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【知財イベント】『スタートアップ必見、オープンイノベーションに向けた知的財産活用勉強会』レポート#2

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【知財イベント】『スタートアップ必見、オープンイノベーションに向けた知的財産活用勉強会』レポート#1

≪秘密保持契約書の締結に当たって≫

実際の秘密保持契約の締結時には、自分たちが秘密情報を開示する側なのか、受領する側なのかによって内容が変わってきます。

開示側は、やはり義務を負わせたいと思いますし、受領側は、義務を負いたくないと思うのが普通で、両者にコンフリクトが起きます。

ですので、まずはスタートアップ側が弁護士と一緒に開示側と受領側の両方のNDAのひな形を作成しておくことで戦いやすくなると思います。

≪秘密保持契約書の内容≫

大手企業との連携時には、スタートアップ側が秘密情報を開示する場合が多いでしょう。

情報を開示する際は、目的を厳格に設定して、その目的以外で使用しないようにということをしっかり謳っておくことが重要です。

また、対象情報は広く設定して、後でメールで特定をする必要がないようにしたり、秘密情報は厳格に保持してもらうよう管理者の指定をするなど、自分たちの情報がしっかり守られる状況をつくっておくと良いと思います。

≪資料等のやり取りの場面≫

資料のやり取りをするときは、出す情報をしっかり見極めた上で、単独で特許出願できるものは先に出願しておきましょう。また、提供する資料に『confidential』と記載しておくだけで秘密情報を特定できますので、初めからひな形に入れておくと良いと思います。そして、情報提供したエビデンス作りということで議事録を作成したり、紙面で提供した資料をメールでも送り、エビデンスとして残しておくことも重要になります。

≪共同研究・共同開発(共同出願)契約で縛れるべきもの≫

次に、『共同研究契約』または『共同開発契約』と『共同出願契約』についてですが、一緒に結ぶことが多いので、以下併せて話します。

『共同研究契約』で縛れるものは、勝手に出願されないようにする『出願禁止義務』や、こちらから提供した材料などに関して、分析して特定することを禁止する『分析禁止義務』があります。

また、成果の取り扱いの点では、共同研究の中で出てきた発明は共同発明であるという記載になっていることも多いですが、単独で発明することもあるため、共同研究であっても単独で発明した場合は、単独で発明をした人に帰属するという単独発明の条項を入れておくことも重要になってきます。

そして、競業避止として、共同研究の間など予め期限を決めて、同じような技術の人たちと同じような目的で研究をすることを禁止しておくと良いです。

≪共同出願には注意が必要≫

基本的に、発明に関わった人たちが複数の組織にいるときには、共同出願となります。共同発明は、それぞれが相手方の許可なく自由にビジネスができます。ただし、放棄などの手続き、第三者へのライセンスや持分譲渡するときなどは、相手方の許可を得る必要があります。

共同出願の立て付けとして、スタートアップが大手企業と共同出願をした後、共同出願した技術をライセンスしたい第3者を見つけ出し、彼らと事業をやりたいと思ったときには、共同出願をした大手企業の理解を得られなければ、第3者との話を進められないということも発生します。成果を活用した事業のスキーム次第で、非常に大きな制限が発生するリスクがあるというのが共同出願です。

共同出願は、知財の持分が決められますが、状況によっては、持分の1%でも持っていれば、株式を10%持っているよりも、事業の展開を左右できる立場になれることもあるため、慎重に検討すべき制度だと個人的には考えています。

共同研究によって得られることも多いですが、成果の扱いについてもきちんと前提として知っておいていただき、どのように進めていくのか、本当に相手と組む必要があるのかをしっかりと検討していくことをお勧めします。

≪特許はなるべく早く、できれば単独で出すべき≫

それならば、共同研究の成果はもう特許出願しなければ良いのでは?という話しもあります。これは共同出願に限らずですが、もし先に第三者に権利化されてしまったり、また、共同研究のパートナーが単独で出願してしまうと、それが原因で自分たちが実施できなくなったり、出願した特許が拒絶されてしまうケースがあります。

