【知財イベント】『IPAS2020 Demo Day 成果発表会 レポート〜Vol.8 株式会社Jij メンタリングチームとの座談会』
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特許庁主導の、スタートアップの成長を事業と知財の両面で加速させる知財アクセラレーションプログラム「IPAS2020」の成果発表会「Demo Day」が3月にオンライン開催され、2020年度支援先企業がIPAS2020を通して得られた成果を発表しました。
IPAS2020では、応募総数113社の中からビジネスの将来性や知財支援の必要性等の観点で選ばれた15社に対し、特許庁より選出された知財専門家らが約5ヶ月間のメンタリングを行いました。
本記事では、株式会社Jijの、IPASメンタリングチームとの座談会の様子をお届けします。
Vol.7 株式会社Jij 成果発表ピッチはこちら↓
【知財イベント】『IPAS2020 Demo Day 成果発表会 レポート〜Vol.7 株式会社Jij 成果発表ピッチ』
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Vol.8 IPASメンタリングチームとの座談会
【モデレーター】
櫻井 昭喜 氏(特許庁総務部企画調査課 工業所有権調査員)
【知財メンター】
内田 誠 氏(iCraft法律事務所 代表弁護士 弁理士・弁理士)
【ビジネスメンター】
世古 圭 氏(株式会社Coral Capital シニアアソシエイト)
【メンター補佐】
松下 外 氏(渥美坂井法律事務所 ・外国法共同事業 オブ・カウンセル 弁護士・米国弁護士)
各メンターと山城社長の経歴
櫻井氏
まずは皆さま一言ずつ、自己紹介をしていただければと思います。
山城氏
僕らは量子アニーリングという技術で研究開発をしているスタートアップです。今日は研究内容ではなく、それらに関する知財のお話ができればと思います。
内田氏
私は知財戦略の構築やAI技術を用いるシステム関連の契約書、データプラットフォームの構築やそれに関する個人情報保護法などをよく担当させていただいております。今回はメンターの皆さんと連携して、Jijさんの知財戦略を構築させていただきました。
世古氏
私の所属するキャピタルはシードのVCでして、毎月400~500社の投資のリードや投資後の資金調達などを見させていただいております。
松下氏
私も取り扱い分野としては内田先生と近いところがありまして、AI、データ、個人情報、システム関連の契約書などをよく担当させていただいております。
知財メンタリングはどのように進んだのか
櫻井氏
それでは本題に移りますが、まず初めに、メンタリングはどのように進んだのでしょうか?
内田氏
今回どのような流れで知財戦略を構築していったのかをお話させていただければと思います。まずIPASを始める前に、担当するスタートアップ側から事前資料が送られてきます。その資料を拝見させていただいた上で、初回メンタリングでは資料では解らなかったビジネスモデルの詳細な部分や、抱えている課題についてヒアリングさせていただきました。
私の認識では、当時のJijさんには大きく3つの課題がありました。1点目は他社の出願動向が把握できていない、2点目は出願はしているもののどこをノウハウ秘匿するかの検討が不十分、3点目は「Jij Cloud」というサービスの契約規約が把握できていませんでした。この3つの課題を抽出し、IPASの中で対応していこうとメンター陣で話し合いました。
まずは競合他社の分析を元に国内の特許を130件ほどピックアップさせていただき、その中から重要そうな特許をJijさんと分析しました。その結果、競合他社の特許権を踏んでいないことを把握しました。国内の文献中心でしたので、海外文献も調査会社に依頼しピックアップいただきました。いきなり全てを調査すると膨大な数になるので、一部をサンプリング調査し関連性の高いものをABCでランク付けして、Aにあたる技術からキーワードを抽出して、それに基づいて残りの部分もスクリーニングをかけて引っかかった数十件がどのようなものかをJijさんと把握しました。このような先行技術調査を踏まえると、Jijさんのどこが他社より優れていて、どこがまだ他社に取られていないのかが見えてくるので、それを踏まえてもう一度Jijiさんのビジネスモデル内容をヒアリングし、2つほど発明を発掘しました。
