【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.1~開会式~
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2021年4月26日に、WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」が開催されました。
4月26日は、世界知的所有権機関(WIPO)を設立する条約が発効した日に由来して、「世界知的所有権の日」に指定されており、毎年、世界中で様々な記念行事が開催されます。
今年度は、WIPO日本事務所の2021年のテーマである「知的財産(IP)と中小企業:あなたのアイデアで新しい事業を」の下に、各界でご活躍されている方々からのご講演、パネルディスカッション等からなる記念イベントをオンラインで開催いたしました。
本記事では、そのイベントの様子をレポートいたします。
Vol.1『開会式』
まず始めに、WIPO日本事務所長の澤井 智毅 氏より開会が宣言されました。
【Vol.2 基調講演の様子はこちらから】
【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.2~基調講演~
知的財産と中小企業、あなたのアイデアで新しい事業を
「本日は世界知的所有権の日(World IP DAY)のイベントにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。主催者を代表して一言ご挨拶を申し上げます。
始めに、三度目の緊急事態宣言がこの東京でも発令されました。新型コロナウイルスに罹患された皆様にお見舞いを申し上げます。そして、この難局にご尽力されている皆様、更に最前線で立ち向かっている医療従事者の皆様に深く感謝申し上げます。
さて、今からほぼ半世紀前の1970年4月26日知的財産権保護の推進を図るため、国連の専門機関であるWIPOの設立条約が施行されました。これに由来して、WIPOは2000年に4月26日を知的所有権の日に制定しました。以来この日には、毎年世界各国で様々な記念イベントが開かれております。昨年にも私どももイベントを企画しておりましたが、感染症拡大対策の観点から中止という判断をさせていただきました。本年は、オンラインでの開催となりましたが、このような状況にありましても、知的財産の重要性について、皆様と一緒に考える機会を持てること、新たなイノベーションを実感しています。
昨今、ニューノーマルと呼ばれる環境下で、私たちを取り巻く環境は、急激に変化し、新しい社会像や価値観を人々の行動や意識に大きな影響を与えています。こうした社会変化に適応するべく、新たなイノベーションが日々生まれ、そして求められております。これを支える知的財産制度が、より一層重要になってくるものと存じます。
このことは、コロナ禍にありながらも、特許協力条約に基づく、国際特許出願件数が2020年に過去最高の件数を誇ったことがその証かと存じます。
本年の世界のテーマは、『知的財産と中小企業、あなたのアイデアで新しい事業を』です。すべてのビジネスは、もともとは誰かの心の中で生まれ、小さなアイデアが始まり、大切に育まれ、勇気を出して実践され、一つの形となってきています。もちろんすべてのアイデアが実を結ぶわけではありません。どのように使うだろうか、あるいはどのように使ってもらうのだろうか、との洞察、インサイトを尽くすことによって、社会に、そして時代に受け入れられるのではないでしょうか。
かつては中小企業であったGAFA、スティーブ・ジョブズのAppleへの復帰を同社の新たな開業と考えれば、GAFAはいずれもその誕生から四半世紀程度しか過ぎておりません。その後に生まれた子供たちの多くは、未だ学生です。
名言集の表紙を飾る米国の代表的な名言として、ジョブズの「Let’s go invent tomorrow instead of worrying about what happened yesterday.(昨日のことにくよくよするよりも明日を発明しよう)」という、人生訓にも通じる力強い言葉があります。
この2月にAmazonの会長退任を発表したジェフ・ベゾスの社員に向けた退任の挨拶状には、その前段で、「私たちは世界で最も成功している企業の一つとして、広く認知されています。それはどのようにして実現したのでしょうか。発明です。」と記されています。このほんの600ワード程度の短い書簡の中で、8回も「インベント」、「インベンション」、「インベンター」との言葉が出てきます。これらの言葉やサクセスストーリーは、1980年代以降の米国から世界に広がった、知的財産強化政策(プロパテント政策)が奏功し、起業を促し、新たな価値を社会に浸透させた証とも言えます。
米国のバイデン大統領は23日、本年のWorld IP DAYに向け、「We are proud to be a Nation of inventors.(発明者の国を誇りに思う)」として、前のトランプ大統領に続き、知的財産宣言を発しました。政権や党派を超えて、知的財産は大事にされています。このように想像的なアイデアをビジネスチャンスに変え、新たな価値や仕事を生み出し、それが世に広がり、イノベーションとなって、たくさんの人々の生活を健康で豊かなものにいたします。こうした素晴らしいイノベーションサイクルを私たちWIPO日本事務所は、知的財産の面から協力にサポートして参りたいと思っております。何より知財の、そしてイノベーションの伝道師を目指して参ります。特にこれからの日本、さらには世界の将来を担う中小企業、起業家、そして学生の皆様に、知的財産の果たす役割についてご理解を賜れば、伝道師としてこれに勝る喜びはありません。本日のイベントがそのきっかけになればと存じます。
