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スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

連載記事

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この連載では、スタートアップに特化した知財支援サービスを提供するOneip特許業務法人の澤井周さんに『スタートアップのIP経営』について、毎週お話を伺っていきます。『知財ってよく解らないなあ』という方はもちろん、スタートアップ経営者の方で『IP経営に興味がある』という方へ、この連載が、気づきやヒントになれば幸いです。

澤井さん profile

弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。

澤井さんは、もともとスタートアップの知財支援に興味があったのですか?


以前は大企業をクライアントにしている特許事務所にいたので、スタートアップに関わる機会はほぼありませんでした。たまたま知財関連のイベントを見に行く機会があり、『スタートアップに知財はなくてはならない、重要な無形資産(Intangible Assets)である』という話を聞き、そこで初めて興味を持ちました。また、特許事務所で代理人の仕事をしていた経験と企業の知財部に出向していた両方の経験を、スタートアップの知財支援では活かせるのではないかと思ったのです。後から考えてみれば、知財に関するこの2つの立場からの経験は、非常に役立っていると感じています。

弁理士として、初めはスタートアップに対してどのようなイメージを持っていましたか?


スタートアップは人もお金も少ない一方で、スピード感がとにかく大切というイメージを持っていました。以前の私の『知財』に対する考え方は、どちらかといえばスピード感よりも、時間をかけてしっかり権利を守ろうという時に特許が出てくるのだと思っていました。弁理士の視点から見ると、お金もなくスピード感が大切なら特許の数もあまり出ないのでは?と思っていたし、スタートアップの視点から見ても、特許以外にもっと他にお金や時間をかけるところがあるんだろうなと思っていました。

澤井さんが、スタートアップの知財支援をしようと思ったきっかけを教えてください。


スタートアップは、新たな社会的課題を解決して新しい世界を作ろうとしている会社がほとんどだと思います。お金も人もいないけど、新しいアイディアはたくさんある。そうすると、そのアイディアが将来的に物凄く価値のあるものになるかもしれません。特許はアイディアを誰が出したのか、という証明にもなります。そうなると経営資源が乏しいスタートアップでも、そのアウトプット自体は凄く価値があるものだと考えるようになりました。そのアウトプットを戦略的にかつ法的に保護するのは非常に重要だということに仕事を通して気づかされ、それが納得に変わっていきました。

スタートアップの知財支援とは具体的にどのような事をされているのですか?


まずはお客様の事業を理解し、その事業に基づき、どのように知財を権利化して保護していくかを考えるのがメインですね。権利化のフェーズも重要なのですが、やはり大切なのが、スタートアップの事業を理解している前提でどのような特許を出していくかを考えることです。スタートアップは限られた予算の中で特許を出して行かなければならない。お客様が何を実現していきたいのかを理解し、その理解に沿ってどのように知財を守っていくかというところまで落とし込んでいく。ここが一番重要なところだと思っています。

大企業とスタートアップでは、知財支援の進め方が違いますか?


色々ありますが、一番はお客様との関わりかたが大きく違います。大企業は現場の技術者や研究者や、ある製品を開発している人が何を特許として守りたいのかというプロダクトのレイヤーでお話をすることが多いです。単なる開発の成果を特許として出しておくというノルマの意味合いとしての場合もあります。一方で、スタートアップの場合は経営者の方や開発を先頭に立って進めている人と話をすることが多く『これを開発してどういう世界を実現したいのか?』という割と大きなビジョンで話を進めていきます。スタートアップの知財支援は、経営という部分に深く関わるというところがまず違う部分ですね。

大企業の場合は、基本的にお客様のオーダーに沿って進めていきますが、スタートアップの場合はこちら側が待つというよりは、こちら側から守るべき知財を提案する姿勢を持って進めていきます。お客様が知財の全てを理解している訳ではないので、弁理士がリードをしていく必要もあり、裁量が大きいぶん責任も大きいです。

あとは企業の成長の振れ幅や時間軸のスケールも違いますね。大企業は経営にあまり波が無いため、現在のマーケットを維持していくために長期のスパンで計画を立てるケースが多いと思います。一方で、スタートアップは資金調達をしながらスピード感をもって急激に成長をしていくので、スケジュールの管理が重要です。そうした時間軸の違いも考慮して提案する必要があります。

実際にスタートアップとお仕事をして、大変だと感じることはありますか?

