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今や知的財産大国となった中国から学べること#1

インタビュー

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

「中国の知財」と聞けば、『パクリ』を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。以前は『パクリ』文化から知財侵害大国とも言われていた中国ですが、近年では、政府が国をあげて知財保護を強化する政策を進めており、特許出願数も激増しています。

今回は、中国を中心に知財保護やビジネスサポートなどを行うコンサルティング・グループIP FORWARDのグループ総代表・CEOで、弁護士と弁理士の顔を持つ分部悠介さんの視点から見た、知財大国中国のリアルを伺いました。

『中国は知財の価値をよく理解しています』

―中国の特許出願数が年々増加していますよね。(2018年は世界1位の154万件※1)この理由はなんだと思いますか?

※1 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/aa7990dd4a98275f.html

出願件数が増えている理由を一言で言えば、『中国企業全体の技術水準が上がってきて、知財の重要性が当然のように認識されるようになっている』ということです。また、中国政府が国をあげて、知的財産権を取ることで利益となるような知財法制度の整備を進めているのも要因の1つです。ただ、言葉を選ばずに言えば、『知財を盗んで発展してきた』国ですから、知財の価値をよく理解している、という側面もあると思います。
これまでの中国は『知財侵害大国』でした。その後、知的財産権の出願数が急増して、量が増えたけれど、質が低い権利が多い印象でした。現在は、量だけでなく質においても『知的財産大国』になりつつあります。今でも中国では「パクリ」は横行していますよ。一方で、盗まれた場合は、コストをかけてしっかりと知識や法律をフル活用して戦います。コストをかけてまで知財を守る価値をよく解っているのです。

『あらゆる意味で知財大国』

―昔は侵害大国と言われていた中国が変わってきたと、実際に感じるところはありますか?

事実として、中国の方々と仕事をしていると、ビジネスにおける知財への意識が、基本として備わっているように感じます。ただ、侵害も相変わらず多いです。14億人もいますから、地域によって状況が全く変わります。
経済発展が進んでいる都市部では高度な知財取引がなされています。特に、深センなどでは、特許の国際出願件数首位に立つ『ファーウェイ』はじめ、日本の大企業以上に特許を取得している企業がたくさんあり、超最先端の知財特許紛争が行われています。その一方で、経済発展が遅れている地方では相変わらず単純・悪質な模倣品、商標権侵害などで争っていたりします。
このような感じで、中国では日々、様々な知財紛争が世界最高件数レベルであって、それを乗り越えるために知恵を絞りながら知財戦略を考えたり侵害対策をしたり。とにかく中国企業はガンガン権利行使していき、応戦する側も徹底的に応戦する。これを日々、中国全土でやっているので、色々な知財の知恵が生まれてくる。私自身、10年ほど、まさにこの戦いのまっただ中で日本企業の知財を守り、活用のお手伝いをさせていただく仕事をさせてもらっていますが、知財パーソンとして、今の中国は非常に面白いです。こうした状況を通じて、あらゆる意味で、中国は『知財大国』になってきていると言えると思います。

『自社の財産である、知財を守らなきゃいけない』

―「この知財戦略すごいな」と思った、事例を教えてください

顔認識分野において世界一の企業価値を誇る中国スタートアップ企業『SenseTime』や大手生中継プラットフォーム『DOUYU』といった企業のように、業界他社に比べてもたくさん特許を取っている企業もいくつかあります。ただ、当然のことながら、むやみに知財を取りまくることが適切な知財戦略という訳ではなく、事業戦略に乗っ取って、適正な規模で取るべき特許を取り、事業領域が安全に確保されていくべきであると考えています。
そういう意味で印象に残っているのは、ある上海のバイオ業界で有力な会社がとった「営業秘密保護」に関する知財戦略です。薬品関係業界は、一つ一つの特許、技術情報の価値が非常に重たいことが多く、特に、重要な研究情報等を把握していることが相対的に多い、幹部研究員などが退職する場合等、社外に色々な情報を持ち出されないようにしないといけません。そこで、同社は退職者に対して、非常に興味深い措置をとっていました。
こうした場面では、企業は、日本、他諸外国でも、通常、退職者に競業避止義務を負担させることを検討します。この点、中国では、労働契約法(日本の労働法に相当)上、同義務について明確に規定があり、これを課す場合として、期間として二年を超えないこと、ということの他、対価として経済補償金を支払わなければいけない、と規定されています。
企業の立場としては、経済補償金が発生する以上、退職者全員に競業避止義務を負担させる訳には行きません。だから、企業としてはその人が成果を上げ、辞められたら困る優秀な人となった場合だけ、この義務を課したい。しかし、活躍した人は、退職してもさまざまな働き口があるため、企業側が、退職時に競業避止義務を負担させようとしても、退職者側に、拒否されてしまうリスクがある。この義務は退職者が同意しないと課すことができない。
そこで、この会社は競業避止契約の「予約契約」を活用しました。予約契約自体は日本の民法にも規定されている概念ですが、同社は、入社時に、機密情報を多く取り扱う部門に入社する社員全員と競業避止契約の予約契約を締結することとし、予約者(企業側)が一方的に「結びたい」と言ったら自動的に契約が結ばれようにしたのです。これによって企業側は、退職者の退職時の状況に応じて、どうしても競業避止義務を負担させたいけれど同意してくれない、という場面で、この予約契約を発動させることで、同義務を一方的に課せるようにした訳です。
これに加えて、競業避止義務を負わせた退職者については、探偵調査員を活用して、定期的に、競合企業に在籍していないか等、動向を調査しているようで、徹底的な営業秘密保護を図っているそうです。この辺の徹底ぶりは中国ならではですね。知財は重要、必ず守る、絶対に漏らしてはいけない、そのためにやれることを知財法の枠内外問わず、様々な知恵を絞って方策を考えてやりきる。知財戦略に限らず、この辺は、実に中国企業らしい戦略の立て方だと思います。

―日本では出来なそうな事例ですね。

日本で同じような契約をすると、「公序良俗違反」等を理由に否定される可能性も多分にあろうかと思います。実はこれは中国も同様で、このスキームも、後で裁判になったら否定される可能性もありますが、何が起こるかどうかはやってみるまで解らない、とりあえず考えてやってみる、否定されたらその時また違うやり方を考える、というのが、知財に限らず、中国企業のやり方です。知財の分野では、そもそもの知財法の歴史が短いこともあり、様々な点で、しがらみなく、戦略目的を達成するために自由に色々と考えることができるという側面もあります。こうした中国のメリハリ感や徹底感は、スタートアップや大企業に関係なく日本企業にはなかなか無いところでして、学べるところもあるように思います。

―#2へ続く

今や知的財産大国となった中国から学べること#2

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