【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.3(2)~パネルディスカッション第一部『中小企業と知財、企業に向けた課題』~
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『知財普及』と『知財活用』の二面から企業支援
澤井さん
視点を変えて、弁理士会の会長であります杉村様にお伺いします。弁理士会は、知財の重要性を色々な形で発信されているかと思います。漫画「閃きの番人」では、知財の重要性と弁理士の役割をわかりやすく説明されています。弁理士としての長年のご経験と、弁理士会会長のお立場から、日本の企業の知財の認識についてどうお考えでしょうか。また、知財の重要性を伝えるうえで、どのような点に力を入れておりますでしょうか?
杉村さん
まず重要なポイントは、起業家やより多くの中小企業経営者の方々に、知財に対する気付きを持っていただくことだと思っております。一般に中小企業の方々の知財の認識ですが、自社に知財と呼べるものはあまり存在せずに、縁遠いものだというご認識を持っておられる方が多いという風に感じております。
また、知財を権利化している企業におきましても、知財戦略を事業戦略の一部として捉えて、知財を十分に活用できている企業は少ないと思っております。このような中小企業やスタートアップの方々を支援して、事業を展開させていっていただきたいという想いから、日本弁理士会では知財普及と知財活用の二面から企業支援を行っているところでございます。
知財普及の方法としては、単にセミナーを行っても、知財にあまり関心のない中小企業やスタートアップ企業の方々はなかなか参加していただいてないというのが現状です。従いまして、通常の企業向けのセミナーに加えて、企業に身近な存在である金融機関、銀行、スタートアップキャピタル、そして経営指導員の方々に対して知財の研修を行って、その方を介して企業に知財を知っていただくような活動をしております。
特に、本年度は企業にとってより身近なデザインやブランディング戦略を普及させていきたいと思っているところです。また、知財活用の面におきましては、弁理士知財キャラバンという事業を行っております。知財戦略活用に長けた弁理士を企業に実際に派遣して、知財系コンサルティングを行う事業です。
これまで200社を超える企業に対して支援を行ってまいりました。支援を受けた多くの企業からは好評を得ているところでございます。そして本年度は中小企業やスタートアップ企業の知財活用をより推し進めるべく、中小企業知財戦略推進本部を会内に設立いたしました。起業家や経営者に直接声の届く方法、効果的な手段を再度模索していく必要があるという風に感じているところです。
地域の中小企業の認識は二つにわかれる
澤井さん
知財の啓発は、発明協会でも大変力を入れているかと思います。ちょうど、1921年(大正10年)より行っております、地方発明表彰も100年を迎えたところかと存じます。私も毎年の表彰式に参加させていただきまして、受賞者の皆様の本当に嬉しそうな顔が印象に残っております。発明協会の常務理事であります扇谷様のお立場から見て、地方の企業、あるいは大学における知財への認識というのはどのように映っているでしょうか?
扇谷さん
地域の中小企業の認識というのは、大きく2つに分かれるかと思います。
一方は、すでに知財の重要性に気が付いていて、特許や商標、意匠の出願をはじめ、特許情報の分析に取り組み、その特許を生かして製品を作っていくといった企業です。地方発明表彰で、特別賞を受賞されている中小企業の方というのは、こういった取り組みを積極的にされている方だと思います。この表彰を受ける企業は、同じような企業が何度も受賞されるということがありますので、重要性に気付いている人は継続的にこういった取り組みをされていると思います。
もう一方で、マインドがどうしても高くならないという中小企業の方がいらっしゃいます。理由としては、自分たちのビジネスと知財との関係がよくわかっていない、自社には特許にするような優れた技術やノウハウがないという風に思い込んでいる。さらには他の会社も自分たちと同じように知財マインドは低いものだと思っている方もいます。そして、何もせずにいたことで、いつのまにか競争に遅れを取ってしまっているといった中小企業の方がいらっしゃいます。
また、大学についても、地方の大学の研究者の中には個人的に知財に詳しい方やマインドが高い方がいらっしゃいますが、大学全体として見た場合には、知財の管理体制が十分整備されていないところがあり、特許出願にもさほど取り組んできていない大学が結構あるかという風に思っております。
米国でスタートアップ企業が育つ理由
澤井さん
皆様のお話しを聞いておりますと、やはりこの産業構造が変わっていく中での知財の役割の重要性というものを強く感じるところであります。今回、PCT出願あるいはアメリカでの特許出願、特許取得企業のベスト20を見てまいりました。半数近くのPCT出願あるいは米国特許の出願人が、50歳未満という比較的若い企業であります。そしてこの若い企業の多くは、アメリカと中国の企業でした。
一方で、PCT出願も米国特許ともにトップ50まで見ても、日本企業で50歳未満の企業はいません。なぜ若い企業はいないのか。スタートアップが育ちにくい理由がなにかあるのか。そんなことを考えざるを得ません。日々シリコンバレーでスタートアップの皆様とお付き合いのある大山さん、米国でスタートアップ企業が育つ理由はなんでしょうか?
