【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.8 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#2「スタートアップエコシステムと知財」(前半)
この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。
2021年3月19日に、ASCII STARTUP主催の『JAPAN INNOVATION DAY 2021』が開催されました。
同日15:00~のセッション『IPナレッジカンファレンス for Startup 2021』では、特許庁が運営するスタートアップ向け知財専門サイト『IP BASE』による第2回『IP BASE AWARD』の表彰式が行われました。
イベント後半には「スタートアップに必要な知財戦略」「スタートアップエコシステムと知財」をテーマに、IP BASE AWARD選考委員と受賞者によるセッションが行われました。
Vol.8では、パネルセッション#2「スタートアップエコシステムと知財」の前半の様子をお届けいたします。
後半はこちら↓
【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.9 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#2「スタートアップエコシステムと知財」(後半)
『IP BASE AWARD』は、スタートアップ部門、知財専門家部門、エコシステム部門の各部門で、知財全般に関する取組において、先進性・注目度などの観点からめざましい取組をした個人・組織を表彰します。各部門受賞者は、自薦他薦問わず選ばれたアワード候補から、選考委員会により選出されます。
Session2「スタートアップエコシステムと知財」(前半)
【モデレーター】
安高 史朗氏(IPTech 特許業務法人 代表弁理士 公認会計士)
【スピーカー】
鮫島 正洋氏(弁護士法人内田・鮫島法律事務所 パートナー 弁護士 弁理士)
加藤 由紀子氏(SBIインベストメント株式会社 執行役員 CVC事業部長)
柿沼 太一氏(STORIA法律事務所 弁護士)
スタートアップを支援する事務所は少ない
安高氏
まずは柿沼先生の簡単な自己紹介と、スタートアップに関わることになったキッカケなどもお伺いしたいと思います。
柿沼氏
STORIA法律事務所の柿沼と申します。5年ほど前に偶然、行政が行なっている無料相談でスタートアップのCEOの方と初めてお話したことが、スタートアップと関わることになったキッカケです。その方と色々と話を進めていくうちに、その方の考え方や頭の回転の速さなど、新鮮な驚きがたくさんありました。その当時は本当に小さなスタートアップ企業でしたが、彼の熱意に打たれ、私も何かお手伝いできることはないかと思ったのです。そこから事務所全体でスタートアップ支援へ注力し始めました。
安高氏
スタートアップ支援を決めた理由はありますか?
柿沼氏
その当時、スタートアップ支援をしている事務所は東京と比較すると関西ではまだ少なかったのです。「なぜ少ないのか?」を考えた時、スタートアップ支援は支援する側にとって大変なことが多いからだと感じました。スタートアップはスピード感も速く、また新しい事業モデルが多く、それぞれの事業をしっかり勉強しなければスムーズに話ができません。しかし、スタートアップは前に向かって課題を解決していこうという視点を持っている方ばかりで、私にとってはそれが面白くて新しく、最初はしんどい思いもしましたが、あえてスタートアップに注力しようと5年前からやってきました。今も大変なことに変わりはありませんが、ノウハウが溜まったことで以前よりスムーズに進められており、毎回新しい発見があり楽しいです。
安高氏
5~6年前は、スタートアップで知財法務をしっかりやるところも、それを支援する人たちも少なかったですよね。スタートアップ支援はやり始めると非常に面白く、またニーズもあり、やればやるほどハマっていく様な感覚は非常に共感します。
オープンイノベーションは両者にとって合理的なひとつの戦略
安高氏
加藤さんから改めて、柿沼先生をグランプリに選定された理由をお伺いしても良いでしょうか。
加藤氏
非常に僭越ではありますが、VCの立場で評価させていただいたポイントをご説明申し上げます。柿沼先生は経済産業省の「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」の作成に携わられていました。今や大企業にとって重要な選択肢となっているオープンイノベーションは、大企業とスタートアップの共存共営のうえ、お互いにWin-Winの関係になる契約や取り組み・仕組み作りを進める必要があります。しかし、どうしてもヒトやモノが無いスタートアップ側が不利になる傾向があり、そういった課題に対するガイドラインの策定をされた点が評価に値するのではというコメントが審査委員会で多く上がったのです。
