ブラウンオーシャンのトップランナーへ。「病気ゼロ社会」の実現を目指す大学発スタートアップを支える知財戦略とは #1
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腸内環境の改善で「病気ゼロ社会」へ—。
株式会社メタジェンは腸内環境のコントロールによって病気をなくすことを目指して研究開発を行っており、その実現のために知財の活用を精力的に行っています。2019年には、特許庁が主催する知財アクセラレーションプログラム「IPAS2019」の第一期支援先にも選定されています。
今回の記事では、メタジェンが知財戦略に力を入れるようになった経緯や、知財担当を置いた事で生じた社内の変化など、知財・法務担当の村上 慎之介さんよりお話を伺います。
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ブラウンオーシャンのトップランナーへ。「病気ゼロ社会」の実現を目指す大学発スタートアップを支える知財戦略とは #2
ー株式会社メタジェンの現在の事業内容について教えてください。
私たちは創業当時から変わらず「最先端科学で病気ゼロを実現する」を理念としています。病気をなくすという会社全体のビジョンがあり、その手段として現在は一番に取り組むべき課題であると考えている腸内環境の研究をしています。私たちが力を入れているのは予防医療です。極論を言えば、いかに良い薬があってもそもそも病気にならなければ薬は不要で、病気をしない健康な状態をどうすれば維持できるかに力を入れて研究を進めています。
腸内環境に関する研究はここ5~10年の間に世界中で盛んに行われ、腸内環境と関係する病気が色々と解ってきました。大腸の病気はもちろん、脳や肝臓、生活習慣病のようなものまで、様々な疾患の発症や悪化に腸内細菌がひとつのピースとして関わっている可能性が明らかになってきたのです。
腸内環境をよい状態でキープするとか、悪くなりかけているところを検出し、良好な状態に戻すといったことが簡単にできるようになれば、多くの病気の予防や、健康維持に繋がると考えています。そのような技術開発を様々な形で進めていき、将来的には個人の腸内環境に合わせて最適な食べ物をご案内するプラットフォームを作っていきたいと考えております。
ー事業戦略を考える上でいつから知財を意識していましたか?
メタジェンは大学にポストを持つメンバーによって創業されました。設立から6年経った今も、役員陣は全員博士号を持っている研究者で、多くが博士号や修士号を持つ社員で構成されています。大学で研究をしていると、どうしても知財は大学の知財部に任せきりになってしまいます。私自身も大学に身をおいている間は、特許のイメージというと、研究で良い成果が出れば発明届を出し、それが勝手に特許になっていくというものでした。知財をビジネスで使うという考え方も無いし、発見した内容がビジネスに活きる権利範囲を担っているかどうかなど、そのような面には全く無頓着でした。
メタジェン創業から2年ほど経った頃、私は法務や知財を担当することになりました。全く知財に関する知識が無い中で契約書や明細書をチェックしていると、「何を基準にOKとすればよいのか?」「この請求項でうちのビジネスをしっかり守れているのか?」という、「判断の軸」を持ち合わせていないことに気が付きました。そのような事がキッカケで、知財をもっとメタジェンのビジネスに活かしていきたいと考え、自ら積極的に知財戦略について勉強するようになりました。
ー知財担当である村上さんの現在の業務内容を教えてください。
現状、知財部分のほとんどを私がハンドリングしています。商標や特許の出願をはじめ、権利範囲を考えたり審査対応もしています。知財担当になる前は、特許の書類は弁理士の先生が書いて出してくれるものというイメージで、自分の身近にあるものという感覚はありませんでした。明細書を書くにしても表現が独特で慣れないことも多々あり、最初は少し苦労しました。今は基本的に知財に関する全てのことをやっていて、管理や明細書のチェック、自分で判断がつかないことの相談などは顧問事務所や業務委託の弁理士など、外部機能も活用しています。
ー外部機能を活用するメリットはありますか?
社内に弁理士などの法務や知財の専門性が高い人材を採用して、なおかつ雇用を維持していくことは、スタートアップにとってはどうしても難しく、優先順位を上げにくいと思います。どうしても目の前のマネタイズ部分、弊社であれば実験ができる人や営業ができる人の優先順位を高くしなければなりません。例えばVCから資金調達を受け、目指すべきゴールも明確でいかにそこに早く到達できるかというスタートアップであれば専門の人を雇うこともあると思いますが、弊社はそのようなスタイルとは少し違うので、信頼できる外部の方に依頼させていただくというスタイルを取っています。限られた知財予算の中でも、質の高い知財対応をできるのが、外部機能を活用するメリットの一つと考えています。ただ、このような場合でも、外部の専門家の方と、共通言語でコミュニケーションが取れる程度に、社内にいる知財担当のレベルアップは求められると思います。
ー社内に知財担当をおいたことによる変化はありましたか?
社内に知財担当がいなければ、特許を出願するのも管理するのも、全てが外部の弁理士の先生任せになってしまいます。まずは自分たちで知財をどう使っていくかを考える事が重要です。知財の目線を持った上で、会社の研究開発や事業開発をしっかりと理解し、外部の専門家の方に「どうしたいのか」を伝えられる人材が必要だと感じています。
また、特許が権利化されたときや、商標を出願した際には、社内で発信をするようにしています。発信することで「これはうちの権利だ」と社員が意識してくれるようになったり、広報担当が商標の使い方をまとめてくれるなど、社内での特許の扱い方が変わってきたと感じます。私たちは、食品メーカーと一緒に共同研究開発をするビジネスも多いですが、取引先の食品会社がどういう特許を持っているのかを営業担当が調べたりもしています。知財担当を置いたことで、様々な面で知財に対する社内の意識に変化が出てきたと感じています。
ー村上さんご自身は知財をどのようなイメージで捉えていますか?
今は会社を支えるとても重要なものだと思っています。テクノロジースタートアップのコアである「テクノロジー」の部分を支えて守る、会社の根幹となるものが知財だと考えています。知財は、重要性や活用方法を理解すれば、テクノロジーという武器を効果的にパワーアップできる有効なアイテムになると思います。
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株式会社メタジェン 代表取締役社長CEO 福田 真嗣氏が企画・執筆を手がけています。
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