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スタートアップのIP!Q&A #14 スタートアップが技術流出を防ぐには

連載記事

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この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許業務法人の澤井弁理士が解決していきます。この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

第14回目のお悩みは「スタートアップが技術流出を防ぐには」。

とあるリアルテック系スタートアップでお仕事をしているUさんからのお悩みです。

スタートアップのIP!Q&A #13 スタートアップにおける知財リスク

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

Tさんのお悩み

リアルテック系スタートアップの管理部で働いています。弊社の事業領域は、技術情報を特にしっかり管理しなければいけないと考えています。スタートアップが技術流出をしてしまいがちなケースや、もし流出してしまった場合の対処法などあればお教えいただきたいです。

もし技術流出してしまった際、論点になるのはどのようなポイントなのでしょうか?

「技術流出」と言っても、様々なケースが存在します。知財の観点でいうと、まず重要なのは、社内ノウハウや秘密情報の流出です。

第三者が外部からアクセスできず、自分たちだけが知っている社内ノウハウや技術情報等の秘密情報は、不正競争防止法ではいわゆる「営業秘密」と呼んでいます。その営業秘密を、悪意のある人がサーバーに侵入して盗み出したり、会社を辞めた人が悪意を持って会社から持ち出し、第三者に渡したりするケースは起こりがちです。ニュースで広く報道されたケースもあると思います。

万が一秘密情報が漏れてしまった場合に、それが不正競争防止法で定義する「営業秘密」の条件を満たしているかどうかが論点のポイントになります。単に技術上または営業上自分たちが秘密だと思っている情報というだけでは、営業秘密とみなされない可能性があります。「営業秘密」の条件をざっくり言うと、限られた人だけがアクセスできるような措置が取られているなど、秘密として情報が管理されているか(秘密管理性)、その情報が公知ではなく自分たちだけが知っている情報かどうか(非公知性)、その情報は秘匿するに値する内容かどうか(有用性)、これら3つの条件が必要になります。

もし技術流出してしまった際には、特に上記の「秘密管理性」が重要なポイントとなります。その情報が社内だけで共有されるように管理されているのか、そのための情報管理規定が社内で整備されているかどうかなど、客観的に秘密管理のための体制やシステムが構築されているかもポイントになります。

ありがちな技術流出のケースとしては、どのようなものが挙げられるのでしょうか?

先に述べた誰かが悪意を持って情報を盗み出したパターンの他に、自分たちの情報管理ができていなかったというパターンがあると思います。スタートアップで事業がうまく成長し、会社の組織が大きくなるにつれて、各種ドキュメントの取り扱いなどを規定した情報管理規程を整備する必要が出てくると思います。また、特にWEBサービスでお客様の情報を取得して活用するような場合、顧客データの取り扱いも注意しなければいけません。ニュースでもたびたび顧客情報の流出が問題となって取り上げられており、単に企業の信頼を落とすだけではなく、損害賠償請求にまで発展する可能性があります。

また、不特定多数の前で行うピッチやプレスリリースも、情報が流出してしまいがちな場所です。秘密保持の義務が課されていないオープンな場所でのピッチで特許性のある技術情報を話してしまうと、その技術の特許を取れなくなってしまったり、オープンにした情報を他社に使われたり改良発明の特許出願をされることで、自社でのプロダクトの展開が困難になる可能性もあります。どの情報を公に出し、どの情報を隠すかは、なかなか難しいところではありますが、しっかりケアする必要があります。

技術流出をしないために、スタートアップの組織編成で気をつけるべきことはありますか?

社内においてどういう情報をどの立場の人が見れるようにするのか、どの情報はConfidentialなのかなど、情報管理規程を設けることが大切です。スタートアップは組織体制が整っていないところも多いですが、少なくとも、自分が扱っている情報は機密情報なのか、これは誰に見せないべきなのかを意識して取り扱う事が大切です。

もし大企業とNDAを結ぶとなった場合、情報流出に関して気をつけなければいけない事はありますか?

自分たちが扱うデータやドキュメントが、第三者に絶対開示しないノウハウなのか、NDAの中で見せることが可能なものか、すでに公知の情報であるかなど、その情報をどういう扱いにするべきなのかを意識する必要があります。例えば厄介なのが、相手との会話の中で、秘密情報の線引きが曖昧になる事です。よく起こるケースが、NDAを結ぶ前にお客様に秘密情報を誤って見せてしまったり、お客様との会話で何を話して何を話さないべきかが曖昧になってしまい、ポロッと秘密情報を話してしまうことです。

NDAを結ぶ前に知った情報は秘密情報では無くなるため、相手に勝手に使われてしまうことが協業のタイミングで起こり得ます。場合によっては、協業自体取りやめになり、相手側が勝手にその情報を使ってプロダクトを独自に開発する可能性もあります。NDAには「こちら側が相手に開示した情報は協業の目的以外では使っていけない」という条項がありますが、逆に言えば秘密情報でないものは何でも使っていいということになります。NDA前後の情報提供は、かなり気をつけて行わなければなりません。

また、NDAを結んだ後は相手側の情報もどんどん受けることになります。どれが相手側の秘密情報(そもそも秘密情報なのか公知の情報なのかを含めて)で、どれがこちら側の秘密情報なのかをしっかり整理しておくこともとても重要です。例えば共同開発して特許を出す際に、自分たちだけの知見で生み出された技術なのに、その部分が曖昧になると、本来なら単独出願できるものが共同出願になってしまうケースもあります。

後々の特許の扱いで面倒な事になりかねないので、自分たちの技術が漏れるだけでなく、相手の技術が入り込み過ぎてコンタミネーションが起きないように注意することも重要です。NDAを結んだ後は、お互いにそれぞれが持つ「この範囲なら自分たちで出せる情報」をしっかり整理し、なあなあで進まずに秘密情報の範囲をお互いに可視化する機会を持ちましょう。この辺りが曖昧になると大企業側が強引に成果物をお互い共同で持ちましょうと無条件で進めることも考えられます。確実な方法としては、まず相手とのNDAを締結する前に、自分たちだけの技術で得られた発明は予め特許出願をしておくことが重要です。

技術が流出してしまった際はどのように対処すれば良いのでしょうか?

対処できるかどうかも、流出のプロセスによります。例えばピッチでうっかり特許を出していない技術の話をしたり、意匠登録出願をする前にプロダクトを公に発表してしまった場合は「新規性の喪失の例外」の制度が利用できます。その制度を利用すれば、うっかり発表してしまった後でも権利化することができます。

また、営業秘密が、明らかに他人の悪意により流出したり利用されたものであった場合は、一般的に不正競争防止法が適用され、損害賠償請求や刑事罰などの適用により救済などは図れることもあります。その一方で、秘密情報の管理方法が不適切だったため不用意に漏れたものはどうしようもなく、リカバリーが難しいです。不用意な技術流出を防ぐためにも、情報の取り扱い方を決めておき、きちんと運用することが好ましいと考えます。また、例えばCTOなど技術開発の中心人物が会社とトラブルになって辞めたあとに競合企業に移ってしまい、その競合企業に技術をそのまま持ち出してしまうというような、人から情報が漏れるというケースも多々あります。スタートアップは情報管理ももちろん大事ですが、それと同じくらい人材の管理も重要なポイントです。

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は8月6日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップのIP!Q&A #13 スタートアップにおける知財リスク



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