【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.9 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#2「スタートアップエコシステムと知財」(後半)
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Session2「スタートアップエコシステムと知財」(後半)
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【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.8 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#2「スタートアップエコシステムと知財」(前半)
【モデレーター】
安高 史朗氏(IPTech 特許業務法人 代表弁理士 公認会計士)
【スピーカー】
鮫島 正洋氏(弁護士法人内田・鮫島法律事務所 パートナー 弁理士)
加藤 由紀子氏(SBIインベストメント株式会社 執行役員 CVC事業部長)
柿沼 太一氏(STORIA法律事務所)
スタートアップは砂時計。速度感を持って相互理解を最大化する。
安高氏
モデル契約書は、様々な背景を想定して策定されていましたし、「相互利益の最大化」というキーワードはなるほどなと思いました。加藤さんは、大企業とスタートアップの共同事業を進められるお立場で、このモデル契約書はどの様に感じられましたか?
加藤氏
大企業の業務委託や開発委託をスタートアップが請け負うかたちの契約書をよく見るのですが、その様な従来の契約と比べると、今回のモデル契約書は相互利益の精神に乗っ取った契約書であると感じました。オープンイノベーションという方法が広がっているにも関わらず、実際には契約交渉がスムーズに進まなかったり、スタートアップの中に専門家がおらず交渉が不利に進む場合があります。オープンイノベーションを本来の意味で進めるために、スタートアップ側に寄り添った契約内容になっていることは、私からすると好ましく感じました。
安高氏
「オープンイノベーションと契約」が本セッションの大きなテーマかと思いますが、鮫島先生は契約交渉の中で気をつけていることや、スタートアップへのアドバイスはありますか?
鮫島氏
スタートアップは砂時計なので、全ての業務をスピードアップして進めていかなければなりません。正直、大企業と契約交渉をしている時間を十分に取れるところは少ないと思います。今回のモデル契約まで大企業側がスタートアップの様々な状況を理解し譲歩してくれれば、オープンイノベーションはどんどん進みますし、それはスタートアップだけの利益になるわけではありません。大企業側もスタートアップとうまくリレーションを組んでいかなければ果たして存続できるのかという状況で、契約におけるリスクヘッジ感覚を変えていただかなければオープンイノベーションは進まず、それが無くとも生き残れる日本の大企業は少ないと思います。2021年時点でこのモデル契約は少し突出している感がありますが、組織委員会の座長である私の意図としては、2025年ごろには当たり前となるものを世の中に出したかったのです。
安高氏
今回のお話を聞いて、大企業側が真の意味でオープンイノベーションを理解して取り入れようとしているのかどうかが試されているなと感じました。
知財と契約は両輪で重要
安高氏
柿沼先生が今後、専門家として取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
柿沼氏
基本的に新しいことが好きなので、これからも新しいことをしていきたいと考えています。あとは情報発信ですね。数年前、知財や特許のことを発信する弁護士や弁理士の方はあまりいらっしゃいませんでした。色々な方とディスカッションをしていく中で、個人で発信していくことも必要なことだと感じ、初めは怖かったけれど情報発信を始めました。知財をわかりやすく発信することは、専門家の方はやろうと思えばその日からできることで、また社会に強く求められていると思います。スタートアップの方は情報感度が高い方が多く、専門家が発信することで繋がる機会が増えると思います。また、今回のモデル契約策定のように行政が行うことについて、専門家にお声がけいただけたら嬉しいなと思います。実務を通じ、蓄積したものをフィードバックし、それが回り回ってきて、またそれを実務に活かして…というサイクルが、私たち専門家ができる社会貢献だと思っています。
安高氏
実務を続けながら情報発信をする…非常に地道な作業ですが、大切なことですよね。加藤さんは投資家のお立場からどのようにお考えでしょうか?
加藤氏
ちょうどこの機会に柿沼先生のブログを拝見しました。非常にわかりやすく知財のことを書かれていて、楽しく読ませていただきました。スタートアップは立ち上げの際に知財意識が高くなく、そのまま進むと後々、自分たちの企業価値を損ねることになると思います。今日は知財戦略が大きなテーマでしたが、経営戦略の両輪で早い段階から先生のような専門家の方に相談することで、エコシステムも先生のような専門家の皆さまのご活躍により進んでいくのだと思います。
安高氏
専門家の皆さんや個人の情報発信がスタートアップエコシステムの促進に関わってくるのだと思います。鮫島先生はどのようにお考えですか?
鮫島氏
今回のセッションでは「知財戦略」を大きなテーマとして話してきましたが、本質は「知財と契約の融合」です。数年前からその様な思いを持っていましたが、今ようやくそこが重要だと世の中が気づき始め、これを首都圏だけでは無く地方にも進めて行かなければなりません。単純に私が支店を広げるだけではオープンイノベーションとは言えず、各地の志を同じくする専門家と連携ネットワークを築きたいと思っています。各地域、どこのスタートアップでも地元の専門家にすぐに相談できる仕組みを作ることが、私ども専門家が日本社会に一番貢献できるところだと思います。
安高氏
現在、神戸にいらっしゃる柿沼先生はどのように思いますか?
柿沼氏
専門家がやるべきことはたくさんあるのですが、とにかくスタートアップを支援する人が足りていないことを実感しています。人数にしても、知識量にしても、とにかくスタートアップを支援する専門家の層を分厚くする必要はあると思います。
安高氏
それでは最後に、鮫島先生より締めのお言葉を頂戴したいと思います。
鮫島氏
本日の大きなテーマは「知財と契約は両輪で重要」ということです。投資家が初めの段階で知財を意識するかどうかで、スタートアップのバリュエーションが変わってきます。知財はスタートアップのバリュエーションを上げるために必ず必要なものなのに、それが今までは軽視されていて、現在少しずつ考え直されています。その動きをIP BASE AWARDを通して促進していきたいと考えています。
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【知財イベント】『JAPAN INNOVATION DAY 2021』レポート〜Vol.8 第2回『IP BASE AWARD』パネルセッション#2「スタートアップエコシステムと知財」(前半)
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