特許庁がスタートアップを支援する意味#1
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特許庁がスタートアップを支援する意味#2
特許庁の中にベンチャー支援班が結成されたのは2018年7月。
「知財のことをもっと知ってもらえるように、まずはスタートアップの方に対して知財の普及、啓発、発信をしたいと思いますし、皆さんの声を汲み取って次の施策に活かすということを頑張りたいです!」。
ベンチャー支援班には、スタートアップと知財を繋ぐ、熱い想いが溢れていました。
『知財専門家もスタートアップ支援に取り組み始めた』
──ベンチャー支援班の活動を教えてください。
進士さん
「スタートアップの知財戦略構築を中心としたアクセラレーションプログラムであるIPAS(IP Acceleration program for Startups)や、スタートアップ向けポータルサイトIP BASE(https://ipbase.go.jp/)の運営など、日本のスタートアップを知財面から支援する活動を行っています。中でも、IPASは昨年度から始めた事業で、支援対象は15社に広がっています。」
──知財戦略に特化したアクセラレーションプログラムは珍しいですよね。IPASではどのような支援が受けられるのでしょうか?
菊地さん
「まず知財の専門家である弁護士や弁理士、それからビジネスの専門家やアクセラレーター、VCの方などをマッチングしてチームをつくります。そのチームをスタートアップに派遣して、3か月間ぐらいひたすらビジネスを、知財戦略をどうしていくかを一緒に考えるということを行っています。ポイントは、やはり知財の専門家に支援チームに入って頂くことです。ビジネスをどう進めていくか議論をして、いざ方向性が決まったときに、では次はビジネスを知財でどう守っていくかという話をすることができます。ビジネスと知財の両方を睨んだうえで、『知財はここを気を付けたほうがいい』、『契約はこういうふうにしていかなきゃいけない』と戦略を考えることが大事です。他のアクセラレーションプログラムはビジネス面の支援がメインですよね。特許庁がやるからには、ビジネス面を踏まえた知財の支援、そこに取り組むことが大事だと思っています。」
──スタートアップの支援をする知財の専門家は増えていますか?
菊地さん
「知財の専門家としては弁理士の方が多いですが、最初はIPASへの協力を取り付けるのも大変でした。そこで、先行してスタートアップを支援している弁理士の方に『こんなふうにやっていくといいですよ』という体験談を共有して頂く機会を作ったら、2、3日で100名以上の専門家の方から申し込みがありました。スタートアップ支援に挑戦したい方がそれだけたくさんいらっしゃるのを知り、とても心強く思いました。」
進士さん
「挑戦したいという弁理士をはじめとする知財の専門家の後押しをしたいなと思っています。いま、スタートアップ支援の実績が多い知財専門家に集まっていただいて、『スタートアップってこういう特徴があるんだよ』、『よくあるのはこういうケースだよ』とか、『スタートアップの段階に応じて気を付けるポイントはここだよ』という内容をまとめた手引書をつくっています。できあがり次第IP BASEに掲載する予定です。」
『発明を社会に活かす現場としてのスタートアップ』
──スタートアップの課題を捉えてとても的確な支援をされていることが分かりましたが、もともと、皆さんはスタートアップやアクセラレーションと関わりがあったのですか?
全員
「いえ、全くないですね。」
──そうすると、ベンチャー支援班に異動すると決まったとき、どんな気持ちだったのですか?
菊地さん
「私は異動の話があったとき、楽しみだという気持ちでした。いままでとは違った人たちと仕事ができるという想いですね。異動して、いきなりイベントに行ってスタートアップの皆さんと話をしてみて、自分と違う世界にいる人と話せて面白い!と思いました。」
進士さん
「私は正直、『ベンチャー支援班って何をしているところなの?』という状況でした。『Tシャツ着ているところだよ!』と言われ、『あ!あそこか!』という思いと、『え!あのTシャツわたしも着るの!?』って(笑)。全く接点がない世界だったので、不安と期待が半々でしたね。」
小金井さん
「私はずっと審査業務をしていましたが、そもそも自分が審査した発明が、社会にどのように還元されていくか実感として分かっていなかったのです。実際に活用されている場を見たいと希望を出したら、ここ(ベンチャー支援班)に異動となりました。」
関塚さん
「ベンチャー支援班が立ち上がったとき、私は企画調査課の別の班にいましたが、外から見ていて、皆さんがチームで本当に楽しそうに活動していました。『官庁っぽくない雰囲気で、新しい!』と思うと同時に、仲間に入りたい!と思っていたので、ベンチャー支援班に異動と決まった時はうれしかったです。」
──スタートアップと波長の合う方が集まっているように思います。やりがいはありますか?
小金井さん
「はい!実際に企業の方が知財を活用している場面に関わることで、知財の重要性をより実感をもって考えられるようになりました。」
関塚さん
「そもそも私は事務職として特許庁に入り、人事などを担当してきたので、これまでとはぜんぜん違う業務に携われて楽しいです。いろいろな企業の方と関わって、知財が活用される場面を支援できる。特許庁ならではの仕事ができているなぁと実感しています!」
『スタートアップにはそれぞれの悩みがある。』
──やりがい、楽しさを感じられていますが、難しさはありますか?
菊地さん
「スタートアップは一社一社全然違うんです。なにを求め、なにに悩んでいるかを見出すことが大変ですね。『困っているんですよ』と言われたら、まずはなにに困っているんですか?と個別にヒアリングし、企業に合わせてケースバイケースで対応しています。15社のIPASの採択先も、やっぱり一社一社課題が違うんです。『出願を見てほしい』、『契約関係ですごく揉めているので助けてほしい』、『今後、ビジネスをどう進めていくか悩んでます』とか、本当にいろいろ。お話を聞きながら、そのスタートアップにとってどのような支援をするのが一番いいのかを考えながら動いていくことは、難しく、大変でもありますが、やりがいでもありますね。」
──スタートアップ企業から寄せられる相談で、一番多い相談は?
菊地さん
「『知財に関して、大事なのは分かるんですけど、なにをやったらいいかわからないんです。どうしたらいいですか?』というのが一番多いですね。」
進士さん
「我々のイベントに来られる方はそれなりに知財への関心が高い方なので、『何かやらなきゃいけない』という想いはあるんです。でも、誰に相談するのがよいかも分からない。まずはイベントに参加して良い専門家を探そうといったケースが多いです。」
──普段心掛けている工夫はありますか?
菊地さん
「スタートアップの課題を的確に把握することに加えて、IPASに参加している知財やビジネスの専門家の強みもできるだけ正確に把握するようにしています。3ヶ月一緒にやっていくうえで相性はとても大事なので、『このスタートアップの技術分野や、抱えている課題であればこの専門家だな』というように、スタートアップと専門家の適切なマッチングを意識していますね。」
―後編へ続く
特許庁がスタートアップを支援する意味#2