また、共同研究の成果の場合、ノウハウとして秘匿するにしても情報管理の主体が2社以上となるため、情報漏洩のリスクも高まってきますので注意が必要です。

さらに、共同出願は仕組み上、色々な制限がかかることもあるため、大手企業が出願に前向きでないという時には、単独出願をさせてもらえるよう交渉することも重要になります。

≪交渉を進めるにあたって≫

NDAや共同研究に関しての契約交渉を進めるにあたっては、これまでに申し上げた通り、知財面のリスクももちろんありますが、そこだけを考えて判断せず、事業になった後は、事業主体は誰を想定するのかを考えておくことも大切です。自社が事業主体になってユーザーにサービスを提供していくことを想定した契約内容にするのか。また、大手企業が事業主体となりユーザーにサービスを届けてもらうという前提での契約内容にするのであれば、共同出願を積極的に行っていくべきだという考え方もできます。

さらには、第三者にライセンスをして事業をしていくことを前提とする契約にしておくことも可能です。

このように、知財面のリスクだけを見て判断するのではなく、ビジネス全体を見ながら、共同出願にした方が、パートナー側もエンゲージメントを引き出せるという考え方で、あえて共同出願という選択をすることも十分可能だと思うので、広い視野を持って契約書を結んでもらうといいと思います。

あとは、契約を結ぶ際は、必ず相手方としっかり交渉しましょう。どうしても、大手企業のほうが、スタートアップよりも経験やお金があるため、契約の際は優位に立ちがちなのですが、スタートアップ側もしっかりと自分たちの強みをプレゼンして、自社にしかできないということを強調していきながら、契約の文言を調整していく必要があると思います。

≪まとめ≫

スタートアップの皆さんには、大手企業との連携ではメリットもあるが、デメリットもあることをきちんと知っておいてほしいと思います。

また、大手企業と連携する際は、目的を明確にした上で、その相手が適切な相手かどうかをきちんと見分けることも重要になってきます。

実際に契約書を作成する際は、共同研究で生まれた成果を基に、どんなビジネスを想定するのか、誰が主体になるのかも含めて、今後のビジネスをできるだけ想定したうえで弁護士や弁理士など専門家に相談するのが良いでしょう。

なお、契約書の作成は弁護士や弁理士の仕事でしょう、という人がいます。しかし、弁護士や弁理士が行うのは、基本的には法的な論点を潰すことであったり、法的なメリット・デメリットの部分の話をすることです。今後のビジネス展開については、やはりビジネスを推進しているスタートアップの皆さんの方がよく理解していることだと思いますので、その情報をしっかり専門家にインプットしてもらえると、適切な契約書が出来上がると思います。

更に言うと、契約書はビジネスサイドが作成したほうが、実情に即したものになると思うので、タームシートの作成など、出来るだけ自分たちで作成し、弁護士や弁理士にチェックを依頼することをお勧めします。

逆に、大手企業がスタートアップとどのように連携していけばいいかというと、色々ポイントはありますが、スタートアップを下請けではなく、自分たちができないことを行っている稀有なパートナーとして、尊重して付き合っていただくというのが大前提になるのかなと思います。今は資金調達もしやすくなったりとスタートアップを取り巻く環境が少しづつ変化してきていて、スタートアップ側もスタートアップをあくまで下請けとして扱っているような企業とは話し合いを持たなくなってきています。下請けとしてではなく、お互いが補い合ってイノベーションを起こそうというパートナーとして扱っていただくことがポイントになってくるのかなと思います。

【参考文献】

以下、セミナー内でご紹介された参考書籍とウェブサイトです。

     

経済産業省「研究開発型スタートアップ支援」ウェブサイト(上記モデル契約書が開示されています)https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture.html

IPAS「知財戦略支援から見えたスタートアップがつまずく14の課題とその対応策」
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/index/jireishu.pdf (PDF)

【知財イベント】『スタートアップ必見、オープンイノベーションに向けた知的財産活用勉強会』レポート#1



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