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【知財イベント】『スタートアップ必見、オープンイノベーションに向けた知的財産活用勉強会』レポート#1

イベント

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【知財イベント】『スタートアップ必見、オープンイノベーションに向けた知的財産活用勉強会』レポート#2

2020年8月21日(金)、特許庁がASCII STARTUPの協力のもと、オンラインでセミナーイベントを開催しました。

Oneip特許業務法人の澤井氏と坂本氏が講師を務め、『スタートアップ必見、オープンイノベーションに向けた知的財産活用勉強会』をテーマに、スタートアップが大手企業と連携して事業を行う際の契約時の注意点や、連携の際の知財の活用法と注意点についても分かりやすく解説しました。
当日は、約40名が参加し大盛況となっていました。

本記事では、セミナーの概略をお届けいたします。

【講師紹介】


澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

坂本 真一郎氏
One ip特許業務法人

東京理科大学応用生物化学科卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科バイオ知財コース博士課程単位取得退学。2005年よりスタートアップにてバイオ、人材、地域活性等、 多分野での事業開発に従事。事業開発や各種資金調達、知財戦略、 大企業との連携構築等で複数のスタートアップを支援した後、 2019年、 スタートアップのIP経営と知財支援の拡大を実現するため、 One ip特許業務法人に参画。スタートアップの事業戦略と企業価値向上に寄与する知財戦略支援 、権利化を担当。

スタートアップの成長戦略としての大手企業との連携

≪スタートアップが大手企業と連携することで得られること≫

スタートアップと大手企業が積極的に連携を行う事例がとても増えています。スタートアップにとっては、大手企業と連携することで、大手企業が持っている技術やお金などのリソースを得られる可能性があります。他にも、スタートアップが元々持っていない開発力やノウハウ、また大手企業はすでに工場を持っているので製造を担ってくれたり、製品が完成してからも販路の確保や顧客の紹介などの協力も得ることができます。技術と熱意はあっても、それを形にする力が足りないスタートアップが大手企業と組むことには、大きなメリットがあるのです。さらに、大手企業と連携したこと自体が信用に繋がって、VCからの調達がしやすくなったり、銀行からの融資を受けやすくなることあります。

一方で、大手企業側にもメリットがあります。スタートアップはユニークな技術を持っていて、新しい市場に積極的に飛び込んでいるため、大手企業としてはなかなか攻められない領域を一緒に攻めていくことができます。大手企業とスタートアップが共に手を取り合って一緒に事業を進めていく、オープンイノベーションを推進していこうという社会情勢のようなものが、ここ10年で出来てきているのです。

しかし、その裏では、表には出ていない知財面での揉めごとが起きているのも事実です。それはスタートアップと大手企業が連携をする際に結んでいる契約に問題があることが多く、スタートアップ側にもう少し知識があれば防げたということもあるのです。

今回はスタートアップ側の立場で、大手企業との連携の際に気を付けなければいけないことをお話ししていきたいと思います。

≪そもそも連携は必要か≫

スタートアップにとって足りないものを補ってくれるパートナーがいることで、事業や開発が早く進むというのは良いことですが、相手も何らか見返りが無いと協力することはできません。

ですから、そもそもその連携は本当に必要なものなのかは、スタートアップ側がしっかり考える必要があると思います。

特に研究開発は知財が関わってきます。研究開発での連携の話をするときには、大きく3つのパターンがあります。一つ目は、共同研究という形で、お互いが強みを持ち寄って一緒のテーマで研究をするというパターン。この場合の成果は共同で持つことが多いでしょう。二つ目は受託研究で、大手企業側が指定したテーマで研究を行うことで、スタートアップ側はお金をもらって売り上げにするパターン。この場合の成果は、委託元である大手側に帰属することになるでしょう。そして三つ目は、しっかり自分たちで権利を持ちたいということで、委託研究という形で大手企業側にお金を支払って、スタートアップが指定したテーマをやってもらうパターン。

≪相手の特性を考慮して共同研究・共同開発の必要性を検討する≫

先で述べたように、大手企業と組むことにはメリットがありますが、やはりデメリットも存在します。

共同研究の場合は、例えば経営方針によって途中で連携に対する考え方が変わってしまったり、突然担当者が変更になって熱意が無くなってしまうなどのリスクもあります。こういうことが起こり得るということをしっかり把握した上で、それでも連携をする必要があるのかを検討するべきだと考えます。

また、こちらの狙いを明確にしておくことも結構重要です。自分たちが持ち合わせていない技術など、製品やサービスの開発に必要なものを持っている企業と組むのが目的なのか、開発が進んだ時のことを考えて販路の確保のために組むのか、話題性やVCからの評判を考えた上で『組んだ』という事実を作ることが目的なのかなど、しっかりと狙いを明確にして、組むべきか組まないべきかを考えていく必要があるかなと思います。

≪知財がまつわる、連携の重要ステップ≫

事業開発やマーケティングにいく手前の段階で、情報交換をして技術を提供し合い、共同研究や特許出願をしていくフェーズとなる、連携の初期の頃は、特に知財にまつわるトラブルが起きやすくなってきます。

まず、情報交換をする前には、『秘密保持契約』を結ぶことになります。そして、共同研究・共同開発のフェーズになったら、『共同研究契約』・『共同開発契約』、特許出願のフェーズになったら『共同出願契約』を結びます。

場合によっては、共同出願契約は共同研究契約の中に盛り込まれていることもあります。

それでは、一つずつ解説していきます。

まずは、情報交換のフェーズの際の『秘密保持契約』で起こりうるトラブルです。実際にあった例を言える範囲で説明しますと、とあるスタートアップは、大手企業とNDAを締結した後、情報交換やアイデアの創出、基礎検討まで実際に手を動かしてやっていました。そうこうするうち、論点は自社の特許技術から少しずつずれていき、技術としても特許からはみ出た状態になってしまったのです。そんな中、そろそろ共同研究のフェーズかなと思っていたところ、突然大手企業の方から次のステップへの移行の中止を告げられてしまいました。その後スタートアップは、その大手企業が情報交換の際に提供したアイデアを基に自社で事業を行うという話を聞き、契約内容を確認したところ、『confidential』という記載のない資料で情報提供をしていたなどのミスが発覚しました。

このように、情報交換から次のフェーズに進めないということも実際に起こっています。

≪情報交換フェーズで気を付けること≫

情報交換フェーズでまず気を付けなければいけないことは、基礎技術(コア技術)の出願はきちんと済ませておくことです。これがないと、基礎技術に絡むような部分を相手に持っていかれるということも起こりえます。

また、NDA締結前は秘密情報を話さないことが重要です。その企業と連携して生まれる成果をある程度想像しておき、想像した範囲内で既に発明があるという場合には、NDA締結前に出願しておくことが重要になってきます。相手側から何も情報をもらっていないにしても、NDAを締結した後に出願をしたとなると揉め事が起きてもおかしくない状態になるので、出来るだけNDAを結ぶ前に出願することがポイントです。

そして、秘密情報の特定を忘れないことも大切です。NDAの中では、秘密情報について定義するのですが、例えば『confidential』の記載をした資料でないと秘密情報に含まれないなどの決まりがあるので注意が必要になります。

―次ページ≪秘密保持契約書の締結に当たって≫

【知財イベント】『スタートアップ必見、オープンイノベーションに向けた知的財産活用勉強会』レポート#2



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