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未来の技術を育てたい——元銀行員の知財パーソンがスタートアップに道を開いた理由とは #2

インタビュー

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大学時代は法学部で知財法を専攻し、卒業後は日本政策投資銀行に入社。
その後スタートアップの世界に足を踏み入れた宮崎さん。

銀行員時代は融資や経営サポートを通して、スタートアップをはじめとする数々の企業を支える側で活躍していた宮崎さんが何故スタートアップの道へ進むことを決めたのか。

取締役副社長を務める株式会社レストアビジョンの事業内容や知財戦略の進め方とともに、宮崎さんがスタートアップで実現したい目標などをお伺いしていきます。

 

未来の技術を育てたい——元銀行員の知財パーソンがスタートアップに道を開いた理由とは #1

 

ー宮崎さんがスタートアップの世界に飛び込んだきっかけを教えてください。

私は法学部出身ですが、もともとサイエンスが好きで、研究者と一緒に科学技術を事業化し社会に貢献していくことができないかと考え、知財法を専攻していました。当時は、科学研究費用が削減される中で、日本が国際競争力を失ってしまうのではないかという問題意識があり、経済を回す潤滑油として金融の知識が欲しいと感じ、新卒で銀行に入社しました。私が勤めていた日本政策投資銀行はプロジェクトファイナンスといった金融手法をいち早く日本で手掛けたり、知財担保融資、環境格付融資など新しい金融手法を開発するなど、我が国における金融のラボ的な役割を担う政府系金融機関であったことを魅力に感じ、志望しました。

銀行員時代は、融資や経営サポートというかたちで主に自動車産業をはじめとする大企業の支援をしていましたが、銀行は前例が無い領域にお金を出すハードルが非常に高い。返ってくる見込みが無いとお金を貸せないそもそもの金融庁の方針がありますが、その「返ってくる見込み」は前例があるかどうかに依拠しがちです。金融市場は金あまりが続くなか、革新的で新しい技術には前例が無いから融資もできず、投資も厳しい。それならば自分が反対側に行き、当事者(プレイヤー)の立場で前例のn数をつくっていけば良いのではないかと思い、スタートアップにキャリアを変えました。

 

ー銀行を退職されて「垂直軸型マグナス風力発電機」を独自開発する株式会社チャレナジーを共同創業されたのですよね。

チャレナジー時代は開発以外ほぼすべての業務担当していました。よく「CFOですか?」と聞かれて「CZO(チーム雑務オフィサー)です!」なんて冗談で言っていましたが、それくらい、資金調達、大企業とのコーポレートアライアンス、知財関連など何でもしていました。また、チャレナジーの取締役退任後に、財務担当を務めさせていただいた京都大学発の化学素材ベンチャー・ティエムファクトリでは、ファイナンスのほかに、発明制度の見直しや、発明委員会の組織の運用やファシリテーションを務めさせていただくなど、結果として特許に深く携わりました。その後、昨年春より現在の会社である株式会社レストアビジョンという慶應大学医学部発ベンチャーの取締役副社長を務めています。

 

ー銀行時代とスタートアップに入ってからでは、心境に変化はありましたか?

間違いなく大きく変わったのはオーナーシップの差です。大企業の場合は、何か重要な仕事を自分ができなかったとしても、人員の部分であったり、失敗してしまった時でも組織がカバーしてくれる面があります。スタートアップはそれが難しく、自分が動かなければ会社が終わってしまいます。試作品の納期や助成金の締め切りが近づけば夜を徹して作業することなどは日常茶飯事です。自らの一挙一動が会社の命運を左右するというプレッシャーを常に意識して業務に取り組んでいます。「大変なぶん、やり甲斐を感じるか?」と問われれば、もちろん開発目標が達成できた瞬間や資金調達が決まったときなどやり甲斐を感じることも少なくありませんが、そういうイベントは一時のもので、開発目標の達成に向けて業務をコツコツと積み上げていくのが私の日常です。ひとつひとつの開発の進捗が自分の業務として把握でき、会社が成長するプロセスを体感できる点は、魅力的に感じています。そうした経験を通じて、自分自身の夢の実現に近づくために現在もスタートアップで仕事をしています。

 

ー宮崎さんの今後の目標を教えてください。

まずはレストアビジョンの経営者として、世界中の患者に迅速且つ確実に治療薬を届けたい。そのために、いち早くヒトでのPoCを取得し、大学や製薬会社などとパートナーシップを組んで治療薬を開発上市させるというミッションに注力します。

そのミッションが実現できた後になりますので時期はわかりませんが、我が国のイノベーションエコシステムの形成やその発展に貢献していきたいと考えています。研究開発型やDeep techと言われる領域のなかで、バイオ・ライフサイエンス分野は世界的にみてエコシステムの形成が進んでいるとみていますが、米国の西海岸やボストンといった先進地域と比べて日本はかなりの後れをとっていると、レストアビジョンでの仕事を通じて実感しています。有識者に話を聞くと、潤沢な開発資金が確保されているなら開発環境は間違いなく海外を選択する。なぜなら、日本よりもはるかに早く、確実に開発が進められるからです。このままでは、どんなに優れた科学技術が生み出されても、基礎研究から開発にシフトする過程ですぐに海外へと飛び立っていき、どんどん外貨が流出していってしまいます。

こうした懸念を払拭するには、エコシステムを形成するヒト・モノ・カネのリソースをあらゆる方法で整備していく必要がありますが、私自身、数社でプレイヤーとしてスタートアップの経営に携わってきた身としては、ヒトがポイントだと考えています。科学技術を生み出す研究者はもちろん、それを事業化していく経営人材など、成功も失敗も含めて1度ならず2度、3度と科学技術の事業化にチャレンジし、そうした人材が還流するなかでイノベーションが加速していくような機会を創出していきたいです。もちろん、私自身、生涯プレイヤーとして事業に携わっていきたいと考えています。

 

未来の技術を育てたい——元銀行員の知財パーソンがスタートアップに道を開いた理由とは #1

 



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