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音楽著作権はどこへゆく?無法地帯で権利者が生き抜くために必要なこととは#1

インタビュー

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音楽著作権はどこへゆく?無法地帯で権利者が生き抜くために必要なこととは#2

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皆さんは普段、音楽をどのように聴いていますか?近年、様々なサービスが登場しており、私たちの音楽の楽しみ方は急速に変化しつつあります。

『SNSで聴いている』『ストリーミングサービスを利用している』そんな方が増える一方で、CDを購入して音楽を楽しむという方は減りつつあります。

そのような流れの中で『音楽著作権』はどこへ向かっているのでしょうか?

今回の記事では音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリストである山口哲一様と、スタートアップのIP経営に関する支援を最前線で行なっているOne ip特許業務法人の澤井弁理士が、現在の音楽著作権の動向やクリエイターが身につけておくべき知見についてディスカッションを行いました。

山口 哲一氏

Studio ENTRE株式会社 代表取締役

音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト。「デジタルコンテンツ白書(経産省編集)」編集委員、iU客員教授。時代の先を読み、グローバルな視座で、音楽の未来を考える、業界横断、次世代型プロデューサー。プロ作曲家育成「山口ゼミ」、「ニューミドルマンコミュニティ」を主宰するなど人材育成も積極的に行っている。『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック刊)など著書多数。

澤井 周氏

One ip特許業務法人 パートナー/弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

音楽著作権に、正義はない。

【澤井さん】
近年、音楽のコンテンツを楽しむための手段として、CDや音源のダウンロードのような買い切り型からSNSやストリーミングサービスなどクラウド上で音楽を楽しむ方が増えていると思います。そのような時代において、いわゆる原盤をレコードやCDに複製し、販売して利益を得るような従来のビジネスモデルがドラスティックに変化しています。そのような時代の変化のなかで、今存在する『音楽著作権(音楽に関する著作権)』をどのようにお考えですか?

【山口さん】
そもそもとして、著作権は英語でCOPYRIGHTで、マスターあって複製するという前提で組み上げられています。「印刷機と共に〜」みたいなことは教科書的に書いてあることですね。今は、クラウド上にコンテンツを置いて、ユーザーに対してはアクセス権をコントロールする形になっていますから、これまでの考え方やルールが適切ではない訳です。もう『音楽著作権に正義はない』という状況だなと感じています。そもそも従来の音楽著作権の仕組みを論理的に成り立たせることが不可能なのに、不可能と言ってもしょうがないので何とかしようとしている状況が、全ての根本にあると思うのです。現状は、複製権前提のルールを木に竹を接ぐように当てはめています。新しいロジックを組み立てていかなければならないと考えています。

ただ、多くのサービスがクラウド上に存在するようになって、ルール改正が間に合っていない一方で、テクノロジーもまだ追いついていないんですよね。コンテンツに関するテクノロジーはまだまだ精度が低いし、権利者が思うほど細かい設定ができるわけではない。恐らく将来的にはブロックチェーンを活用した分散型の仕組みが導入されることで、クリエイターが自分の作品の使われ方を設定して正当に利益を得られる時代がくると思います。僕の感覚では20年くらいかかると思いますが、答えがそこにある事は間違いない。中途半端な事をやるのではなく、透明性の高いかたちで権利者が作品を世に出せる世界へみんなで向かうのが一番建設的だと思います。

【澤井さん】
それは、現状の著作権法では手がつけられていないような無法地帯になっているところに新しいルールを作る、すなわち著作権法の大きな改正等が必要ということでしょうか?

【山口さん】
根本的に必要でしょうね。ただステークホルダーも多いしなかなか難しい。それまでは、論理的に破綻してしまっているルールを守らなければいけないという難しさがありますね。今の音楽業界のプレイヤーは、それぞれの立場でどう自分の築き上げてきたものを守ろうかと考えています。ある意味正しい姿ですが、そこに法律やルールを真剣にあてはめようとすると「この状況はおかしいのではないか?」という話になるのです。

音楽流通がクラウド上のアクセス権コントロール型になった変化は、非常に本質的な大変化であるという事は理解しておいた方がいいと思いますね。

「人気者になればお金持ちになる」構造は変わらない

【澤井さん】
日本の場合、著作権者の保護はきちんとしていますが、一方で著作者の利益という観点は薄いような気がしています。

【山口さん】
結局のところ著作権は、使われてお金にならないと意味がないというところが大前提にあって、音楽に関していうと利用促進と保護のバランスが重要だと思っています。さらに、日本全体でネットリテラシーが低いために、利用促進と保護のバランスが悪い時間が続いているという現実がありますね。

【澤井さん】
そうですね、例えばSNSなどで、音楽をある意味自由に使えてしまう現象などがあると思います。先ほど著作者の利益に関する話題が出ましたが、そのような時代において、著作者の利益はどのように担保されるべきなのでしょうか?

【山口さん】
エンタメビジネスを広い視点でいうと「人気者になればお金持ちになれる」という構造は変わっていません。マネタイズの仕組みが変わって、その方法の良い悪いは極論を言うと好みですよね。例えば、CDがたくさん売れてJASRACからお金をもらうのが格好良くて、ライブ配信で投げ銭をもらうのが格好悪いと思うのは価値観の違いでしかない。どういうシステムでお金が入ってくるかを解っているかが、一番大切な事です。

日本とアメリカの考え方の違い

【澤井さん】
アメリカではiTunesやSpotifyなどの音楽プラットフォームは先んじて発達していったと思います。彼らがアメリカの著作権法に則った上で成功したポイントはなんだと思いますか?

【山口さん】
国ごとの違いで言えば、行政のエンターテインメントビジネスに対するスタンスの違いは大きなひとつのポイントだと思います。アメリカはラジオ社会なので、ウェブキャスティングの仕組みをいち早く成立させました。1999年からSoundExchangeという団体まで立ち上げて法律を作り、ネット上でもラジオに近い利用法ができるように、最低1再生いくらというルールも決めました。ウエブキャスティングをきちんと定義づけたので、発展させることができたんですね。ところが、日本はそれが未だにできていない状態です。日本の行政は、利害関係者が相反する時はその人たちを同じ土俵に集めて話し合いを促す調整役しかやりません。日本とアメリカのこの違いはとても大きいです。

【澤井さん】
マーケットを新たに創造するのか、既存のマーケットのなかで辻褄を合わせるのかで、その後の展開が大きく変わっていったように思います。また、YouTubeやTikTokで音楽を聴く若者が増えていますよね。それらのSNSは山口さんからどのように見えていますか?

【山口さん】
YouTubeは「あくまでプラットフォームである」という姿勢ですよね。「利用者のみなさん、違法なアップロードを教えてくれたらBANしますよ」という態度を貫いている。EUなどはそれでは無責任だと言い始めていますが、そのルールがここ10年続いています。YouTubeがブラックリスト型なら、TikTokはホワイトリスト型であるといえます。割と早い段階で「お金を払うので楽曲を登録してください」という仕組みを作ったんですね。TikTokが伸びている時に早い段階で許諾を取って楽曲を登録すれば、お金にもなるし宣伝にもなる。これは外資サービスならではの考え方で、「意外と早いなTikTok!」と個人的には思いましたね。このようなモデルが日本でも上手くいったのは権利者側が少しずつ成熟してきた証拠だと思っています。

―#2に続く

音楽著作権はどこへゆく?無法地帯で権利者が生き抜くために必要なこととは#2

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