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【知財イベント】完全オンライン型展示会「すごい知財サービスEXPO2021」セミナーレポートVol.8(#1)米国企業の研究から分かった強力な特許を取るための戦略~効果的な2つのフレームワーク~

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Vol.8(#2)②「プロアクティブ特許出願メソッド」についてはこちら↓

【知財イベント】完全オンライン型展示会「すごい知財サービスEXPO2021」セミナーレポートVol.8(#2)米国企業の研究から分かった強力な特許を取るための戦略~効果的な2つのフレームワーク~

 

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ウィルフォート国際特許事務所
所長 弁理士 上村 輝之さん

 

今回は、米国企業が使っている特許戦略のフレームワーク、つまり特許活動の枠組みを2つご紹介します。

世界で特許権の取得と活用が最も優れている企業が多いのが米国です。特許訴訟の数は日本の10倍以上、莫大な資金が特許から生み出されています。米国の企業がどのような戦略を用いて特許を管理しているのか、ということを知るのは私たちにとって非常に有益でしょう。

しかし日本国内でこのような情報を集めるのは困難です。

そこで私たちはアメリカで出版されている特許戦略に関する文献を研究し、米国企業が保有する特許を分析しました。

さらに、アメリカで技術開発や特許取得を行っている会社とビジネスパートナーとなり活動するなかで、米国企業の動向も探ってきました。

これらの研究・分析によって明らかになったことを、これからお話します。

どなたでも簡単にわかるフレームワークですが、実際に活用するととても効果的で、知っているか否かで大きな差が出てくるはずです。

ぜひ最後までお聞きください。

 

こんな悩みを持っていませんか?

 

皆さんは、「特許があるのに模倣された」「特許が収益を生み出さない」「他社特許に遮られ開発が頓挫した」などの悩みを持っていませんでしょうか?

実はこれらは、特許を取得している企業の多くが共通して抱えている悩みなのです。

もし、これらの悩みを解決する方法があるなら知りたい、と思いませんか?

さらにそれが簡単にできる方法だったら、なおさら知りたいと思うのではないでしょうか。

では、これから順に解決策を説明していきます。

特許のスキルが高い米国の企業を研究する中で分かってきたのが、「トリプレックス特許ポートフォリオ」と、「プロアクティブ特許出願メソッド」の二つのフレームワークを用いたやり方です。

 

①「トリプレックス特許ポートフォリオ」

 

まず、「トリプレックス特許ポートフォリオ」からご説明いたします。

「トリプレックス」とは3階建てという意味です。「ポートフォリオ」は投資の世界から生まれた概念です。資金を複数の銘柄に分散して投資したとき、その多数の銘柄の集まりのことを「ポートフォリオ」と言います。一つの銘柄に集中するよりも、多数の銘柄に分散して投資するほうがリスクが小さくできるため、より確実にリターンを得られるわけです。

特許も同様のことが言えます。一つの特許にこだわりすぎていると、他の企業にかいくぐられたり模倣されたりする可能性が生じるからです。

そこで、相互に弱みを補完しあうような関係にある多数の特許を持つことが大切です。リスクを小さくし、特許から多くのリターンを得る効果も期待できます。

このような相互に補完する多数の特許の集まりのことを「特許ポートフォリオ」と呼びます。

「トリプレックス特許ポートフォリオ」は、「特許ポートフォリオ」を三段階に積み上げている状態で、図にするとこのようになります。

 

 

1階が「防御ポートフォリオ」、2階が「収益ポートフォリオ」、3階が「未来ポートフォリオ」というように目的や役割の異なる3種類の特許ポートフォリオから作られています。

まず、「防御ポートフォリオ」については、自社製品を防御する、つまり競合他社によって模倣されないように防御することを目的としています。よって、防御ポートフォリオの特許は自社の製品技術をカバーする発想から生まれているといえるのです。

次に、「収益ポートフォリオ」については、特許から直接収益を得ることが目的です。収益ポートフォリオは、特許ポートフォリオ自体が自社の製品となるように扱います。これは、ライセンスや販売など、競合他社との取引対象になりうるということです。つまり、自社製品よりも競合他社に向けた発明から構成されます。具体的には、競合他社が「使いたい」と思うような発明を自社で代わりに発明し、特許にし、競合他社に対して利用を促して代金を支払ってもらうという流れです。

