【知財イベント】WIPOシンポジウム:グローバルな時代におけるイノベーション/講演3(#1)「グリーン技術を持つSMEの知財管理」
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講演1「知財基本法から20年~知財は中小企業・スタートアップを支援する~」
講演2「イノベーションのエコシステムに向けて、スタートアップ成功国カナダより学ぶ」
講演4「特許出願に関する技術者兼CEOの考察」(2022年3月4日掲載予定)
講演5「DuPontのイノベーションと知的財産活用」(2022年3月7日掲載予定)
Anja von der Ropp
Senior Program Coordinator,
Global Challenges and Partnership Sector,
WIPO
皆様、こんにちは。
この度は本シンポジウムにご参加くださいましてありがとうございます。
そして、お招きいただきありがたく存じます。
本日はTrod Lehongさんとともに、このプレゼンテーションを担当させていただきたいと思います。
ついに行動を起こす時が来た
今回のプレゼンテーションのテーマは「知財と環境」です。これまでも気候変動に関する話を多々耳にしたことがあると思います。ついに行動しなければならない、という話も度々聞かれてきたはずです。今まで散々言われてきたことではありますが、気候変動は人類に大きな脅威をもたらしていて、様々な課題がますます大きくなってきています。ついに行動を起こさなければいけない時がきています。
このような状況では、イノベーションや技術が有効です。私たちが直面している課題に対応する上でも役に立つものだと思いますし、持続可能な開発目標SDGsにも資するものです。
多くの技術が実用化に時間を有している
さて、世の中に技術はもうすでにたくさん存在していますが、実際に実用化して世の中で使われるようになるまでには時間がかかりすぎていると感じます。原因として、情報が不足していることが挙げられます。また、環境改善の技術というのは、時として実用化までにお金がかかるということもあります。初期投資があまりにもかかるというようなこともありましょう。長期的に見れば、実は節約にも資するのですが、文化的な感度がある程度高い層にしか理解されにくい側面もあるかと思います。
そこで、WIPOとして、何かできることはないかと考えました。ここで上の図をご紹介させていただきたいと思います。これは毎年発表しているグローバル・リスク・ランドスケープというもので、世界経済フォーラムで発表されました。
ここには、一連のリスクが書かれています。環境に関するリスクは、緑でハイライトされていますが、右上に集中してます。これは世界への影響力が高く、また現実になる可能性も高いということを示しています。例えば、気候に対する対応が不足している、生物多様性の損失など、さまざまなことが書かれております。
また、環境と直接関係はないのですが、上のほうに感染症が書かれています。これには皆様にとっても驚きを覚えるものではないかと思います。
イノベーターにもチャンスがある
次にご紹介したいのは、イノベーターにはグリーン技術の分野でも多くのチャンスがあり、活躍しうるということです。ドイツの環境省が出した資料を紹介します。ここに書かれている数値は、さまざまなセクターの、今後の需要の伸びの予想をまとめているものであります。需要の面からも、グリーン技術分野にチャンスがあることをわかっていただけるかと思います。
WIPOが提供する「WIPOグリーン」と「イノベーターのためのサービス」
さて、このようなことを鑑みて、グリーン技術に対してWIPOとしても行動を起こすことで貢献したいと思ったのです。そこで、私たちは少し前に「WIPOグリーン」というものを立ち上げました。
「WIPOグリーン」とは、グリーン技術、ソリューションを素早く適合、採用、展開するためのオンラインプラットフォームです。環境分野における、持続可能なソリューションを求める方々を、技術やサービスのプロバイダと繋ぐということに主眼を置いております。「WIPOグリーン」はさまざまな関係者が活用しながら、それぞれがミッションに貢献しています。
さらに、イノベーターのためのサービスやツール(※1)も開発してまいりました。知財・法務の助言サービスなどが無料で途上国で提供されています。こちらは日本語での使用も可能です。ちなみに、Sagacious IPとSidley Austin LLPが私たちのパートナー会社となります。
また、ライセンスチェックリストというものがありまして、技術移転ライセンス契約を予定している場合に考慮すべき事項の流れを確認するような内容となっております。
(※1)WIPO 知財診断ツールはこちらから
WIPOの「知財管理クリニック」プロジェクト
その他にも様々なチェックリストがありますが、ここで私たちが行ったプロジェクトについても紹介したいと思います。知財ビジネス部門の同僚とともに行ったプログラムでありますが、「知財管理クリニック」と呼ばれるグリーン製品に焦点を当てた取り組みです。8つのグリーン技術に取り組む中小企業に対し、専門家のアドバイスを提供する取り組みです。
ここで簡単に、私たちがこのプロジェクトで学んだことをご紹介します。まず、やはり従来から言われている課題として、グリーン技術を用いた事業モデルが不明瞭になること、事業目的と知財戦略が一致していないこと、などはこの分野で起こりがちであるということです。
また、これもしばしば目にするのですが、グリーン技術を用いた事業は往々にして技術にしか焦点があたっておらず、特許以外の商標、意匠、実用新案などの形で知財や営業秘密を守ろうとする動きは見落とされがちです。
それから、ブランド化の機会も見落とされがちだと感じます。たとえ従来の技術より優れた革新的製品であったとしても、ブランドによる価値向上の機会が十分に活用されていません。
さらに、時としてグリーンな側面に焦点を当てることで、事業をないがしろにしかねないというようなこともあります。
また、冒頭でご紹介しましたとおり、グリーン技術にとって好ましい政策と資金の環境があります。ですから、この分野には大変興味深いチャンスがあるのです。
この後、このプロジェクトに一緒に取り組んだTrodさんから、もう少し具体的に学んだことについての情報を共有していただきます。それでは、Trod Lehongさんにこのマイクをバトンタッチしたいと思います。より深いレベルで今まで学んだこと等々についてご紹介いただければと思います。お願いします。
#2へ続く
#2目次:
1.中小企業やスタートアップが直面している知財の課題や過ち
2.中小企業やスタートアップのための知財戦略チェックリスト
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