安高氏
お話に上がりましたモデル契約書について、本セッションのテーマである「スタートアップエコシステム」と絡めて、柿沼先生よりお話をお伺いできればと思います。
柿沼氏
私たち専門家は、個々の依頼者に対する貢献は当然のこととして、それに加えてシステムとしての仕組みに対する貢献をしていくことが重要だと思っています。2018年にも経産省からモデル契約書のガイドラインが出ていますが、今回は新たに新素材やAIといったキーワードも盛り込み、共通の価値観として「オープンイノベーション」をベースにしています。契約というのは本来、当事者同士の利害を調整するための約束事で、絶対にこれが正しいというものはありませんが、考え方や交渉術など、モデル契約をどの様に進めるべきなのかをガイドラインをもとに掴んでいただければと思います。弁理士や弁護士と呼ばれるいわゆる士業は「こうすればもっと良くなるのではないか」という自分なりの考え方をそれぞれ皆さん持っていると思います。僕自身はそれを今回のモデル契約に落とし込んだつもりですし、各専門家の方が思うベストな「モデル契約」を個人でも発信していただければ、それがエコシステム構築に繋がるのではと常々思っています。
安高氏
経済産業省のモデル契約書策定には鮫島先生も関わられたと思うのですが、その中における柿沼先生のご活躍に関するお話をお伺いしてもよろしいでしょうか。
鮫島氏
今回のモデル契約書策定は「いかなる場合もこの通りではなければいけない」というものではありません。むしろ逆で、背景事情によって様々な契約がある中で、世の中に誤解を生まぬよう留意したのは、背景となる事例をきちんと具体的に定義することです。先ほど「大企業とスタートアップのWin-Winの関係」というお話がありましたが、少なくとも2年前まではその様な状況ではありませんでした。昔の発注元と下請けの様な関係性が散見される中で、もっと相互利益の関係性を構築できる様、モデル契約を作ることでドライブしなければいけないというのが我々の考え方でした。ですが、あまりにもスタートアップ側に優位なものになれば誰も使わなくなるので、そこのさじ加減が非常に難しく、委員会でもかなり議論したポイントです。最終的には柿沼先生にご意見をいただき…かなりご苦労されたのではないかなと思います。
安高氏
今回のモデル契約書は業界的にかなりインパクトがあったと思います。私も拝見させていただき、スタートアップにとても寄り添った内容だと感じたのですが、柿沼先生はこのモデル契約書を作るうえでどの様な思いがありましたか?
柿沼氏
大企業だから優れているとかスタートアップだから優れているとかはもちろん無く、オープンイノベーションは、単なるひとつの戦略です。ただ、オープンイノベーションを本当に進めたいのであれば、お互いにとって利益となる契約内容になっていなければならず、ヒトやモノ、資金も潤沢にある大企業側が自分たちにのみ有利な契約を結ぶのはおかしいと思っています。オープンイノベーションという戦略を選択する企業が、今回のモデル契約に沿って契約交渉を進めると、お互いにとってWin-Winの関係を構築できることを意識して策定しました。
後半はこちら↓
【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.9 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#2「スタートアップエコシステムと知財」(後半)
【第2回IPBASE AWARD 関連記事】
(1)開会式~スタートアップ部門グランプリによるスピーチ&インタビュー
(2)知財専門家部門グランプリによるスピーチ&インタビュー
(3)スタートアップ部門 奨励賞 受賞スピーチ&インタビュー
(4)知財専門家部門 奨励賞 受賞スピーチ&インタビュー
(5)エコシステム部門受賞スピーチ&インタビュー、総評
(6)パネルセッション#1「スタートアップに必要な知財戦略」(前半)
【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.6 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#1「スタートアップに必要な知財戦略」(前半)
(7)パネルセッション#1「スタートアップに必要な知財戦略」(後半)
【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.7 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#1「スタートアップに必要な知財戦略」(後半)
第1回 IPBASE AWARD イベントレポートはこちら↓