最後になりますが、本イベントの開催にあたりご協力、ご準備をいただきました皆様へ御礼を申し上げます。本日は、将来世代である中学生、高校生から、日本を代表するそうそうたる皆様にご参加いただきます。盛りだくさんの内容のイベントとなっておりますので、是非最後までお楽しみいただければと存じます。」
続いて、特許庁 長官の糟谷 敏秀 氏より来賓のご挨拶です。
コロナがもたらした特許庁の変化
「世界知的所有権機関WIPO日本事務所による「World IP Day」イベントの開催を心からお慶び申し上げます。御挨拶の機会をいただいたこと感謝を申し上げます。今日、4月26日は「世界知的所有権機関設立条約」が発効した日です。2001年以降、この日を「World IP Day」とし、イノベーションを促し、知的財産について認識を深めるイベントが世界中で開催されています。感染症や地球温暖化問題など、私たちは多くの困難な課題に直面しています。こうした課題を解決に導くため、イノベーションへの期待は、かつてなく高まり、イノベーション力の強化が求められています。
一方、我が国においては、リーマンショック以降、国内の特許出願件数が減り続けていることを理由に、イノベーション力が低下しているのではないかとの指摘があります。この指摘について、私たちは出願件数の減少は、すべてがイノベーション力低下によるものとは言えず、企業の出願方針の変更による影響が大きいと考えています。出願件数を競うのでなく、最終的に権利化すべきものに絞り込んで出願するように転換したという企業は少なくありません。現に、毎年の国内出願件数は減少していても、最終的に特許として登録された件数は、今のところほぼ横ばいで推移しています。日本での出願を絞り込む一方、海外での出願や権利化を増やす動きも見られます。2019年には、日本企業の海外での特許登録件数が、初めて国内での登録件数を上回りました。ただ、昨年は、新型コロナウイルスの影響により、国内の特許出願件数はさらに6.4%減少し、30万件を割り込みました。出社制限のために研究開発が遅れている、業績悪化による経費削減のため出願を減らさざるを得ない、という声が聞こえてくるのは気がかりです。同じ業種でも、大幅に出願を減らした企業がある一方、増やした企業もあり、二極化しています。本来行うべきだった研究開発や特許出願をとりやめることで、将来に禍根を残すことにならないよう適切な対応をお願い致します。
特許庁は、ユーザの皆様のイノベーションやブランディングをさらに強力にサポートするため、制度やその運用を改善していきます。この機会に、いくつかご紹介したいと思います。
(1)コロナ禍で明らかになった課題への対応
①電子申請できない約500種類、年間約20万件の手続きをすべてオンライン化
→これまでに必要とされていた添付文書の原本提出も不要
これらに先んじて、書面で手続きする場合の押印は、原則として廃止
(※厳格な本人確認が必要な場合に限定)
②法律を改正し、審判手続における口頭審理をオンラインで実施できるようにする
③特許料等の支払い方法を見直し、印紙予納を廃止、口座振込で予納可能にする
④テレワークでも利便性を損なわないよう、審査官とのコンタクト機会を拡充
→審査官とのオンライン面談は、ウェブ会議手段を増やすことで、待機時間の減少(※電子メールに加え、今月からテレワーク中の審査官と直接の電話連絡が可能に)
(2)デジタル化が進む中、権利をより手厚く保護できるよう見直し
①海外からの模倣品輸入については、個人使用目的の場合は、現状では税関での差止等がでないが、海外の事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を、商標権・意匠権の侵害と位置付け、差止等ができるようする
②うっかりして手続き期間を過ぎてしまった場合に、権利の回復が認められやすくする
(3)制度の基盤強化
①弁理士制度の見直し
②特許侵害訴訟等において納得感の高い判決につながるよう、裁判所が当事者以外の意見を求めることができる制度を整備
③特許料等の料金体系の見直し
→料金見直しにあたっては、歳出削減を徹底すると共に、財政運営状況についての情報開示の充実や第三者による定期的な点検を行う予定
本日のイベントの主催は、WIPO日本事務所ですが、WIPOと日本は深い関係があります。
WIPOが運営する国際出願・登録制度において、日本からの出願は特許で世界3位、意匠・商標はそれぞれ世界第7位です。日本は、WIPOと共に途上国の知財制度整備を支援しています。1987年からWIPOに資金を拠出し、これを元に信託基金「WIPOジャパン・トラスト・ファンド」が運営されています。基金の創設当時は、アジア・太平洋地域に対象を限定していましたが、2019年には地域の限定をなくし、「グローバルファンド」としてあらゆる地域への支援が可能となっています。ジャパン・ファンドの創設以来34年間で、総額約8,500万スイスフランを拠出し、80か国以上に支援を行いました。知的財産分野での協力のための政策対話やワークショップの開催、専門家派遣などを行い、途上国における知的財産制度の整備と人材の育成に貢献してきました。
