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スタートアップのIP!Q&A #7 特許権を侵害してしまっているかもしれないと思った際の対処法

連載記事

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。


この連載では知財(IP)に関する読者の疑問をOne ip特許業務法人の澤井弁理士が解決していく新コーナーです!この連載を通して知財や特許をより身近に感じてもらえますと幸いです。

スタートアップのIP!Q&A #6特許調査について

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

第七回目のお悩みは「特許権を侵害してしまった際の対処法」

とあるスタートアップの法務部でお仕事をしているEさんからのお悩みです。

Eさん  法務担当

Eさんのお悩み

スタートアップの法務部で働いています。今回、自社のプロダクトが他社の権利を踏んでいる可能性がでてきました。特許権の侵害をしてしまっているかもしれないと思った場合、対応方法はあるのでしょうか?

もし特許権を侵害してしまった場合、具体的にどのような問題が起こるのでしょうか?

まず、他社の特許権を侵害してしまったことが認められたときには、大きく二つの問題があります。ひとつは差止請求されることです。侵害していた箇所がプロダクトの重要な部分であれば、そのプロダクトをそのまま世に出すことができません。もうひとつは損害賠償請求です。他社の特許が成立してから、その特許を侵害している状態で収入を得ていた場合は、権利者(特許権者)にとって特許による保護が受けられず損失が発生するため、その損失の代償として、場合によっては数億円~数十億円という損害賠償を支払わなければなりません。そうなると、将来的に自分たちが開発したプロダクトをマーケットに出せなくなるだけでなく、それどころか得られるはずであった収益も無く、場合によっては損失を被ってしまうことになります。そういった特許権の侵害のリスクを放置しながら事業を進めると取り返しがつかなくなるケースがあるため、特許権の侵害についてはしっかりケアしておく必要があります。

差止請求、損害賠償請求の他に侵害した際のリスクはありますか?

例えば、開発したプロダクトを廃棄するように命じたりなどの権利が特許権者にあります。あとは法的な観点以外にも、特許権を侵害していたというレピュテーションリスク、要はパクリであると言われるという風評が立ってしまうことが考えられます。成立している特許を知らなくてもその特許にプロダクトが抵触していれば特許権の侵害となるので、他社の特許や製品を模倣したわけでもないのに、見方によってはパクリではないか?と疑われてしまうケースもあります。また、プロダクトがマーケットに出せない状況においては、資金調達や上場前のデューデリジェンスにも影響が出ると思われます。

ちなみに著作権は、抵触していれば「パクリ」と言われてしまうのでしょうか?

著作権については、他人の著作物に依拠して創作したという事実、つまり「パクリ」という証拠がなければ著作権の侵害として認められにくいですが、特許の場合は先に述べたようにパクリかどうかは関係無いので、知らずしらずのうちに特許権を侵害しているということがあります。

特許権を侵害しないようにするためにはどうすればよいでしょうか?

プロダクトの開発と並行して特許調査(侵害予防調査、FTO調査)をしておくことが望ましいです。ただし、プロダクトの技術領域によっては、確実に特許抵触を回避するためには膨大な数の特許が調査対象となりますが、コストと時間も限られていますので、それらとの兼ね合いで調査範囲の母集団をある程度絞る必要があります。そこは調査会社や弁理士と相談して決めることになります。特に類似サービスを提供している大手企業や競合ベンチャーの特許は最低限調べておくべきだと思います。自分たちに近しい特許が見つかったら、まずは「特許請求の範囲」に記載されている事項をチェックする必要があります。権利範囲を規定しているのが「特許請求の範囲」です。特許請求の範囲に記載している構成要素を全てプロダクトで実施していれば特許権の侵害になりますが、「特許請求の範囲」に記載されている構成要素の一部でも実施していなければ侵害と判定される可能性は低くなります(確実ではありません)。「特許請求の範囲」の記載をパッと見て同じようなことをしていないことが解ればいいのですが、微妙な判定で解りづらい場合は弁理士に相談するのが良いと思います。

実際に特許権を侵害してしまっていると思われる場合はどうすればいいのでしょうか?

侵害している可能性が高いことが解った場合には、様々な対応手段が考えられます。一つ目の手段としては、サービスがマーケットに出る直前なら、その特許の構成要素を回避するように、プロダクトの仕様を変更することです。もし仕様を変更してもプロダクトの機能にさほど影響がなければ、変更することが最適な判断だと思います。一方で、サービスやプロダクトにとって重要な機能が特許に抵触していると考えられる場合は、かなり苦しいと思います。この場合は、少しでも特許を回避できるように、特許請求の範囲の記載を分析して、同じ構成要素とならないように工夫する必要が出てくると思います。また、早い段階からウォッチしていた特許出願が特許になった際に、その特許が邪魔だと思ったなら、特許異議申立の手続も可能です。無効審判と同じようにその特許が無効である理由を主張する必要はありますが、利害関係人でなくてもよく、誰でも申し立てをすることができます。そのため、ダミー(自分とは関係のなさそうな人)の名義で異議申立を行うこともできます。

二つ目の手段は、特許無効審判、または特許異議申立です。これは、特許出願の審査を経て一度特許になったとしても、新たに特許が認められない理由があることが判明した場合に無効にできるというものです。例えば、特許権者からあなたのプロダクトは第◯号の特許を侵害しているという警告書等が来れば、無効審判を請求することができます。また、訴訟が提起された場合であっても、その訴えの中で特許が無効であることを理由をもって主張することができれば、その特許の有効性が論点になり、その結果「無効である」と判断されれば、訴えそのものも無効となるカウンターのような方法があります。

特許権を侵害していると言われた場合であっても、すぐに相手の要求を全て飲むのではなく、そもそも本当に特許権を侵害しているのかを判断することが必要です。もし特許権を侵害している可能性が高い場合であっても、そもそもその特許が無効である可能性もあるので、その特許を無効とするための特許調査(無効資料調査)を行って反論できるように準備することが重要と思います。例えば、無効審判用の資料としては、海外の論文など、審査時のサーチが及びにくい文献などがあります。

仕様の変更や特許無効審判をせずに、解決する方法もあるのでしょうか?

特許権者との交渉になりますが、特許の譲渡やライセンスの許諾を求める交渉を行うという方法もあります。例えば、特許権者にとってあまり重要でなかったり、そもそも不要な特許であれば、譲渡やライセンスの提案を受け入れてくれるケースもあると思います。ただ、上記以外のケースではそのまま相手方と交渉しても上手くいかない可能性が高いので、特許権者が実は自社の権利を踏んでいたなど、お互いが特許を踏み合っている状況を作ることができれば、交渉が成功する可能性は高くなります(クロスライセンス)。特許をただ一件だけでなく、ポートフォリオを意識して複数取得することは、こういうケースにおいての防衛的に機能することもあります。

また、そもそも特許が一度成立しても、4年後以降の特許維持のための料金(年金)を払っていなかったり、そもそも特許権の有効期限(出願から最大20年)が過ぎていたりして、特許権が失効している場合もあります。自分たちのプロダクトが特許権を侵害しているかもしれない!と思ったら、まずは弁理士にコンタクトして状況を整理してもらうのもよいと思います。

次回の『スタートアップのIP!Q&A』は4月30日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップのIP!Q&A #6特許調査について



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