最後に、「未来ポートフォリオについて」は、自社や他社が進出していない新しい未来の領域の発明を、先回りして取りに行くことをいいます。未来ポートフォリオの特許は、将来有望な領域をカバーする発明から生まれるものを指すということです。

以上3種類の特許ポートフォリオを先ほどご紹介した悩みにあてはめて考えてみましょう。

1つ目の「特許があるのに模倣された」というケースは、防御ポートフォリオが弱いため発生します。解決策としては、防御ポートフォリオをしっかりと作っていくことをお勧めします。

2つ目の「特許が収益を生み出さない」というケースは、収益ポートフォリオがない、もしくは弱いことが要因と考えられます。ですので、特許から収益を得たいのであれば、収益ポートフォリオを作る必要があります。

3つ目の「他社特許にさえぎられ開発が頓挫した」というケースは、他社に未来ポートフォリオを先取りされたことを指します。今後は自社でいち早く未来ポートフォリオを作ることが重要です。

このように「トリプレックス特許ポートフォリオ」は、特許の悩みを解消し、特許から大きなリターンを得るための土台となる考え方なのです。

このポートフォリオの構造をより理解していただくために、具体的なイメージをいくつかご紹介します。

 

 

例えば、自社の製品開発のルートを緑のラインにしたがって進んできたとしましょう。

その過程で開発者や設計者から発明提案をしていくと、次の図のように自社製品をカバーする特許が取れていきます。

 


これが「防御ポートフォリオ」のイメージです。

完璧な防御ポートフォリオを構築した場合は、次の図で示したように自社製品の両側に途切れのない防御の壁が形成されます。

 


競合他社が製品を出したり特許を取得しようとしたりしても、防御の壁の内側に入ることはできず自社製品の領域まで浸食されないということです。

 


しかし、防御ポートフォリオに隙間があった場合は、他社が自社製品を模倣する可能性が生じます。

つまり、ライバル企業が自社特許を迂回して自社製品と同等の製品を作ってしまうということです。

このような事態を避けるため、防御ポートフォリオを作る際には他社の模倣、つまり「他社が自社の特許をどのように迂回してくるのか」という迂回方法を予測することが重要です。阻止するために、自社の発明の拡張や改良を行い防御ポートフォリオに隙間がないよう特許を取っていきましょう。

次に「収益ポートフォリオ」のイメージについて説明します。

図を見るとわかるように、収益ポートフォリオは他社製品をカバーするように作っていきます。

 


つまり他社の製品や発明を改良する、もしくは迂回した発明を考え出して特許を取っていくということです。

競合他社が自社の特許を使いたい、売ってほしいということを狙います。

しかし多くのメーカー企業にとって、収益ポートフォリオに取り組むのはハードルが高いかもしれません。自社の製品開発の領域を超えて他社の領域に乗り込んでいくような行為なので、そう感じるのも無理ありません。

伝統的なものづくりという観点からみれば、収益ポートフォリオの考え方は邪道だと受け取られるでしょう。

ところが特許を取り扱う立場からみると、収益ポートフォリオは非常に画期的だと感じるのではないでしょうか?

特許が製品の付属品ではなく、もはや特許そのものが自社の製品になるからです。

現に移動体通信の巨人であるアメリカのクアルコム社のように、製造業をやめてもっぱら収益ポートフォリオを作り、特許で利益を得ている知財専門企業が海外では増えてきています。

日本国内にも何社かあります。それから大学もあてはまります。東京大学では2000年以降、特許ライセンスによる収益が110億円に到達したそうです。

ちなみに東京大学のライセンスを使いたいと申し出るのは、日本国内の企業ではなくアメリカの企業が多いのだそうです。アメリカ企業に対して、東京大学が持ちうるすべての特許ライセンスを貸し出した場合は、今の3倍ほどの収益が得られる予想も出ているといいます。