また、環境技術の普及を目的とする「WIPO GREEN」は、日本の産業界、日本知的財産協会の提案が契機となり、2013年に立ち上げられたものであります。オンラインデータベースや地域の活動を通じ、環境技術の希望者と提供者のマッチングを行っています。「WIPO GREEN」のデータベースは、世界中で1,500以上のユーザに利用され、120を超える組織が「WIPO GREEN」の活動を支援するパートナーとして活動しています。日本は、ユーザ数もパートナー数も世界最多です。特許庁もパートナーの一員です。「WIPO GREEN」は、もっと効果をあげることができると考えています。我が国企業の持つ知的財産を活用し、環境問題の解決により貢献すべく、産業界の皆様と連携して取り組んでいきます。
排他的独占利用が認められる知的財産権は、イノベーションの妨げになると指摘されることがあります。コロナ禍で、医薬品やワクチンの知財権の放棄を求める提案も一部の国からなされています。しかし、知的財産が権利として認められるからこそ、イノベーションが促され、社会課題の解決につながるのだと私たちは考えます。
特許庁では、2025年の大阪・関西万博に向けて、これからの知的財産制度のあり方を考え、発信するプロジェクトを始めました。「I-OPENプロジェクト」と言います。目から鱗が落ちることを英語で「eye-opening」。「I-OPEN」は、発見・発明の驚きや喜びを表現しています。「I-OPEN」のアイをアルファベットの「I」にとすることで、「Intellectual Property(=知的財産)」とイノベーションの意味も込めました。このプロジェクトは第一に、一人ひとりの創造活動を守り、育むための基盤として知的財産制度を整備し、第二に、様々な分野で人の探求心や創造性を育もうとしている人たちを支援していくネットワークを形成し、第三に、新しい時代を見据えて知財エコシステムを再設計していくことを目的としています。
知を生み出して、社会課題の解決につなげている人材、すなわち「I-OPENER」を国内外から発掘してネットワークを構築、その知見をもとに、新たに知を生み出して課題解決に活用する人材、次なる「I-OPENER」への支援を行います。WIPOとも連携しながら、「I-OPENER」たちが生み出した成果や事例、世界の課題の解決に知財が果たした役割について、大阪・関西万博の場も借りて、国内外に発信していきたいと考えています。
ところで、本日WIPOにより、世界各地で行われるイベントの共通テーマは「知財と中小企業」であります。50年以上の歴史があるWIPOですが、中小企業の皆様の中には、これまで馴染みがなかったという方もおられるのではないかと思います。特に、海外展開をお考えの企業の皆様には、WIPOのサービスを特許庁の支援策と併せて利用されることをおすすめ致します。経営資源が限られる中小企業にとって、知的財産戦略を立案し、海外展開に踏み切るのは容易ではありません。特許庁では、知財、海外ビジネス等の各分野の専門家による戦略策定やコンサルティングを通じて、高い技術力を有する中小企業の海外展開を支援しています。海外展開の検討段階では、WIPOが提供する海外の知財の動向、最先端の技術開発や市場の動向に関する情報が有用です。特許庁の提供するデータベースや報告書等と併用することで、より効率的に海外の情報にアクセスすることができます。海外の知財権は、WIPOが提供する国際出願・登録制度を活用することにより、効率的に取得することができます。
特許庁は、中小企業の皆様が海外で権利取得されるのを支援しています。海外進出後に、現地で模倣品等に対抗したり、権利侵害で訴えられて防衛する場合も支援を致します。現地でお困りのことがありましたら、JETRO等に駐在する特許庁の人材に、また、国内では、知財総合支援窓口や豊富な経験を有する「海外知的財産プロデューサー」にお気軽にご相談ください。WIPO日本事務所では、日本語で相談することができます。特許・意匠・商標だけでなく、著作権や地理的表示などについても相談ができます。
日本事務所のようなWIPOの事務所は、世界に7箇所しかありません。皆様には、是非この貴重なリソースであるWIPO日本事務所をご活用いただければと思います。特許庁としても、WIPOによる日本ユーザへのサービスが成果をあげるよう、WIPOとの連携を強化していきます。
皆様におかれましても、WIPOのサービスについてニーズやご意見があれば、積極的にお寄せいただければ幸いであります。特許庁は、WIPO日本事務所と連携し、日本の皆様のイノベーションやブランディングのサポートに努めて参ります。皆様が、知財活動を通じて、アイデアを新しい事業につなげ、コロナ後の新時代を切り開いていかれることを心から御期待申し上げて、私からの挨拶とさせていただきます。」
【Vol.2 基調講演の様子はこちらから】
【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.2~基調講演~