【知財イベント】WIPO日本事務所主催「世界知的所有権の日2021記念オンラインイベント」レポート Vol.6(2)~パネルディスカッション第二部『知財戦略とイノベーション、知財を武器に市場を切り拓く』~
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知財”も”協業のツール
澤井さん
このパネルの開催に向けて、大学のオープンイノベーションを研究している教授やあるいは、弁護士の方や企業の知財部の責任者、企業内の弁理士の方、またスタートアップに務められている方などにもお話しを聞きながら、皆様への関心事項というのをまとめたところです。その中で、知財こそが協業のためのツールであるという意見や、大学においては尚更そうだ、という言葉をいただきました。大学発スタートアップの知財担当として、ガニングさんはこうした言葉についてどう思われるでしょうか。
ガニングさん
知財こそが協業のツールということについてなのですが、個人的には知財”も”協業のツールなのではないかなという風に思っております。先ほどの西口様の話にもありましたように、知財、つまりインベンションがあってすぐに上市ができる、事業になるというわけではありません。それはスタートアップ、大学発のスタートアップであっても同じことで、実際に我々の事業がどういう風に、どこといつ協業をしたら本当にニーズを捕まえて上市できるのかというところから、知財としては逆算をして知財戦略を立てる必要があるという風に考えています。そういう意味では、協業も含めてすべて事業戦略の一つのツールという認識でおります。
また、大学が技術のハブというところですが、技術だけではなくて人のハブとしても大変期待をしております。教育という面ではやはり中立の立場なのですよね。それを活用して、国内外でたくさんの人材交流がされていると思うのですが、弊社でも国籍を問わず同じ大学の卒業生が参画してくださっていて、そういうところからも恩恵を受けているなと思います。ただ、知財の面から言いますと、大学も必ずしも中立であるわけではなくて、やはり収益や利益を追及する側面もあるなという風に感じています。やはりスタートアップの知財部は、大学との共有にかかる知財の処遇については非常に頭を悩ますこともあると思いますが、個人的にはせっかく共有に係る知財を持っているというところで協力して、例えばスタートアップが自分たちだけでは活用しきれない知財をさらに大学の力も借りて広げていけたらいいのではないかなという風に感じることがあります。
お互いにオールマイティカードを持ちながら、自分の固有のカードも持っているというのが理想的
澤井さん
勉強会の中で大学の先生が言うには、特に制度調和を進めてきた知的財産、特許制度というのは協業に有効なんだというような意見ももらいました。『競争』と『共創』、それを長く唱えられてきた長澤様いかがでしょうか?
長澤さん
例えば、最近だとテキサスの寒波から始まって、半導体の不足が非常に深刻になりました。ルネサスや旭化成の火事の影響からも、半導体が不足するとビジネスが激しく止まってしまうということは実証済みです。もし大昔にあったキルビー特許(※1)などが現代にあったとして、差し止め請求権を駆使されると、すべての産業が止まってしまうと思います。それと同じように、クラウドやサイバーシステムの基本的な特許、ユーザーインターフェース、昨今では移動体通信の基本特許(SEP)といわれているものは、差し止め請求権には基本的には馴染まないと思うのです。ただ、そうは言っても、それを完全に無視している人も許せないというところがあって、非常に微妙なところではありますが、それ以外の自分たちが一生懸命考えて投資をして作り上げた技術というのは、特許権が強くないと技術開発の共創を後押しすることができなくなります。その二つを上手く切り分けていただきたいのですが、法律上は非常に難しい問題があるという風に聞いております。そういう意味では、独自開発による新規デバイスや材料、薬品などの特許で強く行使をしながら、いわゆる協調領域にある特許はお互いに持っていてアライアンスに使っていくというような使い方になっていくのではないかと考えています。お互いにオールマイティカードを持っていながら、自分の固有のカードも持っているというのが理想的であろうという風に思います。
(※1)富士通株式会社とテキサス・インスツルメント社が争った、半導体集積回路の基本特許に関する訴訟
本棚にない本を探す
澤井さん
一方経営という視点から考えますと、経産省の調査では、アライアンス構築力やIT活用、国際標準化戦略などと並んで、知的財産戦略に強みを感じている日本企業というのは、中小企業、大企業問わず少なく、統計によりますと、ほぼ皆無であるとの結果がございました。なぜ日本企業は、知財戦略をはじめ、こうした戦略に強みを感じていないのか。国内外の多くの経営層の方々とも懇意にされている西口様、この点どうお考えでしょうか?
西口さん
知財戦略が経営戦略の根幹に位置付けられているのか、それとも経営戦略の脇にあるものなのかというのが非常に重要なポイントだと思います。新しい知識を生み出しただけではだめで、それが社会に実装されて何らかの価値に変わっていく、これがイノベーションのプロセスの本質でありますので、そこで知財を攻めの知財とする、守りの知財とするかを考える。
例えば中国というのは、世界中の知財を先に見たうえで、ない知財は何かと考えるあたりからものを考え始めるのです。このあたりは非常によくできてるなと思います。ISO56005を作るプロセスで中国の皆さんとずいぶん議論しましたが、最初は話がかみ合いませんでした。IPスカウティングやIPスキャニングなどと言っておられて、なにか価値の話をする前に、世の中に何があるかを先に見て、あるものをやるのではなく、ないものを最初から探す、という考えがあるようです。
元経産省の西山 圭太さんが最近出された本で、本棚にない本を探すという言い方をされていますけれども、まさに本棚に何があるかを見て、次にないものは何かと見る、そしてその本を作っていこうと考える。こういうのがどうも強みなので、あるものを知るだけでは足りなくて、ないものを知ってさらにそこに作りにいくという発想が、グローバルに勝っている人たち、あるいは勝とうとしている人たちの割と基本構造のように私には見えています。
Vol.6(3)へ続く↓
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