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知財×ロボティクスで世界を変える!DXスタートアップにおける知財の重要性とは #1

インタビュー

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知財×ロボティクスで世界を変える!DXスタートアップにおける知財の重要性とは #2

これまで当たり前とされていた、人による社会インフラの点検や警備。しかし、日本では高度経済成長期以降に整備したインフラの老朽化が急速に進みつつあり、労働力不足や安全性の問題といった様々な課題に直面しています。

今回は、そのような現場で起きている様々な課題に着目し、ドローンをはじめとするロボティクス技術と先進技術の力で課題解決を目指している、株式会社センシンロボティクスの取締役副社長である塚本晃章氏(以下、塚本さん)とAIPE認定知的財産アナリスト(特許)である小松一貴氏(以下、小松さん)に課題解決に向けた知財戦略などについてお話を伺いました。

 

既存サービスに新しいテクノロジーを組み合わせる


-センシンロボティクスは、ソフトウェアとロボティクスを組み合わせた様々なソリューションを発表されていますよね。現在の事業を始めたキッカケを教えてください。

塚本さん
センシンロボティクスはブイキューブ(※)という会社からスピンアウトしたスタートアップです。ブイキューブは映像伝送サービスを提供している会社で、その技術とドローンを組み合わせることにより社会課題の解決に繋がるサービスになるのではと、弊社代表取締役会長の間下直晃(ブイキューブ代表取締役社長)のもとに事業を開始しました。

その後、ドローンと映像伝送を組み合わせることにより、高所や災害現場など危険区域を遠隔地から安全に確認できるのではないかと考え、センシンロボティクスの事業を考え始めました。

(※)ブイキューブ社のURLはこちら

現在の事業を進める過程で感じる課題点などありましたら教えてください。

塚本さん
現在、主にプラントや発電所などの大型設備の点検でドローン等を用いたロボティクスサービスを展開しています。初めは、機体とソフトウェアを組み合わせたドローンサービスをパッケージ化したものをお客様に提供できると想像していました。しかし、大型設備は、それぞれの施設に特化した点検技術が確立されているため、同じシステムが一律でマッチングすることは非常に難しい。そこに気が付いてからは、お客様それぞれの課題に寄り添ってコンサルティングをしながら、弊社サービスでのビジネスプロセス改革支援に力をいれております。

 

大手企業に技術を模倣された過去


-事業戦略を考えるうえでいつから知財を意識していましたか?

塚本さん
私は2018年からセンシンロボティクスにジョインしましたが、知財に関しては入社当初から重要だと感じていました。実は知財でとても苦い経験をしていて。前職は大学発のバイオベンチャーで、大学の研究室から創出されたユニークな知財を元に設立された会社で、知財を競争力の源泉としておりました。事業拡大のため、大手企業にライセンスアウトし、アライアンスを組んでこれからどんどん事業を大きくできると期待を膨らませていましたが、売上計画未達を理由にアライアンスを解消されました。

解消理由は売上未達でしたが、自社の知財と類似の知財を同社は取得しており、それが理由なのではないかと悔しい思いをしたのです。ただ、ライセンスアウトした特許の派生や改良といった場合の法的な対策がなかったことや周辺の特許を抑えられていなかったことなど、私達の落ち度もあり非常に反省を致しました。

また、スタートアップには非常に重要な資金調達活動でも、自社の差別性を示すことが成功するための重要事項だと思うのですが、知財はまさに自社差別性を明確に示すものだと思います。このような経験から、「スタートアップの事業戦略には知財は欠かせない。」と考えております。

小松さん
ソフトウェア領域における特許については、侵害立証が困難だったり回避が容易であるというイメージを持っていたため、私がセンシンロボティクスにジョインした当初は、特許についてはそれほど意識していなかったです。しかし、ドローンファンドに出資いただいたことがきっかけで、弁理士にソフトウェアにおける特許の活用や取得の仕方をアドバイスいただくようになり、特許取得を意識するようになりました。2018年3月から特許取得の取り組みを始め、2018年5月には特許5件の出願を完了し、2018年6月の資金調達で自社の特許についてアピールができました。資金調達後は知財予算も取り、新しいサービスの開発とともに特許の数を揃える戦略を開始しました。

-取り組みを始めてからのスピード感が凄すぎます!センシンロボティクス社全体で、知財の考え方が変わったタイミングだったのでしょうか。

塚本さん
特許出願自体がコストがかかるものなので、資金が潤沢にあるわけではない多くのスタートアップが、最小限に抑えて取っていこうという方針を取っているかと思います。私たちも以前までは、メインの特許にはお金をかけても、それを群で守ってプロテクトする戦略までは落とし込めていませんでした。そこの重要性に気がついてからは、小松を中心に知財戦略を進め、最初から「特許群」を取る予算取りもしており、項目でいえば一番大きい予算を組んでいます。

小松さん
親出願を1件出すごとに、子出願、孫出願をどのようにするかまで想定して戦略を練るようになりました。ソフトウェア領域の特許の取り方や使い方の解のひとつとして特許群があるのだと考えています。

新事業の検討段階から知財担当者が関わる

-知財戦略を検討する時はどのような流れで考えていらっしゃるのでしょうか。

小松さん
新しいサービスやプロダクトの検討段階から、知財担当者が関与するようにしています。サービスやプロダクト名称の商標登録、開発予定技術のアイデアの特許出願、UIの意匠登録と、サービスやプロダクトの検討・開発段階に応じて、知財の権利化の検討も漏れなく同時に進めています。

2020年からは、社長を含む全執行役員で構成する知財戦略会議が組成され、事業・開発・知財を三位一体として、事業戦略・開発戦略・知財戦略が策定されるようになっています。私は知的財産アナリストという資格を取得しまして、そのスキルを活用し、他社特許の技術分野の検討・分析により他社で手薄な技術分野を把握してレポートし、自社のサービスやプロダクトの開発方針決定の参考になるようにしています。

 

-事業戦略、開発戦略、知財戦略を同時に練ることで、それぞれがより強固なものになっているのですね。センシンロボティクスの現在の特許の取得状況を教えてください。

小松さん
公開済み分(取材日は2021年1月13日)では、特許が出願59件、登録40件、商標が出願12件、登録が6件です。特許を1件取得しても、その1件が無効にされればそれまでなので、そのような状況を避けるために、主要な機能は複数の特許のポートフォリオでプロテクトするようにしています。

特許出願にあたっては、基本的には特許庁のスーパー早期審査制度(※1)を活用し、早期権利化を目指しています。とはいえ、ポートフォリオを後々を充実させたり、将来の仕様変更や他社の権利行使に備えて、ファミリーごとに1つは審査中ステータスのものを残すようにしています。

重要な出願は基本的にダイレクトPCT出願(※2)をしています。ISR(※3)の結果を参考にして国内移行時に自発補正をすることで、より広い権利範囲を狙いつつ、特許査定率を高められていると思います。また、外国関連出願となることで、分割出願を含めたファミリー単位でスーパー早期審査を活用できることになるため、ダイレクトPCT出願は非常にメリットが大きいと考えています。

 

(※1) 要件を満たした場合、出願から審査までを早期に行うことができる特許庁の制度
(※2) 特許協力条約に基づく国際出願
(※3) 国際調査報告(International Search Report):国際調査により発見された先行技術が記載された書面。国際調査機関により作成される。

 

-#2へ続く

知財×ロボティクスで世界を変える!DXスタートアップにおける知財の重要性とは #2



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