【知財イベント】WIPOシンポジウム:グローバルな時代におけるイノベーション/講演3(#2)「グリーン技術を持つSMEの知財管理」
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講演1「知財基本法から20年~知財は中小企業・スタートアップを支援する~」
講演2「イノベーションのエコシステムに向けて、スタートアップ成功国カナダより学ぶ」
講演4「特許出願に関する技術者兼CEOの考察」(2022年3月4日掲載予定)
講演5「DuPontのイノベーションと知的財産活用」(2022年3月7日掲載予定)
Trod Lehong
Director, Afriqlnnov8 (Pty) Ltd
さて、私からは中小企業やスタートアップがどのように知財を取り扱っているのか、特にこのグリーン分野においてどのように知財の取り扱いをしているかということについて、経験に基づきお話しをしたいと思います。
中小企業やスタートアップが直面している知財の課題や過ち
まず初めに、中小企業やスタートアップが直面している課題や共通の過ちについてご紹介したいと思います。
1つ目は「アイデアを公開する」ということです。保護を担保する前に、情報を開示する、公開することによって、特許や意匠の保護が十分担保できなくなってしまうということです。後になって、権利を取得することができないという問題が発生します。これは単に知財の保護だけではなく、更なるご自身の技術の取り扱い等々にも影響があります。
2つ目は「特許権や商標、意匠権の検索を行わない」ということです。これは大きな問題だと思います。後になって、自分が欲しかった特許が得られない、あるいは自分の望むことができないというようなことが起きます。
3つ目は「市場の動向調査もしかるべき形で出来ていない」ということです。ランドスケープ検索は、実際にどのようなチャンスがあるのか、どこにギャップがあるのか、技術開発の面でどういったギャップがあるのか、どこで自分の研究プロジェクトを活かせるのか、どういったチャンスがあるのか、ということを確認する上で非常に有用だと思うのです。すでに成熟している飽和状態の市場で、自分がいってもしょうがないというところよりも、自分はどこで活かせるのかということを確認する上で、こういった検討が有用だと思います。
4つ目は「雇用契約や第三者プロバイダとの契約に、知財の所有権の条項を明記していない」ということです。外部の企業などと協力することがあると思いますが、契約の際に明確な知財に関する条項がないと、スタートアップ企業は自分の知財権だと思っていても、実は所有権は他の方に属している場合があります。
5つ目は「競合他社の動向を十分にモニタリングしていない」ということです。特に、知財分野における競合他社のモニタリングが十分に行われていないという印象は否めません。自分の技術分野の動向はどうなっているのか、競合他社はどのような動向を示しているのか、そういった動向趨勢にいつも注目していなければ、やはり後になって不具合が生じるかもしれません。
6つ目と7つ目は「既存の知財を確認していない、特定していない」ということです。つまり、システム的にしっかりと知財を記録していないということがよく見られます。例えば、知財を見い出しても、適切に特定もされておらず、記録もしていない。そうなると、後になって知財の実用化が実現し、契機を逃してしまう可能性があります。スタートアップというのはなかなかそういったことに気付かないのです。実は、自分の知財ポートフォリオがすごく大きなポテンシャルを持っているかもしれないというわけです。大変価値があるということが十分に認識されていないかもしれません。
8つ目は、先ほど言及したことにも関係しておりますが、「協業に関する問題」です。アカデミアの方々と協力したり、協業したりということもあるかと思いますが、そのときの知財の所有について目を向けたいと思います。権利のないイノベーションは、苦労に繋がる可能性があります。
9つ目は「中小企業やスタートアップは、知財の保護のための予算を計上しない」ということです。知財の取り扱いにはお金がかかります。そのため、しっかり予算が計上されていないと、しかるべき取り組みができなくなってしまいます。後になって自分の知財を守りたいと思っても、それが予算的に難しくなります。
そして最後に、「しかるべき法域でそれが担保されない」ということがあります。地元では保護できるかもしれませんが、他国の市場ではそれが適切に担保できないということがありえます。しかし、他国の市場でもきちんと守られることが大事です。結果的には、スタートアップがその市場に進出しようとしても、自分の権利が保護されていないということになります。しかるべき保護がないと、技術はリバースエンジニアリングから捉えられてしまうということもありうるということです。
中小企業やスタートアップのための知財戦略チェックリスト
このようなことを鑑みて、私たちはチェックリスト(※1)というものを用意しました。スタートアップや中小企業の方々が事業について検討される際に、この知財戦略チェックリストを使っていただければと思い、作成いたしました。知財権をモニタリングし、そして適切に実用化できるということに資するものであれば幸いです。また、知財戦略の構築に問題がないことを担保することに資することができればと思っております。
(※1)知財戦略チェックリスト(日本語版)はこちら
チェックリストは、4つのステージに目を向けております。
1つ目のステージは、コンセプト考案のプロセスです。
はじめに、コンセプトを考案するということから始めて、そこから製品開発に移っていくわけですが、中小企業はどういったステップを踏んでいくべきなのかというようなことが明記されています。
大事なステップの一つとして、自分の知財をしっかりモニタリングするということがあります。そして、効果的に恩恵が得られることを担保する。このコンセプト考案のプロセスの段階で大事なのは、まず自分のアイデアをしっかりと特定して、プロセスや手続きを担保するということであります。そして、後で問題が起きないように知財権に関する所有を担保することが大切です。
また、暫定的な検索を行うということも大事になります。本当にこれは実行可能なのであろうかというようなことを確認する上でも、そのような検索が大事になってきます。
2つ目のステージは、製品やサービスの開発です。
まずPOC(Proof of Concept)などを見たうえで、知財についてはこういったチェックリストを見ながら検討していただければと思います。しかるべき形で知財の保護を担保していきます。そして、自分のビジネスケースに合っているものかなど、知財のランドスケープも見ていきましょう。
また、FTO(Freedom to operate)の問題がないように、環境にやさしい要素を既存技術と比較するプロセスも担保しなければなりませんし、権利侵害防止のための調査もしなければいけません。
3つ目のステージは、すでに先ほど知財の保護に関するチェックリストをご紹介させていただいておりますが、適切な保護戦略を特定しているかというものになります。
例えば、特許や営業秘密等だけではなく、NDAが締結されているのかということにもここで着目しております。
そして、自分の知財をしかるべき形で担保するために大事なことも記載しております。自分の事業のニーズに合った保護を担保するということに資するものであればと願っております。
最後に4つ目のステージは、自分の知財を特定して価値を確認し、実用化に目を向けた上で、第三者とどのような協業をするのかというものになります。
どのような形で知財を実用化するのかということです。例えば、ライセンス共有するのか、あるいは知財権を売却するのか。そのように様々なパターンが考えられますが、どのパターンでも競合他社のモニタリングというのは必須です。また、技術の動向を見ることも大事になります。
最初のステージにありました、コンセプトの考案のプロセスから始めて、どのようにしてよりよいイノベーションを生み出すことができるかということを考え、よい循環サイクルをどんどん続けていくことができればという風に願っております。
ご静聴ありがとうございました。
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#1目次:
1.ついに行動を起こす時が来た
2.多くの技術が実用化に時間を有している
3.イノベーターにもチャンスがある
4.WIPOが提供する「WIPOグリーン」と「イノベーターのためのサービス」
5.WIPOの「知財管理クリニック」プロジェクト
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