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スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #2

連載記事

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

One ip 特許業務法人事務所の弁理士・澤井周さんの連載第二弾!前回の連載では「スタートアップのIP経営」について、知財戦略の考え方や特許取得にかかる費用などIP経営の基礎をご紹介してきました。今回の連載は、基礎から一歩ふみこんだ実践編。スタートアップ経営者が知財を戦略的に有効活用するための思考の整理方法や出願への具体的な進め方をご紹介します。

澤井さん profile

弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。

≪第一弾『スタートアップのIP経営』に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは

【最新の連載はこちら】

情報公開前に特許出願をしよう

先に特許を公開することで起こりうる不利益とはどのようなものなのでしょうか?

特許は、「新規性」や「進歩性」がある発明であること、すなわちざっくり言えば、新しく、誰も簡単に思いつかないものであることが求められています。その「新規性」は、特許出願をしたときよりも前に世の中で公開されている技術と同じであるかどうかで判断されます。そのためネットニュースやプレスリリース、講演会やピッチなどで発明の中身をまるまる公開してしまうと、特許出願をして審査をするとなった際に、自分が公開してしまった内容をもって新規性がないと審査されてしまい、その結果、特許が取れなくなるということが起こります。自分が公開してしまったために自分の特許が取れなくなる。それが考えうる不利益としては一番大きなものになります。

一年以内であれば追加的な出願も可能

プロダクトのリリース日が近い場合はどのような手立てが考えられますか?

例えば、プロダクトの販売開始やサービスのローンチ、その他にも論文発表やピッチなどで公開しなければならなくなった場合は、とにかく事前に特許出願することが必要になってきます。ですので、その際は発表前になんらかの形で出願内容を書類にまとめて急いで出すことが必要です。ただ、サービスとしてリリースする内容をそのまま出願書類に盛り込むだけだと、権利として取れる範囲が狭くなる恐れもあります。出願後に、まだ開示していないような機能や今後プロダクトに組み込むかもしれない新しいアイディアなどは、出願から一年以内であれば「優先権主張出願」という追加的な出願をすることで入れ込むことができます。それを行うことで、急いで出願した後でも、権利範囲を広く確保することが可能です。

出願をすることで自分たちが考えた証明になる

特定のクライアントにのみ開示をする場合でも、やはり特許出願は必要なのでしょうか?

例えばNDA(秘密保持契約)を結んでいるクライアントの場合、発明の内容が秘密保持の対象として扱われるような契約内容であれば、その時点では新規性は失われません。しかし、その内容を開示することにより、相手にとっても開示内容が新しい情報としてインプットされてしまいます。そうすると、場合によっては開示した内容の知財の帰属が曖昧になり、共同出願をせざるを得なくなってしまう(権利が相手側にも属する)可能性があります。そのようなリスクを避けるために、NDAを結んだ特定のクライアントであっても、できるだけ相手への開示前に特許出願をしておいた方が良いでしょう。先に出願をしておけば、開示した内容が自分たちが考えた内容であるという証明になります。あとでトラブルとならないためにも、新しい発明はできるだけ相手への開示前に特許出願をすることで、リスクを減らすことができるのではないかと思います。

非常手段として知っておいた方がいい制度

特許を出願する前に既に発明の内容を開示してしまった場合は、どうすれば良いのでしょうか?

特許法で規定されている制度の一つに「新規性喪失の例外」というものがあります。これは出願日から一年前以内(特許の場合)に自分が公表した発明であれば、それを新規性の判断基準にしないことができる制度です。例えば出願前にどこかの講演会で発表したという場合、新規性喪失の例外を受けたいと特許庁に出願し、その出願からだいたい30日以内に、この講演会で開示したため新規性を失ったという証拠をつけて証明書を特許庁に提出することがで、その講演会により自らの特許出願が新規性を失うという不利益をなくすことができます。

ただし、新規性喪失の例外の適用の利用はかなりリスクが大きく緊急的な非常手段です。様々なリスクが考えられますが、例えば、すでに公表した内容と同じようなものを誰かが勝手に出願した場合、出願内容によっては、その勝手に出された出願により自分の特許が取れなくなる場合があります。新規性喪失の例外はあくまで自分が公表した内容のみに適応されるため、他人が出願した内容は対象外です。そのため、自分のアイディアにもかかわらず特許が取れないということも出てきます。

もうひとつのリスクが、どこで新規性を失ったかの証拠を原則としてすべて出さなければならないことです。もしSNSで誰かがシェアしてしまった場合には、シェアされてしまったものも全て証拠として出さなければならなくなる可能性も孕んでいます。証拠を全て集めるだけでも大幅な時間と費用がかかる可能性もあります。
また、更なるリスクとして、新規性喪失の例外は、日本とアメリカと韓国では使えるのですが、中国やヨーロッパで出願したい場合はほぼ受けられません。国によっては新規性喪失の例外が適用できない場合もあります。
出願が公開よりも後回しになった場合にしょうがなく使用する制度という認識でいるのがいいと思います。

なるべく使わないように気をつけるべきだけれど、知っておくと良いというような制度ですね。

そうですね。初めて特許出願をするお客様が使うことが多いです。「プロダクトをリリースしたのですが、出願していなかったので今からでも間に合いますか」というとき、新規性喪失の例外を使って問題なく特許を取れた事例もあります。しかし先ほどもお話しした通り、この制度はあくまでも非常手段で、非常にリスクの高いものであるということは認識しておいた方が良いと思います。

次回の『スタートアップの知財戦略〜実践編〜』は11月20日(金)に公開予定です。お楽しみに!

スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #1

≪第一弾『スタートアップのIP経営』に関する連載一覧≫

スタートアップのIP経営①弁理士/澤井さんの経歴

スタートアップのIP経営②スタートアップとIP経営

スタートアップのIP経営③スタートアップの知財支援とは

スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?

スタートアップのIP経営⑤最初が一番大切な理由

スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?

スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である

スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方

スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用

スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは

スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは



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