その2つも単純に出願するのではなく、優先権主張による出願で対応できることがわかり、既存の出願に補助する形で出願しました。契約の部分は私がドラフトを作成し、松下先生にもご確認いただきながら、ソフトウェアライセンス規約と、「Jij Cloud」の利用規約を作らさせていただきました。
基本的にデータの保護は知財では難しく、契約で保護しなければなりません。契約書は「Jij Cloud」の中で、Jijさんが取得したデータをいかに契約で守るかを重視し作成させていただきました。今回のIPASが終わった後も、きちんと自走して特許を取得できるスキームを組んで行かなければならないので、社内体制の構築についてアドバイスをさせていただき、半年間のIPASが終わりました。
櫻井氏
今の話を受けて、山城さんはいかがでしょうか。
山城氏
IPASでは利用規約や契約書などのモノとしての成果が多くあり、また知財に対する社内文化の形成という副次的な効果もありました。IPAS後は毎回、IPASの成果を社内に共有することで、会社の知財意識の高まりにつながりました。メンターの皆さんには、技術を初めの段階でしっかり理解していただき、着実に成果を積み上げていくという流れがとても良かったのかなと思っています。
ビジネスメンタリングはどのように進んだのか
櫻井氏
続いてビジネス面のお話を世古さん、お願いします。
世古氏
キックオフの部分は知財と同じで、Jijさんからいただいた事前資料からいくつかの問題をピックアップさせていただきました。通常、ビジネスメンタリングは資金調達の話、組織体制、事業開発の話になると思います。ですが、Jijさんは資金調達についてはまだ十分なキャッシュがあり、組織面では「10人の壁」という話がありますが、Jijさんはそこも既に乗り越えていて、お話をする中で今回は「事業開発」に注力した方が良いと感じました。
具体的には、「Jij Cloud」の仕組みはビジネス側で理解するのが難しく、そもそも量子アーニングの知識が無い事業会社などに対してもサービスをプレゼンしなくてはなりません。そのため、ソフトウェアとミドルウェアの両輪をどのように取っていくのかという議論をしました。ミドルウェアの「Jij Cloud」は、株式会社Jijの核にはなるものの、ソフトウェアでユースケースを作ることも重要で、この2つをミックスさせるために、ソフトウェア側の事業会社をJijさんにご紹介させていただきました。Jijさんは私が手取り足取り教えるという必要はなく、しっかり自分たちが注力すべきことを把握していたので、援護射撃をするような感覚で支援させていただきました。
櫻井氏
今のお話を受けて、山城さんからお願いします。
山城氏
僕らは創業して2年くらいの時期にIPASに参加したのですが、基本的には企業との共同開発が多く、ほとんどが向こう側からアクセスして来てくれるパターンが多かったのです。向こうが自分たちの技術を理解してくれている段階からビジネスの話が始まっていたので、企業との技術的なコミュニケーションについては検討しないまま過ごしてしまっていました。「Jij Cloud」というミドルウェアを開発しても、そもそもソフトウェアとして多くの方に利用してもらわなければ、我々が目指している社会課題の解決に進めないとIPASで理解しました。
IPAS後に、我々の顧客になり得る可能性があるけれど、量子アーニングの技術を知らない企業に向けて、プレゼンをする機会がありました。IPASでの気づきや反省を踏まえてビジネスコミュニケーションを取った結果、「技術は知らなかったけれどまずはトライしてみたい」と仰ってくださる企業が増え、IPASの成果がその後の影響に大きく紐づいていると感じます。
半年のメンタリング期間のスケジュール
櫻井氏
メンタリング期間全体を経て、リーダーの内田先生、いかがでしたでしょうか?
