スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である
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この連載では、スタートアップに特化した知財支援サービスを提供するOneip特許業務法人の澤井周さんに『スタートアップのIP経営』について、毎週お話を伺っていきます。『知財ってよく解らないなあ』という方はもちろん、スタートアップ経営者の方で『IP経営に興味がある』という方へ、この連載が、気づきやヒントになれば幸いです。
澤井さん profile
弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。
≪スタートアップのIP経営に関する連載一覧≫
・スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?
・スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?
・スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方
・スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用
・スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは
・スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは
今回の記事では、ベストセラー『起業の科学』の著者である実業家・田所雅之さんのツイートを参照しながら、スタートアップはピッチで何を話すべきなのか、知財はアピールポイントに成り得るのかについて、澤井さんにお話を伺います。
スタートアップのショートピッチ(3分~〜5分)
— Masa Tadokoro / 田所雅之 (@TadokoroMasa) 2020年2月3日
で何を伝えるべきかまとめて見た
これまで何百社のスタートアップのピッチ指導をしてきましたが、以下の順番で伝えて行くと格段に良くなります。 pic.twitter.com/1tkBW9wvwB
今回はベストセラー『起業の科学』の著者である実業家・田所雅之さんのツイートを参照しながらお話を伺いたいと思います。まず、スタートアップはピッチの際に何を話すべきだと思いますか?
ピッチは3~5分という短い時間で事業戦略を伝えなければいけません。ピッチの際に話さなければいけないことは事業戦略のサマリーになるのです。ですので、このようなピッチの内容を考える事は事業戦略を明確にする事に繋がります。
事業戦略を明確にすることは、知財にどう関係するのでしょうか。
何を守りたくて特許や商標を出すのかを考えた時、事業にとって何かしらの意味がないと知財で守っていても意味がありません。事業展開をするうえで知財は重要なアイテムになります。また、マーケットを広げていくことになると、そのマーケットでの支配やプライオリティを強化するのに知財は役立ちます。
田所さんの仰っていることは事業戦略に紐づいたものになっています。例えば『①一言で言って自社のサービスは何か?』はスタートアップが解決するべきソリューションそのものです。つまりそのソリューションを知財に置き換えると発明そのものになります。そのソリューションがコンセプトレベルなのかテクノロジーレベルかの違いはあるものの、何かしら知財に関連するはずです。このように、知財を考えるには、やはり事業戦略をベースに構築していくべきだと、田所さんのツイートを見てより強く感じました。
知財戦略は事業戦略と紐づいたものでなければいけないのですね。
ですが、何を知財にするべきなのかと悩むスタートアップも多いのではないでしょうか。
基本的には、知財を考えるための全ての出発点は事業戦略です。事業戦略がある程度かたちになっていれば自ずと守らなければいけない知財がわかってきます。事業戦略がクリアになれば、知財戦略もクリアになっていくと思います。
少し話は変わりますが、ピッチや投資家向けの資料の内容に知財の話を盛り込むことで、プラスに働く場合もあるのでしょうか。
事業戦略が軸にあるとしたらそれをカバーするものが知財の戦略になります。ピッチも誰に話すかによって内容も変わります。例えば一般的に公開されたピッチで知財の話をしても特に刺さらないと思いますが、一方で、投資家やVCに話す時、いわゆる資金調達の場面では知財が有効になるケースがあります。投資をする側からすると、スタートアップの新たなアイデアやそれを実行する力を評価するのはもちろんですが、スタートアップの経営リスクも非常に気になるのです。具体的には、『他社や体力のある大企業がライバルになった時、あなたのビジネスモデルは模倣されないの?重要な部分で勝てるの?』という感じです。それに対して、例えば、事業を進めるうえで仮想敵から身を守るためにビジネスモデルの保護やブランド認知力の向上などの知財戦略をしっかり行なっているとアピールするのは、投資家やVCに非常に刺さると思います。リスクヘッジをきちんとしているだけでなく、自らの競争力の源泉を認識しているというアピールをするのに、知財は心強いアイテムになってくれます。
知財で対策をしているという点が、投資家やVCに刺さるのですね。
あとは、大企業が一緒に協業したいと言ってきた際も知財は有効です。事業戦略を一緒に進めるうえで自分たちの創造したテクノロジーはきちんと特許で守っていて、他の特許も侵害していない、知財ケアをしていることは大企業からすると非常に魅力的に見えます。協業するうえで懸念点が少なくなるのですね。将来的にM&Aとなった際も知財面で安心できていれば比較的にスムーズに進みます。『IP経営をしている』それ自体がアピールポイントになります。その上で、スタートアップの魅力が知財として可視化されていることで、大企業の目にも留まりやすくなるので、知財は協業のためのソーシングとして触媒のような役割も果たすと思います。
ピッチの際に、知財をうまくアピールするにはどのように盛り込むのが良いでしょうか。
ピッチで知財を全面的に前に出す必要はありません。投資家やVCに突っ込まれた際に、武器としてちゃんと特許を取っていること、リスクヘッジしていることが説明できれば良いと思います。知財そのものに価値はなく、他人が真似したいと思った時に、初めて参入障壁として知財が価値になります。競合と比較した際の優位性を担保し、マーケットをコントロールするアイテムとして特許を持っている等の知財戦略を持っていることが投資家の安心材料になります。事業が成長していく中で、その成長を妨げないように支えているのが知財である、そのようなイメージを持っておくのが良いと思います。
次回は、『スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方』についてお送りします!
≪スタートアップのIP経営に関する連載一覧≫
・スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?
・スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?
・スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方
・スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用
・スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは
・スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは