為です。特許の出願書類は非常にテクニカルであり、経験を積んでいないと、どこに何を書けば良いかが分かりません。権利範囲の書き方や権利の取り方もテクニックが必要で、そういった専門的な知識が無いまま自分たちで賄おうとすると、特許を出しても穴だらけで、非常に狭い権利しか取れなかったり、手の内を明かしてお金を出したのに(特許は一定期間後公開されます)、最終的に全く価値のない特許になってしまう可能性があります。そのような事にならないためにも、特許や商標の出願は弁理士に依頼することを強くお勧めします。

次回は、『スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?についてお送りします!

≪スタートアップのIP経営に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは



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