スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #1
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One ip 特許業務法人の弁理士・澤井周さんの連載第二弾!前回の連載では「スタートアップのIP経営」について、知財戦略の考え方や特許取得にかかる費用などIP経営の基礎をご紹介してきました。今回の連載は、基礎から一歩ふみこんだ実践編。スタートアップ経営者が知財を戦略的に有効活用するための思考の整理方法や出願への具体的な進め方をご紹介します。
澤井さん profile
弁理士・博士(工学)。素材メーカ→博士課程→特許事務所→企業知財を経て、Oneip特許業務法人に参画。ドローンを中心にAI、IoT、IT、リアルテック関連などのクライアントの知財支援、コンサルティング、出願権利化業務を行う。
スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #2
≪第一弾『スタートアップのIP経営』に関する連載はこちら≫
・スタートアップのIP経営④スタートアップに知財は必要なのか?
・スタートアップのIP経営⑥お金がない!!シード期の知財費用はどうする?
・スタートアップのIP経営⑦ピッチで何を話すべき?事業戦略は知財戦略である
・スタートアップのIP経営⑧まずはできるところから!IP経営の始め方
・スタートアップのIP経営⑨特許を取るプロセスと権利化にかかる費用
・スタートアップのIP経営⑩利用したい!!特許庁等のお金に関するおトクな制度とは
・スタートアップのIP経営⑪知っておきたい!!特許庁等の審査に関する制度とは
まずは何を特許に出せばいいのか
いざ特許を出そう!と思った時に「何を特許に出せばいいのか?」と迷う方も多いかと思います。そもそも、どのような技術が「特許」として認められるのでしょうか?
まず特許の対象になるのは、特許法の中では「発明」と定義されています。「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(第2条第1項)と定義されています。一般的な自然現象そのものではなく、何かしらのアイディアを技術的な方法でかたちにしたものが「発明」になり、特許性が認められると「特許」になります。ドローンで言えば機体そのものやプロペラはもちろん、ドローンを自律飛行させるシステムやドローンを検知するシステムなども特許になり得ます。何らかの新しい課題を、テクノロジーを使って解決するアイディアがあれば、それは特許になる可能性が十分にあります。
特許は新しい技術でなくてもいい
「新しい課題を解決する」これが特許出願のポイントでしょうか。特許を出す際は、今までにない新しい技術である必要がありますよね?
その発明が特許になるかどうかは審査官が判断します。審査官の判断基準となるのが「既存の技術と何が違うのか?」という点です。その技術が、これまで誰も思いつかなかった課題を解決するものだったり、技術と技術の組み合わせで生まれた新しい技術だったりすると、特許になる可能性が十分にあります。特許を出願するのに全く新しい技術や高度な技術である必要はありません。みんなが思いつくようなありふれている技術同士の組み合わせが、実は特許として一番強力なものになったりします。「後で考えたら誰でも思いつきそうだけど誰もやらなかった」そういうところでうまく特許を取れると、非常に強い権利になることもあります。
「ビジネスモデル特許」について
近年、AIやIoTを活用したサービス事業を展開する企業が増えていますよね。そうした流れの中で「ビジネスモデル特許」というキーワードを耳にするのですが、これは具体的にどのような特許のことを言うのでしょうか?
「ビジネスモデル特許」は特許庁では正式には「ビジネス関連発明」と言われています。これは、そのビジネス方法がICT(情報通信技術)を利用して実現された際に「発明」として特許出願できるというものです。例えばECの販売管理サービスや銀行のオンラインバンキングなどもこれにあたります。例えば、今まで人が行っていた作業を機械に置き換えて、ICTを利用してミスなく効率的に自動化する、そういったものが「ビジネスモデル特許」になります。最近ではSaaSのWebサービスやアプリを提供しているスタートアップ企業などが、ビジネスモデル特許を出すケースが非常に多くなってきています。
経費精算や労務管理はWebサービスの利用が当たり前になりつつありますよね。あれも「ビジネスモデル特許」のひとつなのですね。
実際に多く利用されているサービスでマネーフォワードを例にあげます。マネーフォワードは銀行の通帳やクレジット決済などの取引明細データを自動で取得し各取引の特徴量を生成します。特徴量とは簡単に言えば「どこで何を買ったか」の情報ですね。その特徴量を機械学習によって作られた分類機に入力すると、例えば電機店で買い物をすれば「消耗品」、鉄道会社なら「交通費」といった風に、勘定科目を自動で分類してくれます。これと同じことを人がやるとなると一つ一つ通帳を見て、領収書を仕分けて分類しなければいけません。こういった経費精算や労務管理など、人が時間と手間をかけて行っていたことをシステムで自動化することが、ビジネスモデル特許の一例になります。
スタートアップの知財戦略〜実践編〜 #2