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スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

連載記事

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この連載では、スタートアップに特化した知財支援サービスを提供するOneip特許業務法人の澤井周さんに『スタートアップのIP経営』について、毎週お話を伺っていきます。『知財ってよく解らないなあ』という方はもちろん、スタートアップ経営者の方で『IP経営に興味がある』という方へ、この連載が気づきやヒントになれば幸いです。

澤井さん profile

弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。

≪スタートアップのIP経営に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは

『スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?』では、特許を取得する際の費用について澤井さんにお話を伺いしました。スタートアップがキャッシュを抑えながら然るべき特許を確実に取っていくために利用できる、おトクな制度などはあるのでしょうか?

以前、特許を取る時は特許庁に支払うお金弁理士に支払うお金の二種類があると説明しました。そのうち特許庁の制度として、特許庁にかかる費用を減免してくれる制度があります。また、特許になるまで、特許庁に支払う手数料として、通常は大体15~20万程お金がかかります。さらに弁理士の先生に支払う費用がかかってくるので、特許を取るまでトータルで大体80万程かかります。分野によっては100~150万程かかる場合もあります。それに加えて、取得した特許を維持するにもお金がかかります(年金と呼んでいます)。一般的に特許の権利期間は、特許を出願してからの権利期間はMAX20年です。そこまでずっと特許を持っているとすると、トータルで1件あたり100〜150万程かかります。スタートアップはできるだけ出ていくキャッシュは抑えたいと思いますが、特許を出したいのにお金が無いから出せないとなると、色々な機会損失の恐れがあります。そのような事態を防ぐために公的な減免制度はどんどん活用するべきです。

特許庁の減免制度とはどのようなものなのでしょうか?

まずは特許料等の減免制度があります。これは、スタートアップであればほとんど確実に利用できる制度です。減免対象の庁費用は、出願審査請求料特許料(1~10年分まで)PCT出願の送付手数料調査手数料予備審査手数料となっています。この費用が中小企業であれば1/2、中小ベンチャー/小規模企業であれば1/3に減免されます。

想像以上に減免される事に驚きました。減免対象の庁費用についてお伺いしていきたいと思います。出願審査請求料、特許料とは何にかかる費用なのでしょうか?

特許は出願しただけでは特許にならず、必ず出願審査の手続きを行う必要があります。その際に特許庁に支払うお金が出願審査請求料です。これが1件あたり大体10~20万ほどかかるのですが、この費用が1/2や1/3になります
次に特許料ですね。これは特許になるという通知が来た時に特許庁に納付する料金です。これを支払う事で、初めて特許になります。最初に最低でも3年分を支払う事が定められております。減免が効くのは最初の10年分なので、一気に10年分を払い、減免制度をMAXで利用するという手もありますね。

減免を受けるために満たしておかなければならない条件などはありますか?

いわゆる「中小ベンチャー企業」には3つの条件があります。1つは設立後10年未満であること、2つ目は資本金(資本準備金を除く)や出資金が3億円以下の法人であること、3つ目は大企業に支配されておらず、どこかの子会社や関連会社でなくどこにも株を持たれていないことです。以前は中小ベンチャー企業の条件を満たしているという証明のために登記簿や株主名簿を提出する必要がありましたが、現在は必要ありません。そのぶん手続きが省略化され、利用しやすい制度になりました。詳細の条件については特許庁のウェブサイトに記載されているので、そちらをご確認いただければと思います。

減免制度の他に、知っておくとお得な制度はありますか?

PCTという国際出願をした際に国際出願手数料の一部を交付金として受け取れる制度があります。減免ではなく、一旦支払わなければいけない費用が後でキャッシュバックされる制度になっています。提出書類がいくつかあり手続き自体は少し面倒なのですが、国際出願手数料は最初から何十万〜といった大きなお金を出さなければいけないケースが多いので、この制度はしっかり利用された方が良いと思います。

助成金や補助金が出ることもあるのでしょうか?

助成金や補助金を自治体が出してくれるケースがあります。例えば、都内のスタートアップで一番利用するケースが多いのは東京都の外国特許出願費用助成事業で、外国に特許を出願する時の費用を1/2負担してくれるものです。しかも去年は上限が300万だったのですが、本年度から400万に上がりました。さらに対象になる種類の費用も増えた、非常に有難い制度です。助成金や補助金の利用は色々と申請書類や報告書の準備が必要になりますので、そこは専門家の先生に手助けをしてもらいながら進めましょう。外国出願は権利化するまで100万円~200万円くらいかかるケースもあります。例えば、アメリカと中国の二カ国で権利化しようとすると1件あたり200万程かかります。最初のコストを考えると少し大変かもしれないですが、その半分は自治体から助成金や補助金として受け取れますので、外国出願を考えている企業はぜひ利用された方が良いと思います。

助成金や補助金を出している自治体は東京都以外にもありますか?

国を始め、外国出願に関する助成金や補助金を出している自治体は多いです。JETRO(日本貿易振興機構)の施策で補助金が出たり、県や市や区単位で出しているものもあります。国内の出願費用を負担してくれる制度もありますね。自分の会社がある場所の自治体が出している補助金や助成金の制度について確認しておくと良いでしょう。ただ、助成金などは審査がありますので、全員が全員、必ず受け取れるというわけではありません。何かしらお金をもらうための理由や今後の事業計画なども書類で説明しなければならないので、準備も大変なうえに必ずもらえるかはわかりませんが、使わない手はありませんので、ぜひ有効活用してほしいです。

キャッシュが無いスタートアップでも、特許庁や自治体などの制度を積極的に活用することで、同じ予算の中でもより多くの特許を取得できますね。

どうしても事業を進めるための予算を考えた時に知財は後回しになりがちです。特許にたくさんお金を使ったからといって事業ができるかと言えばそのようなケースは限られていますし、出て行くお金は極力、減らした方が良いと考えるのはどの企業も同じだと思います。ですが、お金の面で特許を出すことを躊躇し、遅れてしまうのは非常に勿体無いです。世の中がコロナであれ不景気であれ、やっぱり特許は基本的には早い者勝ちです。躊躇なくベストなタイミングで出せるように費用の軽減や補助金などの制度を知っておき、うまく活用する事も重要なポイントだと思うので、ぜひ色々な制度を使い倒してほしいです。

 

次回(最終話)は、『スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とはについてお送りします!

≪スタートアップのIP経営に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

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スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

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