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スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #6

連載記事

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One ip 特許業務法人の弁理士・澤井周さんの連載第二弾!

前回の連載では「スタートアップのIP経営」について、知財戦略の考え方や特許取得にかかる費用などIP経営の基礎をご紹介してきました。これから始まる連載は、基礎から一歩ふみこんだ実践編。スタートアップ経営者が知財を戦略的に有効活用するための思考の整理方法や出願への具体的な進め方をご紹介します。今回は大企業との協業における知財の取扱いについてです。

スタートアップの事業展開において大企業との協業が、事業を加速できるチャンスになるシーンがあります。その際、秘密保持契約や共同開発契約等の各種契約を大企業と交わすなかで、知財に関する契約内容においてトラブルが見えるところ、見えないところで頻発しています。

今回はOne ip特許業務法人の坂本氏をゲストに迎え、大企業との協業において具体的な事例を交えながら、特に知財面で注意すべきこと解説します。

澤井 周氏
One ip特許業務法人 パートナー
弁理士 博士(工学)

東京大学工学部産業機械工学科卒業、 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了。大手素材メーカー、日本学術振興会特別研究員、都内特許事務所、 企業知財部を経て、2019年、R& Dと事業戦略とに密接した知財支援をさらに進めるべく、One ip特許業務法人に参画。企業知財部では、発明発掘、 出願権利化、知財企画、知財戦略支援、 研究者への知財教育等を担当。新製品・ 新事業モデルを見据えた知財戦略・特許網構築の支援に尽力。One ip特許業務法人では、主にクライアントの知財戦略支援、 クライアント知財管理、所内管理を担当。

坂本 真一郎氏
One ip特許業務法人

東京理科大学応用生物化学科卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科バイオ知財コース博士課程単位取得退学。2005年よりスタートアップにてバイオ、人材、地域活性等、 多分野での事業開発に従事。事業開発や各種資金調達、知財戦略、 大企業との連携構築等で複数のスタートアップを支援した後、 2019年、 スタートアップのIP経営と知財支援の拡大を実現するため、 One ip特許業務法人に参画。スタートアップの事業戦略と企業価値向上に寄与する知財戦略支援 、権利化を担当。

スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #5

≪第一弾『スタートアップのIP経営』に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは

【最新の連載はこちら】

お互いに何を求めるのか

スタートアップがプロダクトのPoC等のために、大企業と協業を行うケースは多いと思います。その際に大企業とスタートアップとの間で結ぶ契約には、どのようなものがあるのでしょうか?

まず協業を模索する段階においては、NDA(秘密保持契約)を結ぶことが多いです。それを起点に情報交換を行い、互いの強みを活かしたシナジーが生じるかどうかを検討します。検討の結果共同でプロダクトやサービスの開発を行う場合は、共同研究開発の契約を結ぶことが一般的です。場合によってはスタートアップの持つ特許のライセンスの話になるかと思います。協業対象の企業と突っ込んだ話をする際にNDAは必須ですが、その後は、お互いに何を求めるかや、スタートアップ側のプロダクトの段階などによっても、共同開発契約だったり、業務委託契約など、どのような契約を結ぶかが変わってくると感じています。

知財関連で特に重要になる条項はありますか?

例えば、NDAでいうと秘密情報の定義をする条項ですね。スタートアップ側においては、出来るだけ手間がかからず多くの情報が秘密情報になるような条文を提示した方がいいと思います。基本的にスタートアップ側が開示することが多いかと思うので、可能であれば、話したことは全て秘密情報になるくらいの定義の方がいいと思います。その情報を何に使うのかも把握し、目的外使用のように他のことに使われないようにしっかり守ることも重要だと思います。どうしても大手との協業ではスタートアップ側の立場が弱くなることもあると思いますので、全ては見せずに限定範囲だけを見せながら進めるのが良いと思います。

大手との協業の話が出た時点で、弁理士や弁護士の先生に相談した方がいいのでしょうか?

最終的な判断はスタートアップの経営者がするべきだと思いますが、事業の判断を適切にするための材料を弁理士が提供することはできるのかなと思います。普段からコミュニケーションを取っている弁理士がいれば、その弁理士に「情報を開示することでどのようなことが起こりうるのか?」「どういった見せ方が望ましいのか?」など聞いてもらうと参考になるかと思います。

どうしてもトラブルになりそうな時は弁護士や弁理士に相談してもらった方がいいいのかなと思います。トラブルもすぐ解決できるものから拗れているものまで様々ですが、スタートアップ側で問題の深刻さを測るのも難しいと思うので、それぞれのビジネスを理解したうえでリーガルなチェックを弁理士にしてもらうのが良いかと思います。

組織としての大手企業の性質を知っておく

大手とスタートアップの協業で、過去に起きたトラブルの事例などはありますか?

特にIT系のビジネスモデルに多いのですが、スタートアップが提案したアイデアを大手企業が参考にして似たようなプロダクトやサービスがローンチされたりすることがあります。去年も、某大手企業がとあるスタートアップと協業を画策しつつも、そのスタートアップが展開しようとしていたサービスと酷似したサービスをローンチしたということがありました。また大手企業と話をする際は、担当の方がどれだけ信頼できるのか?熱意を持ってくれているのか?といった、カウンターパートの方の人柄もよく見た方が良いと思います。

大企業との協業でスタートアップが気をつけるべきことはなんですか?

スタートアップからすると「大企業と協業」という話が出てくると嬉しくなってしまいがちですが、そこで何を得られるのかを冷静に検討した方がいいです。組織としての大手企業の特性を知っておきながら、何かしら事業上の狙いのようなものがしっかり考えられていて、それを担当者ベースで握れるくらいの仲になるのが何気に重要なのかなと思います。契約書の内容に加えて、そこまで考えておいた方がスタートアップにとって有意義な連携になるでしょう。
大企業と有意義な提携を進めるうえでは、契約書はもちろん大事なのですが、契約書だけで何とかなる話でもありません。ビジネス上の判断で、重要な情報を開示した方がよいタイミングもあるでしょうから、複合的にジャッジしていく必要があると考えています。

全ての大企業が上述したようにスタートアップの知財を搾取するような行動に出るわけではなく、スタートアップとの協業により事業を加速させるような企業においては、むしろそのようなトラブルを起こさないよう、スタートアップと綿密なコミュニケーションを取り、互いの利益が出るように努めているようです。ただ一方で、大企業側の人事の事情で物事が動かなくなったり、担当者ではなく決裁者によって大企業側に有利となるような進め方をするようなこともあります。そういう意味では、単なる契約書の問題だけではなく、相手の特徴を見極め、互いの目標を明確に定めることが重要だと思います。

弁護士や弁理士の先生にはどのように契約に関わっていただくべきでしょうか?

顧問契約のような形で、契約面や法務面で色々と話ができる人を創業当初から用意しておいた方がいいですね。特に、大企業との協業やサービスへの展開などそういった場面が必ず出てくるとわかっているスタートアップであれば、大企業の特性やビジネスについて理解した上で契約について相談にのってくれるような弁理士や弁護士が最初からいた方がいいと思います。

『スタートアップの知財戦略〜実践編〜』は今回が最終回。来年はまた新たな連載を開始予定です。今年も1年YES!IPをご愛読いただきありがとうございました!

スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #5

≪第一弾『スタートアップのIP経営』に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは

≪最新の連載はこちら≫



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