fbpx

スタートアップのIP!Q&A #4大企業とのライセンス契約について

連載記事

この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

 

この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許業務法人の澤井弁理士が解決していく新コーナーです!この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

スタートアップのIP!Q&A #3アイデアやノウハウは権利化できる?

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

第四回目のお悩みは「大企業とのライセンス契約について」

とあるスタートアップの法務部でお仕事をしているAさんからのお悩みです。

Aさん  法務担当

Aさんのお悩み

スタートアップの法務部で仕事をしています。弊社が開発したプロダクトに関して、大企業から「ライセンス契約」をしたいと申し出がありました。大企業とのライセンス契約において、スタートアップ側が気をつけるべきことはありますか?

そもそも、ライセンス契約とはどのような契約のことをいうのでしょうか?

「ライセンス契約」は、ここでは知的財産権に基づく権原をライセンシーに付与する契約、という定義とします。例えば、スタートアップが開発したプロダクトを大企業が量産したい場合に、スタートアップが有する特許を大企業に実施させる権原を与えるのが、ライセンス契約の一例です。他にも、フランチャイズがロゴや商標を貸すのも一種のライセンス契約です。また、ライセンス契約とは少し異なりますが、製造元の製品を販売元のブランドで売り出すためのOEM契約などもあります。自分が所有する知的財産権に基づく権原(実施権など)を第三者に有償や無償で与えるものがライセンス契約です。

スタートアップが結ぶライセンス契約はどのような種類のものが多いのでしょうか?

例えばテック系のものづくりスタートアップの場合、プロダクトに関する特許を押さえておいて、大企業がそのプロダクトを量産化するためにライセンス契約を結ぶという話はよく聞きます。大企業に製造を委託する代わりに、一定のライセンスフィーをもらう形ですね。なお、ライセンスの対象は特許だけではなく、技術的なノウハウ等も含まれることがあります。他にも、製薬やバイオなどの事業領域では、薬を開発するにあたりその薬に関する化合物やモダリティに関し、基本特許に関する特許権をスタートアップから大企業にライセンスアウトしたり、逆に創薬スタートアップが他企業からライセンスインし、医薬品の製造を行うケースも存在します。

ライセンス契約にメリット・デメリットはありますか?

例えば、テック系スタートアップは、開発能力があっても生産能力が無いことが多々あると思います。PoCが完了し、プロダクトを一気にマーケットに出していきたい時に、生産能力がボトルネックになりがちです。そのような時に、大企業に大量生産してもらうためのライセンス契約は、非常に重要になってくるかと思います。生産力を他企業に担ってもらえるのは、ライセンス契約のメリットのひとつです。

一方でデメリットとしては、どこまでプロダクトが特許で保護されているかの保証もライセンス契約にとって重要なポイントになってきます。特許だけでなくプロダクト自体をライセンスアウトする場合は、製品が第三者の特許を侵害していないという保証が必要になるケースもあります。そのような保証もライセンサーが担保しなければいけない場合があります。

ライセンス契約を結ぶ際の注意点はありますか?

何のために、何を、どの範囲までライセンスするのか、お互いの認識に齟齬がないかどうかはしっかり考えた方が良いでしょう。ライセンスする知財の対象は製品なのか、特許なのか、特許の場合は権利範囲がどこまでカバーできているのか、契約形態(例えば契約期間、独占か非独占か、表明保証等があるか)はどうなっているのかなども注意深く検討する必要があります。例えば、製品の生産数を一気に増やしたいのであれば、複数の企業に対して非独占のライセンスをすることもありますし、プロダクトの価値を高めたいのであれば、一社のみに独占的にライセンスするケースもあります。何をどのようにライセンスするかは、どのような事業計画であるかや、流通や生産数、マーケットの大小に合わせて考えるのが良いかと思います。

ライセンスフィーも色々あり、適当な時期に適切に入ってくるよう詳細な部分まで計算しておく必要があります。初めは高めに設定して後から緩やかにしていくのか、最初は低めに設定し、売り始めたらフィーを上げていくのかなど、お互いの利益が一致するためにどう計算するかは非常に重要なポイントです。また、せっかくライセンス契約をしたのに、相手方がなかなか実施してくれない、という状況も起き得ます。そういう場合に備えて不実施保証や、ライセンス料の下限を決めておくことなども検討が必要です。

効果の高いライセンスビジネスを実現するために、知財契約の専門家や弁護士、弁理士の先生に事業の内容をしっかり理解してもらったうえで契約の内容をしっかり詰めていくのが良いかと思います。また、大企業側との契約の交渉においては、単に自ら有利な条件を相手側に押し付けるのではなく、お互いのゴールの認識を合わせたうえで、自ら譲歩できる点を整理しつつ、お互いの利益が最大となるような契約内容となるように進めていくのがいいのかなと思います。

スタートアップはどのようなライセンスビジネスを目指すべきでしょうか。

ライセンスの形態も様々ですが、新興のブランドで技術力があっても生産能力がまだないときに他社の生産能力を使い市場に参入するやり方は、お互いが利益になるように上手く使えれば良いなと感じます。個人的には、特許は単に技術的な障壁としてではなく、他人にたくさん使ってもらってなんぼのものの場合もあるので、現在の日本のスタートアップ界隈でライセンス契約を活用するという話はあまり耳にしませんが、適切に特許を使用してもらうことで自らが関わるマーケットもどんどん成長していくと思いますし、スタートアップが大企業と組む上では有効に使える手段になるかと思います。

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は3月19日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップのIP!Q&A #3アイデアやノウハウは権利化できる?



関連記事一覧