内田氏
うまくいったなと感じています。その要因は、Jijさんの課題を半年間のメンタリング期間にどう解決していくかのスケジュールを組めたことが大きいと感じます。具体的に申し上げると、事前にいただいた資料と初回のヒアリングを通じて課題をピックアップし、先行技術調査と、発明の発掘、契約書の規約をどうにかしようとなりました。それらの課題を踏まえて初回会議の際に半年間のスケジュールを組み、それぞれの打ち合わせの際に何をどう進めていくかを決めました。メンター同士もたくさんコミュニケーションを取っていましたし、何よりJijさんがきちんと宿題をこなしてくれたので、スケジュールをスムーズに進めることができました。
櫻井氏
今の話を受けて、山城さんからお願いします。
山城氏
半年間の流れを内田先生がバシバシと決めてくれて、それにハマるように宿題をこなしてスムーズにスケジュールが進んだのが良かったと思います。また知財メンターの皆さんのバックグラウンドが理系で、僕たちの技術の深いところまで理解してくれていたので、それがコミュニケーションのロスをなくすことに繋がったのだと思います。Jijとしては代表だけがメンタリングに参加するのではなく、CTOなど複数名が必ず参加することで、社内全体でIPASの成果を浸透させることができました。宿題は社内の各メンバーに振り分けて、会社全体でタスクをこなしたのも良かったと思います。今後もIPASに参加するスタートアップは「社内全体で」IPASに参加するという意識を持つことは非常に大切だと感じました。
「技術」の話からメンタリングが始まった
櫻井氏
スタート前のIPASのイメージとどのような違いがありましたでしょうか?
山城氏
僕らの勝手なイメージで、「特許庁」のお堅い方が出てきて僕らの技術を判断し、出願時の文章の構成などを話すのかと思っていました。ですが実際は「技術」の話から入ったことが驚きでした。僕らの技術の内容をメンターの方が一度持ち帰り、深い部分まで理解した上で知財戦略の話に移ったのが、僕の想像と大きく違うところでした。
櫻井氏
今回、メンター補佐として参加された松下さんは、スタートアップ支援のご経験は少ないとのことでしたが、今回ご参加いただいていかがでしたか?
松下氏
今回、私がなぜ参加したかというと、法律事務所に勤務しているとどうしてもクライアントを「待つ」ことが多く、また知財戦略も、ある程度できあがったものが来ることが多いです。しかしスタートアップ支援の場合は「そもそも知財戦略とは?」という話からのスタートになるため、発明の発掘の段階から拝見したいと思い、参加させていただきました。
結果として大成功で、勉強になった点は3つあります。1つはビジネスのコアは何か?を両先生が重要視しており、知財はビジネスを守るためにあるのだと、知財の役割を体感することができました。2つめは、知財に詳しくないスタートアップの方が消化不良にならないよう、スケジュール管理をして情報を出していくという進め方も非常に勉強になりました。3つめは、IPAS後もスタートアップがきちんと自走できるようにすることが重要で、ここを両先生が重要視されていたのは、専門家のあり方として非常に勉強になりました。
「知財」と「契約」
櫻井氏
スタートアップの皆さんは契約に関するトラブルが多いように感じます。スタートアップは大企業と連携したり共同開発することが多いですが、内田先生はスタートアップの知財と契約に関してどのようにお考えでしょうか?
内田氏
両方が大事ですね。まず特許出願して自社の技術を守ることは大切で、そのために発掘をしますが、共同開発になると、特許を受ける権利が自社に帰属していない場合は契約の話、特許権が相手方にある場合はライセンスの話になります。出願戦略と契約は裏腹の関係にあると考えています。契約は弁護士、特許は弁理士が詳しいので、私はスタートアップ支援は弁護士と弁理士が一緒にやるのが理想的だと考えています。
櫻井氏
それでは最後に、IPAS支援を受けた後の意気込みをお願いします。
山城氏
今回のIPASでは、利用規約などの直接的な効果を得ることができたので、来年は「Jij Cloud」を多くの方に届けていきたいです。また、社内の知財意識も高めることができました。今後も知財ベースで技術を育てる、研究開発スタートアップになっていきたいです。
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