大山さん
シリコンバレーには、スタンフォード大学やUCバークレーがあり、世界中から新しい技術や医療をもった科学者や技術者、ビジネスパーソンなどの優秀な人材が集まってくるという環境があります。そのような人たちが、スタートアップを起業をし、やがて大企業に成長してIPOをする、あるいは大企業にM&Aされる。
その過程で、また創業者や初期のメンバーがお金を持って企業の外に出て、また次のスタートアップを起業したり、投資家になったり、メンターになったりするという好循環があります。こういった人材やアイディア、お金が集まってスタートアップを育むエコシステムが形成されています。
知財の観点からは、その周辺に知財の弁護士やコンサルタントの方も集まって、スタートアップを一生懸命支援しています。実際に住んでみた実体験としては、人種の多様性というところも大きいです。
私の両隣にも、ロシアや韓国、中国の方がいたり、他にも周りに大きな夢やお金を持っている起業家が住んでいます。イーロン・マスクも大人気で、若い人がそういった起業家にあこがれているのです。日本もこういった多様性、あるいは教育の面でいうと、発言することやプログラミングなどといった長所を育む環境づくりが求められていると感じています。
中国から見た日本のスタートアップの育ちにくさ
澤井さん
中国人の孫様にお聞きします。日本でスタートアップが育ちにくいと感じることはありますか?多くの投資や世界的なデザイン賞も受けている、成功に向けまさに歩もうとしている御社にとって、何か不安などはあるものなのでしょうか?
孫さん
いくつかあります。一つ目は、そもそも日本はスタートアップを起業する人が少ないです。多くの人が、大手企業に入ったらそのままずっと大手企業に勤め続けている。そもそもスタートアップを起業する人が少ないので、母数が少ないですよね。
二つ目としては、スタートアップを起業するとしても、日本の大手企業の感覚でやってしまうと結構失敗するのではないかと思っています。やはり日本の方は、品質やクオリティに対して非常にこだわりが強く、どうしてもいいものが作りたいと作りこんでしまうのです。スタートアップは限りある資金の中で、いかに早いスピードで市場に出してフィードバックを受けて改善改良していくかが、すごく重要なことだと思っています。日本では品質やクオリティをすごく求められるので、なかなかスピード感は出ずに、どうしても遅くなってしまい、限られる資源の中で出来ないということがよくみられます。
そして、三つ目は、日本ではスタートアップがあまり尊敬されていないということです。どうしてもスタートアップだからという理由で、あまりいいものは作れないのではと思われていると感じます。中国では、スタートアップであってもすごくいいものを作ると思われているので、スタートアップのものだから買うといった、スタートアップに対する期待もあります。また、スタートアップに対してのサポートや支援も結構あります。
日本は、スタートアップに対してすごく厳しくて、スタートアップ自身も、それに答えるために苦しんでいると感じています。
Vol.3(3)へ続く↓
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