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スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

連載記事

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この連載では、スタートアップに特化した知財支援サービスを提供するOneip特許業務法人の澤井周さんに『スタートアップのIP経営』について、毎週お話を伺っていきます。『知財ってよく解らないなあ』という方はもちろん、スタートアップ経営者の方で『IP経営に興味がある』という方へ、この連載が、気づきやヒントになれば幸いです。

澤井さん profile

弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。

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連載タイトルにも入っているIP経営という言葉。『IP経営』とは、どのようなものなのでしょうか?

まず前提として、『IP経営』に一般的な定義はないと思います。つまり、『IP経営』はその人なりの定義や解釈があると思うのですが、『IP経営』という言葉には何かしら知財を活用するという意味合いがあると考えています。まずは『IP経営』という概念を、スタートアップに認知して欲しいなと思います。

澤井さんは『IP経営』をどのように定義しているのですか?

あくまで自分の考えですが、経営資源として知財を取り入れ、知財を一つの軸として事業活動に組み込むことと定義しています。スタートアップを経営していくうえで、知財を経営判断や事業展開、研究開発などの色々なシーンで考慮に入れていくこと。これがIP経営の一つの定義と考えています。

「IP経営ができていない」とは、どのような状況のことをいうのでしょうか?

例えば、ある会社を立ち上げて、その会社に名前をつけた際に、すでに他の会社の名前であった、もしくはとても近い言葉であったにも関わらず使用し続けるとします。その名前がたとえ自分たちで考えた言葉であっても、他人から「パクリ」と言われたり、商標権の侵害という話に発展する可能性があります。また、会社の名前だけでなく、プロダクトやサービスで、他人の特許権を侵害するようなことが起こる可能性があります。つまり、自分たちがやっていることにのみ集中し、他がどのような事をしているのかまでをケアできていない、他人の知財を気にしていない状況は「IP経営ができていない」と言うことができます。あくまで例えばのケースですが、他者の知財(実際の権利に関わらず、他者のプロダクトやブランドも含む意味で)を考慮できていない、リスペクトできていないことは、後々予期しないトラブルに巻き込まれることがあります。

スタートアップがIP経営をする際、まずは何から始めれば良いのでしょうか。

すごく簡単なところとしては、まずは「パクり」「パクられ」を意識することから始めるのがよいかと思います。例えばWebサービスを展開する時に、サービス名やデザイン、UI、ビジネスモデルは他のサービスをパクっていないか?パクられていないか?と意識するだけでも違ってきます。実際にベンチャー企業のビジネスモデルを大企業が真似をして、オペレーションにものを言わせて大企業が勝ってしまうというケースもあります。パクられても良いのか?パクられないようにするにはどうすればいいのか?パクられても勝てる要因はあるのか?ということを最初は意識することから始めるのがよいと思います。そこから、具体的に事業を進めていくフェーズになった時には、弁理士や弁護士に知財について相談する、というのが良いですね。

意識をするだけで『IP経営』になるのですね。

特にエンジェルやシード期のスタートアップは、マンパワーも少なく自分の使える時間が限られていると思います。もちろんIP経営にも色々なレベルがあり、技術領域やマーケット、成長段階によって求められるものは変わってくると思いますが、初めから知財に時間を割くのは難しいと思うのです。知財は事業に紐づくものですので、まずは頭の片隅に入れておいて「これ知財になるのかな?」と常に意識し、専門的な話になった時に弁理士に相談して進めていくことをおすすめします。特に初めの頃は、少し知財の意識があるだけでも違います。最初から全て自分たちでやろうとすると時間もお金もかかるので、あくまでステージに合わせてIP経営のレベルも上げていくのが良いと思います。

まずは『IP経営』を意識することから始めれば良いのですね。意識をして、更にそこから実践するには何をすれば良いのでしょうか。

そもそも自分たちの作ったプロダクトの強みはどこにあるのか?この整理をするのが良いと考えます。自分たちの技術の整理ができていると、自分たちが強い領域がそれなりに見えてきます。そこから先は弁理士に相談して、その領域で他がバンバン特許を取っていないか、逆に全く特許が出ていない領域なのかを調べていくのが良いと思います。

新しい特許を取る際、重要なのは「新しい課題を見つけてそれを解決した」技術が何かということなのです。特許は、これまでなかった課題を解決しているかどうかが重要視されます。この「発明」がすごいかすごくないか、というよりかは、たとえ些細な課題であっても、それが少しでも新しいものであれば特許を取れるのです。特許を考えると自分たちがやろうとしている課題解決がリンクするので、スタートアップと特許は凄く親和性が高いと思っています。目先の技術よりも、どんな課題を解決したいのか。それを知財に落とし込むイメージを持ってもらえたら良いかと思います。

『IP経営』は、業界での自分たちの立ち位置を把握するためにも有効な手段になりますか?

スタートアップが投資家たちに説明する際は、近いベンチャー企業や大企業をベンチマークにして自分たちの立ち位置をアピールします。そこにIPの軸が入ってくると、今度は技術的に領域を独占できるのか?という話になります。技術を大企業に真似されて、一気に製品化をされ、マーケットを支配されてしまう可能性もあります。知財を事業を進める上で重要な要素として捉えているか、他との差別化の要素として捉えているのか。知財を考えることは自分たちの事業戦略を考えるうえでも、新しい視点や競合との違いをクリアに見せるのに有効だと思います。IPランドスケープという調査手法も最近話題に上がっていますが、これは単に特許を調べるだけでなく、出てきた特許の会社の経営状況やマーケットを総合的に分析し、次のマーケットはここの領域を狙っていきましょうと知財視点で分析するものです。特許の情報は、単なる技術動向だけでなく、マーケットを把握するためにも、積極的に利用すると良いと思います。

澤井さんは『IP経営』をどのようなものだと考えていますか?

『IP経営』は、間違っても知財を前面に打ち出す経営のことではありません。最初は知財を意識することから始める、これでIP経営の最初の一歩を踏み出したことになります。事業が進んでいくなかで他者との関係やマーケットの立ち位置を把握し、事業戦略の中において知財を保護し活用していくのが、理想的なIP経営だと考えています。知財との付き合い方は段階があると思いますので、まずは知財を意識する、次に事業と関連する知財を保護する、というように進めていくのがよいかなと思います。もちろん医薬系やバイオ系など、事業や研究開発の初期から知財を完全に意識していないといけない領域もありますが、多くの企業は最初からIP経営を全て意識するのは難しいと思うのです。ですので、まずは知財に関するリテラシーをつけて、その後事業を進めるうえで知財が他社との差別化で重要となる際に、がっつり取り組んでもらえればと思います。

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

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