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「社会実装に時間がかかる研究や地方の技術でも成長を支援していきたい」 無形資産の評価などを行うアスタミューゼが、VCを立ち上げた狙い(前編)

インタビュー

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。


世界80か国のイノベーションキャピタルデータベースをもとに、無形資産などの評価を行っているアスタミューゼ株式会社。昨年10月には、新たな特許価値評価技術を特許出願するなど、無形資産の中でも難しいとされる特許をはじめとした知財の価値評価の可能性を広げていると感じます。 

今回は、アスタミューゼが考える特許の価値やこれからの無形資産の可能性について、代表取締役社長 永井 歩 氏と、テクノロジーインテリジェンス部部長 川口 伸明 氏にお話を伺います。

インタビュー前編では、永井氏にVCを設立した経緯やアスタミューゼの今後の展望などをお伺いしました。

 

―後編はこちら

特許は「守る・使う」だけじゃない。その先の未来へ展開する、新たな特許の価値とは。(後編)

 

 

ー無形資産に着目した経緯を教えてください。

アスタミューゼは、2005年に創業したのですが、当時、日本は特許でいうと世界一位に近い出願件数を誇っていました。そのような状況だった中で、私たちの会社はプラットフォーマーを目指していた事もあり、Microsoftの後にGoogle、Facebook、Amazonと続々と出てくる状況下でどうすれば勝てるのかを考えたときに「日本には資源もないし、人も少ないけれど、知財のプラットフォーマーなら世界で一番になれるのではないか」と。その当時ある米国企業が発表したレポートに「企業価値の80%は無形資産だ」と載っており、日本発でも無形資産に着目すれば優位な立場からプラットフォームを築けると確信したのがきっかけです。

 

ーもともと永井さんは研究者ですよね。そのような背景も関係しているのでしょうか?

学生時代はロボットの研究をしながらソフトウェア会社を経営していました。会社の方ではMicrosoftやGoogleなど、誰かのプラットフォーム(OS・検索エンジンなど)の中でアプリやソフトウェアを作るということをやっていたのですが、誰かが作ったルールの中でのビジネスに限界を感じ、そろそろ違ったかたちで仕事ができないかと考えていたのです。

そこで研究者として、修士から専攻を変えて、インフラとして社会的インパクトの出せる原子力業界に入りました。一方入ってみると感じたのが、業界の特徴として最先端の研究をしているのにも関わらず閉鎖的な部分が多々あり、研究成果が業界の外から認識されづらいという現状がありました。これはもったいないと思い、大学院の技術をライセンスアウト・事業化する、TLO(技術移転機関)のようなことを始めたのです。

当時は研究シーズの事業化や技術移転などがまだ各大学で活発ではなく、先駆けていたこともあり、いくつかの大企業から「うちのライセンスコーディネーターになってくれ」「うちの技術の事業化・マネタイズを手伝ってくれ」と仕事が舞い込んできました。それが会社を立ち上げた経緯です。実は始めにソフトウェア会社を経営して、研究者に戻り、研究者をやっている間に技術移転などの仕事が来て、アスタミューゼ株式会社が立ち上がったという順番になります。

 

 

ー学生時代のご経験が、永井さんの一つの転機になったのですね。アスタミューゼ株式会社は2021年1月、SBIホールディングス、リンカーズと共に大学発シーズへの投資を目的とする「SBI Translational Support株式会社」を共同設立されましたよね。こちらの設立の経緯を教えてください。

SBI Translational Support株式会社は、既存のVCだと難しい領域に投資しようと立ち上げた大学の研究シーズに対しての投資と事業化支援の会社です。一般的なVCの投資の対象は、当然ファンドの一般的な運用期間である「10年で回収(EXIT)できる技術」です。特に日本の場合はIPOでEXITがほとんどでファンド運用期間でIPOできる技術を考えると、IT・DXのように社会実装が比較的容易で、マーケティングもし易いものになるでしょう。ITやSaaSにばかりお金が集まっている日本のベンチャーマーケットの現在の状況は、ハードウェアやものづくり、ケミカルやバイオが得意だった日本からすると、非常にもったいないギャップを産んでいると思っています。

既存のVCがなかなか投資しづらい研究シーズが日本にとって重要だと気付き、そのギャップをどう埋めようかと考えた時に、10年でIPOはできなくとも、10年で大企業に基礎研究や特許ポートフォリオ自体が評価・資本業務提携、そして場合によってはバイアウト(EXIT)できるような知財戦略とプロトタイピングや社会実装支援のためのマッチングを支援しつつ投資するファンドがあれば出来るのでは、と考えました。

また、国によって得意なテクノロジーは変わるものですが、日本はバイオもやれば自動車、ITなど全方位で勝負してきました。一方で、国の研究予算は先進国の中では相対的なシェアとしてはどんどん減り続け、研究費が少ない中で選択と集中をせざるを得なくなってきました。そこで領域別の研究予算を選択と集中をすると思いきや、特定の研究分野に割り振るのではなく、都心を中心とした大学にほとんどの研究予算が割り振られています。特定の研究分野に集中するのではなく、都心の上位大学に予算を集中させてしまった結果、地方の野心的な研究シーズがより日の目を見づらい状況になってきています。そういった社会的な構造の歪みを是正することも、この会社を立ち上げた目的です。

 

投資先はどのようなポイントを見て決めるのでしょうか?

いわゆるディープテック領域、バイオなどを中心としたスタートアップです。ディープテック領域では、しっかり技術が目利きできるVCも、そもそも目利きにお金と時間を投じられる余裕があるVCも少ないと感じています。いずれは今以上にスタートアップと組みたい大企業が増える時代が来て、そのような構造の中でVC側も含めて、ディープテック領域にもう少し安定してお金が流れてくるのではと考えています。

 

 

ーアスタミューゼ株式会社の今後の展望を教えてください。

日本のマーケットの構造上のギャップを埋めていきたいという思いがあります。今は、日本のスタートアップのほとんどがIPOでEXITしますが、結果として時間がかかる研究開発型スタートアップがミドルステージで出口を作れずリビングデッドになっています。こういった企業に成長の機会を提供し、大企業に「売る」のではなく「コラボ」をして、大企業の生産・マーケティング能力を梃子にしてさらに成長していく事例を作ることができれば、日本のスタートアップエコシステムを更に進化すると考えています。スタートアップの出口戦略自体を劇的に変えていきたいです。

その中で、特許は競争力の源泉でもありますが、大企業とコラボするための接着剤のような役割もあるので、IPOストーリーは描けても、特許の戦略は描けないとなると大企業とのコラボも狙えません。

またスタートアップの中でもディープテック、ヘルスケア、バイオなどは、特許戦略を描けてもお金が足りずに特許戦略を実行できないジレンマにもなりがちです。そういったジレンマを解消するための特許戦略と成長投資の両輪を回すお手伝いができればと思っています。

 

インタビュー後編では、テクノロジーインテリジェンス部長を務める川口氏に、引き続きアスタミューゼが考える特許の価値や無形資産の可能性、スタートアップに有効なデータベースの活用法についてお話を伺います。

 

―後編はこちら

特許は「守る・使う」だけじゃない。その先の未来へ展開する、新たな特許の価値とは。(後編)

 



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