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若きエンジェル投資家が語る、スタートアップにおける知財の重要性とは#2

インタビュー

この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

新卒から楽天・Google・AppLovinなどを経て、現在はSmartly.Io(スマートリー)の日本第1号メンバーとして働く坂本達夫さん。大手企業の会社員としてご活躍される傍で、約40社のスタートアップにエンジェル投資をされています。

インタビュー後編では「投資家の立場から見たスタートアップの知財戦略」にフォーカスを当ててお話をお伺いしていきます。

ースタートアップにおける知財の重要性についてどのようにお考えでしょうか。

スタートアップにとって、知財の重要度は極めて高いと認識しています。長くスタートアップやインターネット界隈にいると、後から競合や大きい会社が資本の力で参入してくるケースをよく見ます。資本力や労働力を突っ込まれた時に、どう対応するかのディフェンス策を全く考えられていないのは良くないです。ディフェンスにはブランドを築いたり、規模で勝とうとしたり、他では作れないものを作ったりなど、幾つかやり方があると思いますが、そのディフェンス策の一つに知財があると考えています。

ディフェンス策の中で、知財が検討項目に無いところには、こちらから「知財や特許も考えたことはある?」と聞いています。その一方で、自分の投資先も含め、アーリーステージのスタートアップで本気で知財を競争力のコアとして考えているところは、肌感としてあまり多く無いと感じています。個人的には少し勿体無く、知財や特許も含めて大きく勝つといった、日本だけでなくグローバルで勝つために知財戦略も考えるスタートアップが増えてもいいのかなと感じます。

ースタートアップの知財戦略については、どのようにお考えでしょうか。

大前提として、知財戦略の前に事業戦略がしっかり成長していることが大切です。サービス自体がうまく進むか解らない段階で特許出願をしても、サービスが泣かず飛ばすであればどうしようもありません。事業が上手く行くのが見えてきた段階で、初めて特許の意味も出てくると思っています。

敵が来ないところに高い防御壁を作っても意味が無く、新しいコンセプトで新規性もあり特許出願をしていたとしても、ビジネス自体が上手く行かなければ誰も特許を侵害してまで参入しようとしません。シリーズAやBまで成長が進み「いい城ができてきているけど、防御策は大丈夫?」となった段階で初めて知財が意味を持ち出すのかなと感じています。自分の投資先を見ても、ステージが進み成功している会社であればあるほど、後から効いてくることが多いです。

ー知財戦略をしているスタートアップに出会うと見方が変わったりしますか?

もちろん変わります。僕はスタートアップのリスクとバリエーションは反比例していると考えています。まだアイデアしか無いスタートアップの卵はリスクしか無く、仮説はあるけどそれを証明できていないからバリエーションが低くなっている。プロダクトを見せてユーザーに受け入れられれば、プロダクトを作れるかどうかの不安要素と、ユーザーに受け入れられるかどうかの不安要素が消えて、その分バリエーションが上がります。

スタートアップは不安要素がひとつ潰れるごとにバリエーションが上がると思っています。そういう意味ではきちんと知財戦略を持っていて、専門家のお墨付きもあり、簡単に競合が参入できない防御壁が築けたら、不安要素が無くなり、バリエーションアップにダイレクトに効いてくる。知財戦略は持てるのであれば絶対持った方がいいし、全く同じビジネスをしていてもそこをきちんと抑えているのとそうでないのでは、バリエーションに如実に効いてくるのが自然な姿だと思います。

ー知財を考えるスタートアップがあまり多く無い理由は何だと思いますか?

知識とお金の問題があると思っています。スタートアップは色々と学ばなければいけないことが多い中で、サービスの開発や人の採用、マーケティングなどの目先の売上利益を作ることに、学びの優先順位が高くなる傾向があります。

中長期的な目線で良い城を作るための、背骨の部分に時間を割く優先順位があがっていない。それは単純に知識が足りていないために重要度に気が付いていないこともありますが、それに加えて時間的な余裕や金銭的な余裕が十分に割かれていないことも要因です。よっぽど最初から「この事業の肝は知財だ」と思っていなければ、自分たちのサービスを競合に奪われないために知財が武器になるというアイデア自体も無いし、きちんと検討する時間も取れないのではと思います。

ースタートアップの知財戦略には、お金や時間の問題もあるのですね。

難しいのは、事業が上手くいってから考えるのだと遅いこともありますよね。もっと早めに考えておけばよかったとか、出願しておけばよかったとか。ステージが若いスタートアップが、あのタイミングで一手を打っておけば良かったのに打てずにそのままジワジワ進んでしまう…という状況はよくあるケースだと思っています。難しいことではありますが、実務を回して事業の成長を進めながらも知財などの防御壁をケアし、適切なポイントで一手を打つ。こういうことができるのは、相当成熟した経営者か、ステージの若い段階からアドバイスをくれる専門家が近くにいるようなラッキーパターンかなと思います。

僕も勉強して初めて知りましたが、自らが保持する発明でも自分たちの発表により権利化できないパターンもあるんですよね(2021年2月現在は自分たちの発表による新規性の喪失に限り、1年以内であれば権利化が可能)。そういうことも割と知らない人が多いため、早い段階から知財の知識はある程度持っていた方が良いと感じています。

自分たちのプロダクトがユーザビリティを追求した結果、実はめちゃくちゃ先進的なデザインだったということもある。可能性があるかないかの段階で相談できる専門家が周りにいるかどうかも、スタートアップにとって重要なポイントだと思います。

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