やはりスピードがとにかく速いところですね。資金調達や、サービスのローンチなど、気づいたら進んでいるということが多いです。また、知財に関して凄く知っているという人も少ないので、知財の使い方をいかに早く理解してもらえるかも、重要視しています。一番最初のタイミングである程度の理解があれば、知財戦略の進め方も変わっていくので。

実際にお仕事をする前と後で、スタートアップのイメージは変わりましたか?


初めはスタートアップに対してキラキラしたイメージを持っていたのですが、実際のところは結構みなさん泥臭い仕事が中心ですね。外側と内側では、実際の印象がかなり違うと思います。『スタートアップはお金がない』というイメージも、半分正解で半分間違いであって、お客様の成長ステージや調達のタイミングによります。スタートアップのファイナンスに関する知見をある程度理解できてからは、お客様によって何をどのタイミングでどう提案するべきなのかというところが大分わかるようになりました。そういう面ではかなりイメージが変わりましたね。

スタートアップに知財は必要だと思いますか?


お客様が何を実現したいのかにもよりますが、少なくともこれまでにない課題解決をするうえで新しいテクノロジーが必要なのであれば、業種に関わらず積極的に知財を活用した方が良いと考えています。スピード感なども全て考慮した上で、必要な知財は確保していくことが重要になります。スタートアップが新しいテクノロジーを知財で守ることで、知財そのものが自分たちのブランドにもなり、ただ自社の技術を保護するだけでなく、大企業等の協業を実現するためのカードになったり、マーケットをコントロールしていく上での優位性を確保することができますし、さらに世の中に対する自分たちの価値の証明にもなります。将来的にスタートアップが成長した時に、低いコストで大きな資産になるようなレバレッジが大きくなる場合もあると思います。

スタートアップはやるべきことが多くて忙しいとは思うのですが、守っていなかったことで、全てがゼロになる可能性もある。知財の事をどこかしら頭の中に入れておいていただいて、少しでも気になったら相談するのが、当たり前のことになればいいなと思っています。

スタートアップの知財支援に、どのようなやりがいを感じますか?


自分の裁量と責任が大きいところでしょうか。大企業と事務所の関係では、それぞれにおけるプロフェッショナルを発揮できる面白さがありますが、スタートアップの知財支援ではその2つ全て弁理士が見なければなりません。事業に沿った知財戦略を考えたり、競合他社の調査をしたり、経営者の考えを聞いたうえで提案できたりと、幅広く知財の仕事に関われる部分には非常にやりがいを感じます

実際にスタートアップの支援をしたいと考えている弁理士さんに向けてアドバイスや伝えたいことはありますか?


もし興味がある弁理士さんは、最初はスタートアップの知財支援に関するイベントなどに参加してみるのが良いかもしれません。個人で弁理士をやられている方は、もともとのお客様を持ちながらスタートアップの相談にのるところから始めるのが良いかと思います。投資家やVCが目利きをしているスタートアップはそれなりの体力を持っているところが多いので何らかの投資家コミュニティや、特許庁のIPASでもスタートアップのメンタリング制度などをおこなっているので、ぜひそのような機会を見つけて、そこでお客様を見つけるのも良いかと思います。本格的に取り組まれたい方は、はじめはスタートアップの支援をしっかり行っている事務所で働いてみるのも良いかもしれません

この連載コンテンツでもスタートアップの知財支援に関する情報を発信していきます。まずはスタートアップの性質や知財支援の実情を、メディアを通して知っていただければと思っています。

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

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