このように、製造業においては製品を作る「物的な生産工程」と、発明や技術を作る「知的な生産工程」とを区別するようになってきています。

「物的な生産工程」を専門とする企業と、「知的な生産工程」を専門とする企業とに分かれてきているという産業構造の進化のトレンドということです。

また「物的な生産工程」と「知的な生産工程」に分かれて特化した企業は、それぞれの専門性を高めてきていることも特徴です。そして、それぞれの企業が敵ではなく仲間として上手につながっていくのが主流となってきているのです。かつてメーカーは生産だけではなく流通や販売も自前でやっていましたが、今は流通や販売は別の専門会社に委託しています。これと同じで、「物的な生産工程」と「知的な生産工程」という専門分野への特化がますます進んでいるわけです。

いわゆる製造業のファブレス化というのも進んでいますが、これもこのトレンドの一環と言ってよいでしょう。今や自社工場を持たないファブレス企業のほうが、自社工場を持つメーカーよりも一般に業績が良いですよね。

こうしたトレンドは世界全体で流れていることを十分に認識し、将来を見ていくことが重要です。

皆さんの会社でも、近い将来「物的な生産工程」と「知的な生産工程」のどちらかを選択しなければいけないときがくるかもしれません。

それでは、最後に「未来ポートフォリオ」についてご説明します。

 


未来ポートフォリオは、上の図で示したように未来の商品やビジネスに目を向けていくことで作ることができます。

これから製品や技術をどのように発展させていけばいいのか、ということを検討し、将来像を描き出し、それを実現するための開発をする中で特許を取っていくのです。

どれくらい先のことを想定すればいいかというと、ざっくり5~10年です。特許の存続期間は20年間なので、だいたい10年前後の将来を考えるのが望ましいでしょう。

未来ポートフォリオの良いところは、抽象的でコンセプト的な発明でも特許が取れる可能性があることだと思います。未来に向けて特許を取ろうとしており、誰も手をつけていない領域だからこそできるのです。

広い権利範囲がカバーできるので、将来有力な防御ポートフォリオや収益ポートフォリオになりうる可能性があるのも利点です。

予測できない未来に対して特許を取っていくことは不可能、無駄、という方も多くいらっしゃいます。しかし、真剣に取り組めば実現可能です。必要なテクニックや手法はすでに存在しているので、活用することをおすすめします。

約10年くらい前に、私たちはある情報処理機器のメーカーで次世代事業を担う新しい情報処理システムを考えまして、特許を取るというプロジェクトを行いました。約1年間かけて毎月1度、半日の検討会を繰り返していきました。その時は、今でいうとデザイン思考と呼ばれているような手法や特許調査などを組み合わせてプロジェクトを進めていったのです。

その結果、新規事業の基本コンセプトとして、各々が自宅にいても同僚と一緒に仕事ができる通勤無用のバーチャルオフィスというコンセプトを打ち立てて、このバーチャルオフィスを実現する特許を12件くらい取りました。

プロジェクトの終了後、その企業では取締役会を開催して、本コンセプトと別のプロジェクトチームのコンセプト、この2つのどちらを新規事業に採択するかのコンペが行われたそうなのです。このときは、残念ながら別のチームが採択されてしまったのですが、10年経った現在、私たちが携わっていたバーチャルオフィスの方は、今話題のZoomなどのオンライン会議システムと同様のコンセプト、むしろそれよりも高度な機能の入ったコンセプトでした。

さらに、当時10数件の特許ポートフォリオの構築もしていたわけですから、もし当時私たちのコンセプトを採択していたとしたら、その企業はかなりの利益を生み出していたと思います。

さて、皆さんの会社のポートフォリオはどのような状況でしょうか?

もしかすると防御ポートフォリオしかない、という方もいらっしゃるでしょう。

しかし防御ポートフォリオはメーカーにとって最も重要です。まずは防御ポートフォリオだけでもしっかりと作り上げるだけで、特許の強さは変わってきます

将来もっと上の段階にいきたいと思ったときに、収益ポートフォリオや未来ポートフォリオに取り掛かっていけばいいのです。

 

(#2)へ続く↓

Vol.8(#2)「プロアクティブ特許出願メソッド」について

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