まず、商標から始めよ#1

インタビュー

絶対的安心を得るために存在している「鍵」。
しかし、自身の恐怖体験によって、現状の「鍵」の安全性に疑問を持ったのが、牧田 恵里氏(株式会社tsumug 代表取締役CEO)です。牧田氏が開発したのは、単体でLTE通信する世界初の鍵デバイス「TiNK」。セキュアなシステムと繋がり、鍵デバイスに起こるすべてを記録・通知するなど、最高レベルの安全を約束する本製品は、不動産業界だけでなく、幅広い業界から注目を集めています。 

『現状の鍵では絶対安全とは言えない。』

―鍵をテーマに起業に至った経緯を教えてください

 きっかけは、元交際相手に鍵をコピーされて不法侵入されたことから始まります。その時は、鍵をコピーされていた事にも、不法侵入されていたことにも気がつかなかったんです。どこか違和感は感じても確信ができないので、自分の勘違いだと思っていました。

家の中で違和感を感じるなんて、とても怖い話ですね。。

 そうなんです。普通の鍵では記録を残すことができないので、不法侵入された場合に気づけるように、ドアに髪の毛を挟んでおいたこともあります。違和感を可視化できないって本当に怖いなと思いました。そこから、記録が残らない鍵の安全性に疑問を抱き始めたんです。そして、実際に自分で安全な鍵を作ってみたいと思ったんです。

起業を選択したのはどうしてですか?

 もともと学生時代に会社を立ち上げた経験がありましたし、スタートアップのサポートもしていました。私にとって起業は特別なことではなく、目的を達成するための一つの手段でした。そして、スタートアップのサポートをしていた時に、投資を受けて開発をし、事業を伸ばしていくという手段があることを知り、じゃあその手法で新しい鍵を作ってみようと思いました。 当時、小笠原さん(※株式会社tsumug社外取締役)が、『ものづくりをしている人が集まる場所を作りたい』という話をしているのも聞いていて、実際にDMM.make AKIBAが立ち上がったので、そのコワーキングスペースでtsumugは始まりました。

『ものづくりの難しさに直面』

現在、世界初の単独でLTE通信できる鍵「TiNK」を開発されていますよね。「TiNK」は最初どのような発想で作ったのですか?

  とにかく「何が起こったのか」を知ることのできる鍵を作りたいと思いました。当時IoTという言葉が流行りだしたタイミングでもあったので、鍵が単独で通信することで、鍵の作成や削除・操作の履歴が残せて、スマホみたいに色々な機能をあとから載せれるようにしたいと思いました。要は、スマホを扉につけてみたかったんです。でも、BluetoothやWi-Fi通信だと、最初に設定が必要ですよね。私もあまり得意ではなくて(笑)。それで、誰でも簡単に使えるように、設定が不要で、デバイスを扉につけたら終わり、という感じにしたかった。もし、何か不具合や非日常な出来事が起きた時は、そのデバイス自体が自分の状態を理解して、故障や不法侵入者などの情報を教えてくれたらいいなと思いました。そこで、LTE通信する電子キーを作ろうと思ったんです。

 

「TiNK」を作るのに苦労した事はありますか?

 ものづくりは苦労ばかりです(笑)。敢えて挙げるとすると、ハードウェアの開発には多様な知識が必要なことですね。ハードウェアエンジニアは、自分の専門領域についてはすごく詳しくても、少し外れるとどうしても知識が少なくなってしまう。私は最初にそのことを理解していなくて、エンジニアなら誰でも何でも分かると思っていました。世にない新しいデバイスや仕組みを作る時は、幅広い領域の知識が必要で、何から手をつけていいか、誰に頼めば良いのか、それが分からないのです。金銭面、エンジニア探しなど、色々な障壁があるんだなと感じました。

LTE通信以外の「TiNK」のポイントはどこですか?

 ご家族に背の小さいお子様や、高齢の方がいる場合、固定された場所に鍵があると開けにくいこともありますよね。それぞれのご家庭に合った使い方ができるデバイスにしたいという想いも込めて、扉の内側と外側にデバイスを取り付ける形にしました。無線で通信するので、使いやすい場所に設置ができます。

『結果的に知財に多くのコストをかけていた』

知財に関する取り組みを強化されていますが、最初はどのように始められたのですか?

 最初は商標から始めました。きっかけは、サイトのURLを取るタイミングで「tsumug」の商標を取っておいたほうがいいよ、という小笠原さんからのアドバイスです。それで商標を出願しました。でも、立ち上げ時期は資金がないですし、開発に予算を回したい。当時は、知財がそんなに大事だと思っていなかったので、コストをかけたいともあまり思っていなくて。

最初は知財への取り組みに積極的ではなかったのですね。

  知財を強く意識し始めたのは、ハードウェアの開発が本格化したときですね。自分たちのアイデアが、後々トラブルにならないかを考えるようになったんです。でも、スタートアップの知財戦略を積極的に考えてくれる弁理士の方たちって、まだそんなに多くないんですよね。私はそういうパートナーに出会えたので、スタートアップ経営の視点から『これをやっておいたほうがいいよ』、『どのアイデアが知的財産になり得る』などの考え方を聞くことができ、知財について考えるキッカケをもらいました。結果的には、私たちは知財に多くのコストをかけています。

過去にスタートアップ支援をしていた時には、知財を意識することはありましたか?

 正直、全く考えていなかったですね。知財の講習会はありましたが、実際にスタートアップに『やっておいたほうがいいよ』という話はしたことがありませんでした。正直、自分事で考えていなかったかもしれません。当時は、開発を急ぎ、ユーザーをとにかくつけて、KPIを達成していくというところに重きを置いて、知財は後回しでもいいものと考えていました。自分で起業したあとも、実際に知財のトラブルが起きたわけでもなく、知財が売却できた経験があったわけでもない。知財の重要性もわからないままとりあえずコストをかけていた状態です。

 

今は知財の大事さを感じていますか?

 もちろん知財は会社の資産になっていく大事なものです。でも、知財戦略を一緒に考えてくれるパートナーに巡り合えないと、大事だと感じるまでにすごく時間がかかると思います。大企業のように知財部を作って知財戦略を考えていくのは、スタートアップには難しいです。だからこそ社外のパートナーを探すのですが、今はまだ、事業計画を理解して、攻めの知財戦略を考えてくれるパートナーはそんなにいないと感じます。でも、そんなパートナーを見つけられれば、スタートアップの価値はどんどん高くなるだろうなと思います。

―後編へ続く

【後編】まず、商標から始めよ

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