知財がもたらす「安心の価値」#1

インタビュー

 中学生時代の実体験がきっかけで、大学在学中にプロジェクトを開始、株式会社abaを立ち上げた宇井吉美さん。介護を受ける高齢者の方(利用者)の排泄をセンシングして、オムツ替えの最適なタイミングを知らせてくれる「Helppad」をローンチしています。「abaを立ち上げた2012年ごろから比べると、排泄検知の文献がすごく増えています。こういう市場になったんだな、と感慨深いです。」と語る、市場を開拓してきた宇井さんに、知財戦略について伺いました。

介護者を支援したい

―工業大学出身と伺っています。もともと介護業界との接点はあったのでしょうか?

 工業大学を目指したのは、介護ロボットを作りたかったからです。中学生の時に同居していた祖母が病気になり、介護が必要になりました。本人も大変ですが、家族も知識がない中で介護をすることになり、負担も大きく、とても大変でした。そんな生活が続く中、高校生の時に介護ロボットのことを知ったのです。千葉工業大学を選んだのは、フィジカルだけでなく、メンタルも含めて介護者の支援するというコンセプトの介護ロボットを開発しようとしていた、富山健先生がいらっしゃったからですね。

―最初のプロダクトとしてロボットではなく、排泄センサーを選んだことには、どんなきっかけがあったのですか?

 私自身が現場のことをもっと知りたかったこともあり、学生時代に特別養護老人ホームで実習をさせて頂く機会がありました。その時に、「排泄」というテーマに出会ったのです。介護者にとって最大の課題であり、最大のソリューションになるのが「排泄」だと感じました。介護者にとって、介護業務の中で排泄が一番大変だと感じる人が多いというデータがあります。とくに、利用者の排泄のタイミングが分からない、というのが一番大変だと感じている人が多かったのです。

―排泄、確かに大変そうです。「シート型×匂いセンサ」を選択したのはなぜですか?

 既に製品化されているものを見ますと、超音波、濡れセンサ、静電容量方式など、私たちとは異なるアプローチを取っています。それぞれ一長一短ありますが、私たちが現場の声を収集して分かったのは、まず、肌に直接装着するタイプはやめてほしいということでした。介護は生活支援の場なので、生活をできるだけ乱さないでほしいという声があります。それで、シート型にすれば生活を大きく変える必要はないだろうと考えました。次に、便も検知するために匂いセンサーを採用したのです。従来品は尿しか検知できません。ただ、今のおむつはとても優れているので、実は尿はそこまで不快でないのです。便には異物感があり、肌かぶれのリスクもあります。だからこそ、便が出たときには、できるだけ早く変えてあげたいという要望があったのです。

排泄は制御できないけれど、パターンがわかる

―おむつの交換は通常はどのように行われているのですか?

 多くの場合、いまは一斉介護です。おむつ交換の時間が決まっていて、利用者によって排泄していなかったり、排泄してから長時間が経っていたりします。排泄から時間が経てば、おむつから漏れ出てしまうこともあり、業務も増えて大変です。個別に介護ができれば、介護者の負担も軽減できます。

―利用者にとっても、介護者にとってもメリットがありますね。

 そうなんです。更に、排泄のデータを解析して、いつ頃排泄しているかという表を作ってみたところ、個人ごとにある程度パターンが分かりました。例えば、朝食の後排便する、入浴後に排尿するなどですね。これを活用すれば、「おむつ交換の最適化」ができるという発想に至りました。

―排泄データを持っている強みですね。

 はい。ベッドに入る時間や食事の時間はこちらで設定することなので制御できますが、排泄は制御できません。だから、排泄のパターンを見出して、排泄と排泄の間に他のケア業務を差し込む、ということをやろうとしています。排泄を中心に、投薬・水分・食事量を調節、レクのお誘い、入浴のタイミングを決めることができるのです。「いつものパターンだと、この時間は排泄しないからレクに参加しても大丈夫だよ」、という根拠を持ったお誘いができるのです。排泄からひも解いていって、介護者の負担を軽減することができるのです。このことのもう一つのメリットは、介護未経験の方も介護に協力しやすくなることです。これくらいの時間に、こんな業務が発生するだろうということが事前に予測できるので、有資格者や経験者でないと難しい業務と、そうでない業務で役割分担がしやすくなります。介護人材の不足問題の解決策の一つになると考えています。 

―もともと介護ロボットから、最初のプロダクトとして排泄センサに至ったということですが、次の製品として視野に入れているものはあるのですか?

 排泄、という軸は会社として変わらず、使用シーンを広げることを考えています。今のシート型は、ベッド上だけでしか使えません。椅子や車いすに座っているときでも使えるものを作りたいと思っています。座布団型も考えましたが、掛布団がないと匂いをうまく吸えずに排泄検知は難しかったのです。現在はほかのアプローチで開発を進めています。

―後編へ続く

【後編】知財がもたらす「安心の価値」

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